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01

黒い髪に、黒い瞳、それから孤児。

空気のような、むしろ疎ましい存在の私に声をかける人間はいない。


ここは、国が運営する唯一の由緒正しき学校であるからだ。

15歳から18歳の貴族の子女が通っている。


清掃が行き届いている廊下を抜けて、階段を下りようとしていると、下から登ってきた人と目があった。


普段ならすぐにそらされるはずの目線はしっかりと私に向いたままで、すぐに相手の名前が浮かんだ。


クリス様だ。この国の王子様。


私もクリス様の方をみた。いつもは優しげな瞳が、細められ、眉もよっている。

冷たいブルーの瞳に睨まれると、心底悲しい気持ちになる。


そして改めて感じるのだ。


ー私がいかに不要な人間であるか


ということを。


クリス様の周りにはいつも人がいて、私は息を殺して、その横を通り過ぎた。

そしてホッと一息つく。


私の存在を無視しない人間はこの学園には彼と教師以外のなものだから、すごく神経を使った。


階段を下りて、体育館の二階にでた。

そこからさらに普段は使われていない少し古びた階段を下りた場所が私の定位置だ。


体育館裏なので、少し薄暗いが、行くのがめんどくさい場所にあり、さらにここに行くには錆びついた階段を通らなければならないことから誰もこない。


私はいつもここで一人お昼ご飯を食べる。


「お弁当おいしい」


一人つぶやいて虚しくなった。

でも、そうでもしなくては、私は学園内で一日中何も話さずに終わる。


午後の授業も終わり、迎えの車が来て、私はやっと苦しい世界からでた。


だからといって外が優しい世界というわけでもない。


「おかえりなさいませ、シェリー様」


車から降り、城かと思う程大きな屋敷に入ると、家令のセバスチャンが迎えてくれる。

セバスチャンは本名じゃない。名前を知らないからセバスチャンと呼んでいるだけ。


「ただいま」


それだけしか会話しない。

それ以上キャッチボールは成立しないのだ。


前は少し頑張っていた。


学園で起こったこととか(私は何も関与してない)を話してみたが「左様でございますか」と返されるだけだ。

つまらなすぎてやめた。


部屋に戻って、ソファーに寝転がる。


私は孤児という扱いにも関わらず、こんな大きなお屋敷に住んで、貴族しか在籍することができない学校に通っている。


私は異世界から来た人間で、それを拾ってくれた貴族の養子になった。

だから、私はここにいる。

本名は、佐々木知愛理ささきちえり。ちえりが言いづらいからシェリーと呼ばれている。


しかし、黒髪に黒い瞳。

黒が不吉とされているこの世界では、私は気味の悪い存在であった。

本来ならば石でも投げられるような存在であったが、大貴族の後ろ盾があるために、空気のような存在で押しとどめられている。


7歳でこの世界きた私は、もう向こうの世界のことは遠い記憶のように感じている。

今年で18歳になるから、こちらでの生活の方が長くなってしまった。

帰れることなら帰りたい。でも道は何も見つかっていない。


ただここにいると、私はなんの価値もない人間だと思い知らされる。

だから逃げ出したいのだ。




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