表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

1-7 死神との死闘

 ジリジリと近付いて、爛々と睨みつけ、ジェーンが最後通告をする。


「さて、新人には親切しなきゃあな。もう一度だけ言ってやるよ。こいつらは捕虜だ。殺さない。いいな」


 駄目、と言えば間違いなく銃が火を噴くだろう。

 そして俺かジェーンのどちらかが死ぬ事となるだろう。


 でも、だからと言ってそれを容認出来るわけがない。


 こいつらを生き残らせたら、間違いなく反攻される。

 絶対に殺さなければならない。それは譲れない。

 それを妨害する誰かがなど、例えどれだけ有能あろうと足手纏いだ。


 さっさと始末した方がいいだろう。


 こいつを殺して、団から逃げて、遠い所に行く。これが一番生き残りの高い方法だ。

 例え、小銃が無くとも、敵が強かろうと、こっちのは飛行ユニットがある。


 幾ら早くともこれの速度に追いつけることなど不可能だ。

 あの女に抵抗される前に確実に殺せるだろう。 


 よし、行ける。


 不意を衝くべく、飛行ユニットを一気に加速させる。


「ちっ」


 けど、それは少し甘過ぎたらしい。


 破裂音がして、太ももが熱せられた鉄棒を突き立てたように熱くなる。

 下を見ると、ぽっかりと穴が空いて、血が空に垂れていた。


 あの女、虚を突かれてもきちんと命中させたらしい。

 一体どうやったらあの急加速に反応できるのだろう。


 いや、それよりも今はこの傷を何とかしないと。

 このままでは空を飛ぶのも苦労するだろうし、何より治療しないと出血多量で死ぬ。


「エマ辺りを脅すか」


「コラ降りてこいや!」


 だとしたら、色々と手を講じる必要がある

 手早く終わらせないと、傷が悪化して死ぬだろう。


 さて、敵は下りて欲しいようだけど、勿論降りるつもりはない。

 だが、その代わりと言っては何だけど、落とすつもりではある。


 この三つの手榴弾を。


 三つの手榴弾をそれぞれの生き残りの中心に、満遍なく落とす。


 航空用手榴弾の致命範囲は二メートル。殺傷範囲は十メートル。

 これで全ての生き残りは息絶え、一先ずの危険な可能性は排除できる。


 きっとジェーンは避けて生き残る筈だが、それでも構わない。

 爆発と同時に辺りに散らばる銃を取って、制空権と攻撃手段を得てしまえば脅威ではない。


「なっ!? てめえ!!」


 しかし、手榴弾は意外な事態を引き起こした。

 何故かジェーンが手榴弾の方に走って行ったのだ。


 しかもそれを掴んだ。

 そして投げ返しても見せた。


「うらああ!!」


 上空五メートルほどで爆発して、質量の伴った音が耳を叩く。


 間違いなく全員の致命傷を避ける一投だった。

 いい加減、その厄介な身体能力にイライラして来る。


 上空五メートルほどで爆発したそれの破片は、彼女と敵に降り注いだだろう。

 が、ジェーンは飛んで逃げて致命傷を避け、他の奴は倒れていたから軽傷だ。


 地面を転がっていたジェーンがゆっくりと立ち上がる。

 頬や腕にかすり傷を負い、足を引きずっている。


 意外と重傷だ。きっと飛び退くのが少し遅れたのだろう。

 それだけは、良い知らせだ。


「……て、てめえ。そこまでこいつら殺したいか」


 幾つかの破片が食い込んで、肺にも刺さったのだろう。少しむせて血を吐いている。

 だが、そんなボロボロな状態でも立ち上がって、重そうに短剣と銃を構える。


「とことん屑だな。そのハラワタをケツから引きずり出して、ズタズタに引き裂いて、口から戻してやるよ……」


「……そこまでして」


 そこまでして、火種を残したいらしい。身を削ってまで、自分が死ぬ可能性を残したいらしい。


 随分不思議な話だ。理解できない。


 でも、そこまで傷だらけになってくれたなら話は速い。

 撃たれないように高速旋回して、落ちている銃を取って、構える。


 形勢は逆転。この場は俺が仕切れる。


「敵はもうほとんど死んだ。残りも、治療が間に合わなければ死ぬ。別にもう争う理由はないけど?」


「あんたになくても私にはあるんだよ。てめえの腹を掻っ捌く理由がな」


 面白い話だ。そんな状態で何が出来るのか。


 手榴弾なら何回か食らった事があるから、現状がどれだけ大変かなんてお見通しだ。

 きっと、さっさと帰って眠りたいだろう。他人の為に動くことなんて億劫なはずだ。


「早く帰らないと、死ぬよ。お互いに」


「いつになく饒舌じゃねえか? ああん? 戦場でしか話せねえのか?」


 元々無口な質じゃない。独り言も多い方だ。

 ただ、周りが信用できなかっただけだ。


「それに、私が、何もできない、なんて……思い上がるなぁ!」


 拳銃の引金が引かれた。


 だが、たった一発の銃弾なら回避は簡単だ。

 常に銃口が合わないように、それだけに気を付ければいい。


 いつもの様に回避する。

 と避けた瞬間、バキっと嫌な音が聞こえた。


 下を見ると足のユニットに、刃が突き刺さっている。

 ジェーンが持って居たあのナイフだ。


「仕込みナイフに気付けねえなんて、眼付いてるのか!?」


 ジェーンの笑い声が、遠くに聞こえる。時間が止まったように感じる。


 ゆっくりと錐揉みする中で見る刃は、深く刺さっていて、故障は確実だった。

 これが無ければどうなるか、火を見るより明らかだ。


 右足の出力が不安定になって、急に体がぐらつく。

 残った出力で何とか保とうとするけど、安定した飛行が保てない。


 このままじゃ墜落だ。何とかして下りないと。


 軟着陸できるように、大回りで高度を下げて、辺りの木の枝にもぶつかって速度を落とす。

 そして、何とか地面に落ちる事に成功した。


 けど、少し近すぎる。拳銃の射程圏内だ。


 立ち上がると、既に敵は銃を此方に向けていた。

 その銃口はふらついていて、ジェーンがゆっくりと左手に添える。


「よう、ざまあねえな」


「……」


「良い様だ。泥まみれで、ボロボロで、笑えるな。おい早く飛べよ。飛ばねえ鳥なんざ家畜と同じだぜ」


 薄く笑う彼女の方こそ、血まみれで上半身に力が入っていない。


 とは言えこのままでは一か八かの戦いになる。もっと有利な条件にしないと。


「ああ家畜だとしても、てめえの肉は不味そうだがな。腐った死体ばかりを食う、烏みてえだし」


 手榴弾はもうない。武器は小銃だけ。遮るものもない。足は上手く動かないし、空ももう飛べない。


「言う事は、ねえみたいだな」


 また飛行ユニットを飛ばして攻撃しようか。いや、今回は駄目だ。片方が壊れていては上手く飛ばない。


 仕方ない。この状況で何とか殺すしかない。


「死んで腐って堕ちやがれ!」


 拳銃の弾が、後ろの木にめり込んで、殺し合いが始まった。


 応戦しようと銃を構えて撃てば、満身創痍と思えない動きで避けてくる。

 そして、彼女も落ちている小銃を取って、撃ち始めた。


 この体じゃ避けられない。飛行ユニットを動かして、回避する。

 地面に体をこすり付けるような無様な避け方だけど、何とかなったか。


 石や木の根がヘルメットに当たって煩く、肩が痛いが、それを無視する。


「っっっ!」


 此方も銃を撃って応戦するが、彼方は彼方で小走りで逃げ出した。

 あれだけ攻撃したのに、まだ動けるのか。不死身に思えて来るな。


「這いずるな畜生があああああ!」


 血を吐きながら叫ぶそれに、銃を撃っていくと、直ぐに手応えが無くなる。

 弾切れだ。弾数管理もままならないなんて、最悪だ。


 少し探して、近くにあった小銃を取って撃つが、ジェーンが何処にもいない。


 ああそうだ。ジェーンの動きは目で追えないんだ。

 耳に意識を集中させると、何処からか音がした。


「っ」


 上だ。地面を擦りながら移動する俺に、飛び掛かっている。


「うらあ!」


 降りる速度と全体重を込めた銃床で頭を殴られて一瞬意識が飛ぶ。

 更に銃を捨てて、胸倉を掴まれて、もう一発殴られる。


 視界が歪んだけど、意識を失えば死ぬのが戦場だ。それに飛行ユニットが暴走しては大怪我をする。


 歯を食い縛って無理に戻して、銃を構える。

 しかし、それは掴まれて彼女の方へ向かなかった。


 もう銃を使う距離でもないのか。手を離して、殴りつける。


「ぐっ。てめえ」


 怯んだ隙に体勢を入れ替えて、地面にこすりつける。

 更にユニットの出力を上げれば、肩や背中を強打したか、ジェーンの顔が歪んだ。


「舐めんじゃねえ!」


 殴られるが、これで行ける。これを続ければ殺せる。


「だったらこれでどうだ!?」


 そう思った矢先、背中に手を回されて、途端に減速し始めた。

 こいつ、燃料のカートリッジを引き抜いたのか。


「これでてめえも終わりだ!」


「……」


 だったら今の内に殺しておこう。

 首に手をかけて締め上げる。

 

「ぐってめ……」


 また殴って来るけど、もうその腕に力はない。やれる。

 血が流れ過ぎて力が入らないが、体重をかけて首を潰していく。


「かっくっ糞が……」


 そうだとも。俺はそこらのゴミと同じで、とんでもない悪党だ。


 生きるためには何でもするし、人を殺しても何とも思わない。

 でも、それこそが地獄でのルールだ。


 生きるために殺し、快楽を得る為に殺し、勝つために殺し。

 人がどんな規則を作ろうが、条約を結ぼうが、地獄に居るならそのルールに従わなければならない。


 出来なければ、殺されるだけだ。


「……」


 既に気を失ったのか、ジェーンの眼は白目を剥いていた。

 掴んでいた腕に力が入ってなく、もう抵抗はないと確信できる。


 このまま締めれば、確実に殺せる。


「……はあっ」


 だけど、此方も限界だ。身体が動かない。


 頬が砂利について、体が全く持ち上がらなくなった。


 意外と足の怪我が重傷だったみたいだ。


 殺し合いで気付かなかったけど、全身が寒い。

 指先がかじかむし、幾ら息を吸っても苦しい。


 ここまで来たのに、死ぬのか。


 いや、ここまで来れたことを幸せに思うべきなのか。


「……」


 でも、ここで死ぬならジェーンを殺せなくてよかった。

 彼女を殺してしまったら、その死は全くの無駄だった。


「結局、死ぬなら、あの時死んでれば、良かった」


 そんな事を思っていると、遂に意識が消え出す。


 一体、地獄の先には何が待って居るのだろうか。


 その思考を最後に、記憶は途切れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ