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1-9 新しい住処

 ガタンっと揺れて眼を開けると、また車の中に居た。

 ここが車の中だと理解したのは、ここ数日で感じた振動の他に見たことのある光景があったからだ。


 金枠に支えられた分厚い布と砲座が突き出た天窓。

 それはアンナが使っていたもので、間違いなくトラックに備えられたものだった。


 車が発進した事に気付かないのは、二度目だ。

 けど、だからと言って今度は驚かなかった。


 あの地獄みたいな施術の後で、力尽きて、気を失っていたのだから、気付かないのは仕方がない。


 全く何で足の傷を消毒するだけで、あんなに痛いんだろう。

 間違いなくあの医者は拷問を生きがいにしてるに違いない。


「お、起きたみたいだな」


 声がして、隣を見るとジュリアンが箱を椅子にして、銃の部品をブラシで磨いている。

 敵意らしいものは無く、寧ろ感心したようにこっちを見ていて、不思議な気分だ。


「すげえな。お前。姉ちゃんと喧嘩したんだって」


 眼をキラキラさせながら、彼は言った。

 尊敬されるような眼差しに引っかかったけど、彼の言った言葉も何だか不思議な感じがする。


「喧嘩……?」


「違うのか? 姉ちゃんは喧嘩したって言ってたけど」


 あの死神は、俺が命を懸けた殺し合いを喧嘩というのか。


「俺だったら姉ちゃんと喧嘩なんかしねえよ。先ず間違いなく命がけだからな」


「そうか。じゃああれも喧嘩だ」


 此方は命懸けで戦ったのに、あっちは喧嘩感覚というのは何だか不愉快だけど。


 いや、そんな事はどうでもいい。もっと重要な事がある。

 気を失っている間に状況は変わったはずだ。それを訊かないと。


 俺が寝ている間に悪化したのか好転したのか。

 一先ず、殺し合った奴の居所を知るべきか。


「ジェーンは?」


「もう治療は御免だって大慌てで飯探しに行ったぜ」


「もう?」


 俺は起き上がるだけでまだクラクラするのに、あれは動いているのか。

 足を覗けば、あっちの方が重傷だったはずなのに、一体どうしてそこまで元気なんだろうか。


「依頼はどうなった?」


「普通にこなしたぜ。だって破壊神の前に密集陣形取る馬鹿がいたんだからな。アンナの姉御がもう涎垂らしながらぶっ放してたぜ」


 と言えば、今度は砲座の裏に居たアンナがひょいと顔を出す。 


「おいおい、私はそこまで喜んでないよ。ちょっと特性の榴弾をぶち込んだだけさ」


「それで地上部隊は壊滅、航空隊の方はどうやっても軍隊とは言えなかったから、もう簡単に崩せたぜ」


「そうか。良かった」


 俺のせいで依頼が失敗、となったら何をされるか分かったものではない。

 エマの治療以上の事をされるとなったら、さっさと逃げだす所だった。


 そう言えば俺の装備はどうなっただろうか。

 手で辺りを探ってみるけど何もない。


「俺の装備は?」


「バーンズが治す予定だぜ。……なあ?」


「?」


「何か、変わったか?」


 唐突に言われて、俺は首を傾げるしかなかった。

 俺に習う様に、訊いたジュリアンも首を傾げる。


「自覚ないのか? うーん。ほら、お前結構話すようになったじゃん」


「必要な会話はする」


 姉妹揃って、話すと同じ反応をするんだな。


 話さないというイメージがあるみたいだけど、俺は良く話す方だ。

 バーンズの時も、それなりに話していたのが証明だ。


 あの時の俺を見たなら、きっと口をあんぐりと開けすぎて顎が外れるだろう。


「じゃあ……機嫌がいいってのは?」


「普通だ」


 生き残る上で一番大事なのは、感情を大きく動かさない事。

 何事にも動かされないのが理想だ。


 だから、この場合でもきちんと冷静で居るつもりである。


「うーん。何だろうなあ。何かちげーんだよなあ」


 と唸るジュリアンが、俺に穴を開けるように眺める。

 ブラシを持ったままじっと見て、悩むように口を尖らせる。


 目線が煩い、と言う経験は初めてだ。その目に目隠しをしてみたくなる。


 でも、それだけ食い下がること自体には納得だった。

 自分でも、その変化は自覚している。


 俺と皆との距離が縮まっているのだ。


 オルフェンの頭脳に信頼を寄せたか。周りの人間の戦闘力に安心したか。

 もしくは、あの目の暗さに希望を感じたか。


 多分、一番最後が大きいだろう。


 あの目で確信した。

 ジェーンはいざとなれば間違いなくどんな手も使う。そんな人間だ。

 そして、そんな姉と同じ境遇を経験したはずのジュリアンもそうに違いない。


 更に言えば、こいつらを内包する一団も間違いなく、生温いだけではない筈だ。

 

 そう考えると、親近感を覚える。

 きっとジュリアンにもアンナにも、生温さとは無縁の暗がりがあるに違いない。


「ん? 何だよ。何見てんだよ」


「何でもない」


「ああ? 嘘つけ。暗くても何かあんのは分かんだよ。やんのか」


 その目に暗いものがないか、見ていただけだ。


 でも何だか誤解をされたらしい。銃の部品を持ったまま、ジュリアンが顔を突き合わせて凄んでくる。


 近くで見ると、まつげが長い。凄まれても、余り恐怖を感じない。

 そのまつげをちょっと突いてみたくなる。もしくは引き抜いてみたい。


 と、来た時と同じくらいの速さで引き戻される。


 彼の肩にはアンナの手が乗っていた。


「おいおい止めときなって。こいつは死神とタイマン張った奴なんだから」


「ぐっ」


 更にいつの間にか箱の影から出て来たエマが、ニヤリと笑って反対の肩に手を乗せる。


「私はお勧めしますっすよ。喧嘩の後始末は大好きっすから」


「てめえが介入するなら、今日から俺は平和主義者になるよ」


 そんな事なら俺だって逃げ出す。


「まあ、本当に何でもないってならいいけどよ」


「ああ、気になることはある」


「何だよ」


 と、ジュリアンが顔を近づけると、またアンナが肩に手をかけ元に戻す。


「聞きたい事はきっとジュリアンの性別だろうな。こんな可愛い顔にツルツル素肌だから」


「てめえ!? 今度それ言ったらてめえの髪をタワシ代わりにしてやるって言ったよな!」


 俺から離れてアンナに詰め寄ると、これまたエマがまるで判を押したように同じ展開を繰り返す。


「ジュリアンは何時まで経っても可愛いっすよねえ。髪の毛も切らないし。癖毛だから邪魔なんすよねえ。治療とかに」


「うっせえ! お前らが色々とやるからだ! 化粧水とか!! 髪油とか!!」


 ジュリアンが叫びながらブラシを振り回し、アンナがそれをレンチで防ぎ、エマが涎を垂らしながら見ている。


 走行の振動と巻き起こった騒動で、荷台が激しく揺れる。

 この騒ぎじゃ、質問をする隙も無い。


「これからどこに行くか、知りたかっただけなんだけど」


 このトラックの行先はナハトの風の本拠地である、港街であると知ったのは、それから数時間後だった。



 


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