03
「もっと広い世界を知った方がいい」
そうノアは言った。
だから私はこのつまらない学園に通っている。
私はノアだけがいればいいのに。
だんだんと寒くなってきて、今日とうとう雪が降った。
あと何回この校門を通り抜けることになるのか、と考えながら歩いていると、クリス様と目があった。
相変わらず睨まれる。
彼は私が邪魔なのだと思う。
クリス様の周りには珍しく人がいなかった。
彼は何故かずんずんとこちらに近づいてきた。
そして私の手を掴むと、朝の時間はあまり人がいないグラウンドの近くへと連れて行かれる。
「お前は今のままでいいと思うのか?」
クリス様が話しかけてきたのは実は初めてではない。たまに話しかけにきては同じようなことを言う。
いつもはこれで終わりのはずが、今日は違った。
「ノア・フランバーは隣国の姫と結婚する。これは決定事項だ」
そうか、ノアは結婚するのか。
その時初めて、ノアが誰かのものになってしまうことがあるのだと知った。
「お前はどうするんだ。自分で決めろ」
クリス様がそうしたことを言ってくるのは初めてだった。
「ノアが結婚したら、私はノアと一緒にいられない?」
彼は心底嫌そうな顔をして「当たり前だ」と言った。
そうか、当たり前なのか。
ノアがいらないと言ったら私は誰にも必要とされていない。
どうしたらいいだろうか。
「私を必要としてくれる人を探さないといけない」
私が小さな声で呟いた言葉を、クリス様は拾った。
「そうだ!それが必要だ!!」
クリス様が私に初めて笑いかけてくれた。
私も思わず笑った。
クリス様が頭を撫でてくれた。ノア以外の人が私に触れてくれた。
「お前は笑った方がいい」
クリス様はそう言った。
「それから、必要としてくれる人を探すなら、まずは人と関われ」
あ、この人、私のこと嫌いってわけじゃなかったんだ。
「クリス様は、気持ち悪くないのですか?この色」
思わず聞いてしまった。
「難儀な話だと思う。お前は何も悪くない。俺は気持ち悪いとは思わない。だから、黒を嫌悪すること自体を変えていく必要があると考える」
クリス様の冷たいと思っていたブルーの瞳はただ真っ直ぐなだけだったのかもしれないと思った。
黒を嫌悪する風習は、初代の王様から由来すると言われる。
賢王だった王様の元に天から、漆黒の髪と瞳を持った女が降りてきて、王様は彼女に心を奪われた。そこから、災難が降りかかり、国が乱れた。
それから黒を纏う人間は災厄だという考えが生まれた。
これを聞いて、この漆黒の髪と瞳の女は私と同じように異世界から来たのではないか、と思った。
そして、同じような存在の私は、災厄のもとと思われても仕方ないのだ。
でも、この未来の王は、そうは思わないらしい。
ノア以外はみんな私にとって同じだった。
私は存在を認めてくれていない。だって、私はここの世界の人間ではないから。
でも、クリス様は違うみたいだ。
私を認めてくれた。
悪くないって、気持ち悪くないって。
笑っていいよって言ってくれた。
ノアだけじゃなかった。