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1-7 恐るべき伏兵

 茹で卵。それがその男を見た時の第一印象だった。


 バーンズに案内されて、トラックの荷台を這い上ってきたのは、太目の体を軍服に詰めた禿げ男だった。

 頭が剥げていて、首が太くて、そしてお腹がパンと張っている。間違いなく卵体型だ。


 けど、見た目は茹でてあっても、いやだからこそハードボイルドとは程遠い。

 うだつの上がらない、と言う評価はバーンズの物だったけど、禿げ男もそんな奴だった。


 二人の軍人を追随させて入るものの、頼りなく、困ったような顔をして、此方を見ている。


 禿げ男はオルフェンの真正面にどっかりと座って、息を吐いた。

 余程体力がないのか、肩でゼイゼイと息をして苦しそうだ。


 そんな息苦しそうな男を見て、オルフェンが苦笑いを漏らす。


「ちょっと遠すぎたかい? 司令官」


「別に構わんよ。ずっと書類に埋もれて運動不足だったんだ。だが、水を貰えたなら有難いな。ありがた過ぎて宗旨替えするかも知れん」


「おいおい、敬虔な信徒が馬鹿言っちゃいけねえよ。素直に神に感謝して、恵みの一杯を飲みな」


 オルフェンがコップと水筒を出して水を注ぐ。

 そして、地図の横から差し出すと、司令官は一気にそれを煽った。


「ふうっ。感謝するよ。最近はこの一杯すら貴重になって来ていてね」


「それくらい厳しいかい?」


「ああ。そもそもの規模が違う。彼方は大帝国、此方は小国。他の国の支援で何とか持ってるよ」


「だから、傷病兵の護衛をする余裕もない、と」


「序でに言えば、報酬も微妙だね」


「そこも期待しちゃいねえよ。もう腹割って話しただろ? あんたらは安価な兵が欲しい。俺らは必要経費と正規軍の依頼を受けたって実績が欲しい。依頼料の値段を伏せればなお嬉しいってな」


 カラカラと笑えば、司令官もくしゃりとシワを寄せて笑う。


「では、改めてお願いするとして、こちらの偵察隊が把握している情報を渡すとしよう」


 いよいよ、俺の欲しい情報が手に入るらしい。

 出されたのは四枚の紙を束ねた物で、オルフェンはそれを貰って目を通す。


「敵戦力は五十、装備はカシュア軍から奪ったとされる航空ユニット、歩兵砲、機関銃、小銃。まあ中隊規模の歩兵と航空兵が来ると思ってくれ」


「いやはや、随分と多いな。それに歌手軍から奪ったと『される』ね。こりゃお笑いだ。正直に、カシュアは非正規軍を雇ったと言えば良いのに」


「あくまでもカシュアは関与を否定してるよ。が、奴等はさっさと私達に這って欲しいらしい。直接間接問わず、あらゆる圧力をかけている」


「楽しい話じゃないな」


「全くだ。傷病兵を蔑ろにしては戦意が下がる。さりとて護衛を増やす余裕はない。カシュアへ脱走する奴等も居る中で、負け戦を上手に負けるのも、楽じゃあないよ」


「本当にな」


 くたびれた様子の司令官が煙草を出し、部下が火を着けようとする。

 が、そのライターの蓋を、オルフェンの手が閉じた。


「おっと、トラック内は火気厳禁だぜ」


「む、そうだったか。そう言えばヘビースモーカーの君も吸ってないね」


「ああ、医者に怒られてな」


「医者……あの問題児か。何処から引き抜いたか知らんが、ありゃあ酷いぞ。結果が良ければ過程などどうでもいいらしいじゃないか」


「だが、腕は一流だ。精神と肉体もタフで、軍医には打って付けだぜ」


「あれを軍医にしたら、それこそ戦意が下がるよ。砲弾降り注ぐ中を生き延びる事が不幸の証になる」


「違いない」


 そう言って笑い合う二人は、後は雑談に終始していた。


 そうして、三十分。


 結局、五十の武装集団をどうするか、そんな相談もなされないまま司令官は帰ってしまった。

 だが、オルフェンはそれでいいらしい。勢いよく地図を引っ手繰って、立ち上がる。


「よし、じゃあ準備をするか」


 オルフェンは早速皆をテントへ集めた。




 俺を含めて計七人が天井だけのテントに入ると、壁が無くても狭く感じる。

 そんな中、彼は机にピシッと地図を広げ、先程の情報を丁寧にまとめた上で作戦を発表していた。


「で、数が膨大だから今回は危険地帯を突き抜けるんじゃなくて、危険地帯を叩いて安全地帯にする」


「じゃあ、機動防衛かい?」


 バーンズが地図の上の駒を手に、縦横無尽に置いていく。

 敵が居そうな所を積極的に襲撃するのを、表しているらしい。


「おう、陣地防衛するにも準備する時間がないし、時間制限のある輸送だからそもそも無理だ。迎え撃った方がよっぽどいい」


「じゃあ航空戦力を封じてからって事になるね。あれあると面倒だし」


「そうだな。先ず航空兵に敵を見つけさせて、奇襲させつつ、ジェーンに地上戦力を引っ掻き回し、後は掃討って感じだな」


 とオルフェンが言うと、アンナが難しい顔をして地図を見下ろす。


「でも、航空兵を相手取るにゃそれなりの弾幕が要るぜ。こっちは人力で運べない機関砲と野砲しかないんだけど?」


「事前に対航空兵用のグレネードガンを貰った。言っちゃ悪いが、ガンディルの兵器にしちゃ優秀だぜ」


 そう言って近くの箱を引っ張り上げる。

 中には小銃とは違う、随分ずんぐりとした形に銃と、銃弾とは言えないくらいの大きさの弾が入っている。


「小型のグレネードを連続で発射する、面制圧に優れた銃だ」


「お? 何か楽しそうな武器だね。いいじゃん」


 それにいち早く食いついたのは、難しい顔をしていた筈のアンナだ。

 眼をキラキラさせて、身を乗り出して、その手は速く触りたいのかウズウズと動いている。


「ああ、楽しいぜ。航空兵はグレネードで落とすってのが最近の流行らしいからな。高射砲や機関砲じゃ少し動きが重すぎるが、こっちは取り回しが利くし、皆で撃てば一撃だってよ」


「そっかそっか。確かにこれならいけるかもな。有効距離は?」


「驚異の七百メートル。逆に言えば七百メートル以上では何の意味もねえ」


「それ位なら平気だよ。いいな。皆に配って一緒にばら撒きたいっ」


 ウキウキとした声を上げるアンナを、後目にオルフェンはバンッと地図を叩いた。


「じゃあ作戦を言うぜ。先ずはジェーンが待機してるであろう敵歩兵を引っ掻き回す。その間にこっちの航空兵がこのガンディル製のグレネードガン、『ロータス』を使って敵航空部隊を破壊する。見的必殺だ。撃ち漏らすんじゃねえぞ?」


 オルフェンの作戦に、ジェーンがニヤリと笑って弟の方を見た。


「はっ。ジュリアン。手こずってたら全部平らげちまうからな」


「あん? それはこっちの台詞だぜ。姉ちゃん」


 二人とも、かなり獰猛な笑顔だ。


 一方は女装すれば性別を偽れそうな優男、もう一方に至っては少女。

 だというのに、顔は野犬そのもの。去勢、避妊が必要なほど凶暴に見える。


「競うのは良いが、仕事は忘れないでくれよ。アンナは一応機関砲の準備をしておけ。エマは重症そうな傷病兵の」


「看病っすか!?」


「トラックには近寄らないように」


「まじっすか」


 エマが落胆し、目に見えるほど気落ちしている。

 どうも、オルフェンは身内にも加害者が居る事を熟知していた様だ。


「バーンズは当然運転だ」


「そりゃね。皆運転荒いし」 


「よし、自分の立ち位置は理解したな。行動開始は午後二時からだ。作戦は臨機応変に変えるから無線を忘れるなよ」


「「了解っ」」


「よしじゃあこれから航空兵と歩兵にゃ叩いて欲しい地点を指示する。よく聞いとけ」


 いよいよ、五十人を殺し尽す作戦が始まる。








 トラックの中、グレネードガンを背負い、小銃を肩にかけ、拳銃をベルトに収め、手榴弾を確認する。


 全身を火薬と金属に覆われた地獄の正装だ。

 飛行ユニットを装着した上にこの重装備は少し重い。

 でも制限重量は超えていないし、動けないほどじゃない。


 隣を見ると、同じような格好をしたジュリアンが居た。


「さあて、森に五十人分の肥やしをばらまくとするか」


 にやりと笑って、銃身を撫でている。

 別に野犬と息を合わせろとは言われてないけど、邪魔になりそうだ。


 一方、地上戦力のジェーンは、弟の隣で短剣と拳銃なんて古めかしい装備を整備していた。


 だけど、どちらも随分と異常だ。


 拳銃は、片手式の砲と言った方がいいような口径で、一発撃つだけで肩関節が外れるのは確実だった。

 そして短剣はと言うと、此方も長大で何やら柄が異様に大きく、持ちにくそうな代物だ。


「よしよし、今回はオリオンとスコーピオンで行こう。楽しくなる」


 が、彼方も弟と変わらずにやけている。戦闘狂の兄弟らしい。

 一体これの何処に楽しみを見いだせるのか、俺にはさっぱりだ。


「準備良いか?」


 耳元の装置からオルフェンの声が聞こえてくる。無線通信という物らしい。


 これも中々かさばる代物だが、敵の情報が他の目線から知れるという事で、無理やり取り付けられた。


「出来てる」


「何時でも良いぜ」


「こっちもいい感じだ」


 他の声も聞こえてくる。

 これは俺も言った方がいいのだろう。


「大丈夫だ」


「おう、ならとっとと行くぞ。作戦開始だ。航空隊! 飛べ!」


 指示に従い、飛び立つ。


 既に列を為したトラックから離れて、空から森を見る。


「地図で見た確認ポイントは覚えてるか!?」


 隣のジュリアンから無線が入る。


 確か、無線の仕方は……こうだったか。


「覚えてる」


 それだけ言って、俺は作戦地点に向かった。



 

 オルフェン曰く、軍とは合理的な集団であるらしい。

 より効率的な体系を取り、より効率的な動きをして、より効率的に成果を得ようとするのだ。


 だからこそ分かりやすい、とのこと。


 今トラックが走っているこの道には、オルフェンが予想した効率的な襲撃ポイントがいくつかある。

 軍が一枚噛んでいるとなると、絶対そこに布陣するはずらしい。


 と言う訳で気付かれない様に、超低空かつ低速飛行で森を進む。


 確か目的地までは百キロあって、敵はその前半、五十キロ圏内に潜んでいる。

 そしてその範囲で襲撃に最適なポイントは五十箇所。手分けしてやれば一時間で回れるはず、らしい。


 言われた通りのポイントを確認しながら飛んでいくと……見つけた。 


 確かに彼の言った通り、予想したポイントに予想した数の集団が居た。


 五百メートル先に、馬子にも衣装と言う様な不似合いな航空装備で待機する、烏合の衆が見える。

 皆かったるいと言った風にくつろいでいて、たった一人だけが無線を耳に当てている。


 人数は……四人。


「おいおい、何かやべえらしいぞ」


 無線を聞いていた一人が隣の人間に話しかけて居る。


「んだよ。ベッドトラブルか?」


「ちげーよ。何かいきなり航空兵が降って来て、って無線が入って後途切れたんだけど?」


「マジで? それって今聞こえてる爆発音でやられてんじゃ」


 やはり野犬は足を引っ張る。

 こういう時はこっそり攻撃して、気付けば終わりとやった方がいいのに。


 仕方ないから、試し打ちがてらグレネードガンを撃ってみる。


「うわあ!」


「ぎゃあ!」


 月並みな悲鳴を上げて倒れ、ワタワタと飛ぼうとした奴も飛ぶ前に爆発して、あっという間に全滅した。


「? 凄い良いな」


 これは適当に照準を合わせてもまとめて破壊してくれる。

 腕をもぐほどの爆発ではないが、破片が食い込んで瞬く間に戦闘不能を量産していく。


 ただの一撃で無線を破壊し、銃を持とうとした奴を穴だらけにし、逃げまどう男の足を深く抉った。


 慈悲も何もない、地獄にぴったりの武器じゃないか。


「と、弾切れには気を付けないと」


 後は動けなくなった人間だけ。ならば小銃で終わらせられる。


 茂みから気付かれないように接近して構え、物陰に隠れようと這う奴等の脳を撃ち抜く。

 一発、二発、三発……これで他に動くものなし。


「一応、死体の頭も撃っておこう」


 死んだふりをされて、後ろをやられては堪らない。


 きっちり止めを刺して、ビクン、と跳ねる以外の反応がない事を確認し、次に行く。


「……楽だな」


 止まっている的にこっそり近付いて、範囲攻撃をやって、止めを刺す。

 手応えも何もない、簡単な仕事だ。


 これなら、容易く出来る。俺は再び低空飛行に移った。



 確認するポイントを幾つか空振りして、四つ目のポイントに居た集団も同じく爆殺と止めを刺し、時計を見る。


 始まって四十五分だ。なのに、もう八人倒してしまった。

 全体の大体五分の一と考えると、凄い効率で進んでいる。


 この速さは、オルフェンの予想があってこそだろう。

 彼の手腕に思わず感心していると、耳元でザッと音が鳴って声がした。


「ベースへ。こちらアルファ。敵の小隊を二つ壊滅させた。一方は航空兵。もう一方は歩兵。計十四人だ」


「了解」


「ベースへ。こちらチャーリー。アルファが発見した一小隊をミートソースにした。十人の歩兵だ」


「了解」


 ジュリアンとジェーンだ。彼方も仕留めたらしい。

 そして仕留めたら報告する必要があるようだ。


 確か、俺はブラボーと名付けられていた筈だ。


「ブラボー。敵八人を殺した」


「了解。ブラボーには後で通信の仕方を教える」


 何かがいけなかったらしい。


「各員へ。こちらベース。残りは八人だ。気を引き締めろ」


「了解」


「了解」


 二つの返事を耳にしつつ、森の中を飛んで次の地点の確認をする。

 ここから低速で進んで、十分の所だ。


「……燃料は残っているかな」


 腕にある残量メーターを確認するとまだまだ余裕はあった。ゆっくりと進んだせいだろう。

 これならそこに行って戻るだけの時間はある。行ってからトラックに戻ろう。


 木々をかき分け、ゆっくりと近付く。


 一つ目が空振り、もう二つ目も空振り。これはもう八人は野犬達の所に居るのだろう。


 そう思って帰り際に無線に耳を傾ける。


「こちらベース」


 声が聞こえて来た。


「敵接近、航空兵二十人。機械化歩兵十人。後ろを取られた。アルファは直ちに応援に来てくれ」


「?」


 もう八人だけじゃなかったのか。


「どういうことだ? 何があった?」


 ジュリアンが確認を取っている。


「何もねえ。ただ事前情報と違っただけだ。今バーンズにトラックを後方に回して貰って、アンナがけん制してる。ジュリアンは速く来い」


 そう言っているし、俺もそっちに行くか。


「後、他の二人はこっちに来るな」


「あん? どういうことだ?」


「多分、同規模の集団が前方からも来るはずだ。お前らはそれをやってくれ」


「へえ。分かった。すぐ行く」


「了解」


 疑問に思ったけど、一先ず急上昇して遠くを見る。

 確かに、遠くに飛行ユニットがポツポツと見えた。


 あれを相手取る必要があるのか。少し面倒だな。

 普通だったらさっさと諦めて逃げている規模だ。


 でも、今逃げたら食事の面が大変になるのは目に見えて居た。

 そんな苦しみを味わうくらいなら、四、五十人を殺し尽した方がマシだ。


 更に上昇して、遥か高みから後ろを取る。


 グレネードの射程ギリギリだ。これで不意打ちして、混乱を巻き起こす。

 残弾は残り少ないから、全部撒き散らすくらいで良いだろう。


 後方斜め上から、グレネードを構えて、引き金を引く。


「ぎぃ!?」


「何だ!?」


 予想通り、上空からの攻撃に航空兵は混乱し始めた。

 そして統制を取る前に、どんどん敵が墜落していく。


 このまま混乱で終わってくれるなら、どれだけ良い事か。

 だが、直に俺の位置が知られて、銃口が此方に向けられる。


「野郎! いつの間に!?」


「撃て! 撃て!」


 バラバラと散らばって、撃って来る。


 だがそれは散開と言うにはお粗末で、陣形も何もなく、狙いもまばらだ。

 そもそも、飛行ユニットの扱いがなっていない。


 ヨタヨタとふらつきながら飛んで、無理に曲がろうとして無様に錐揉みし、銃の反動に負けて、落ちる。


 誰がどう見ても初めて飛行ユニット初心者だ。

 こんなものに殺されるのは、同じく初心者だけだろう。


 加速して、大きく回りながらグレネードを投下する。

 敵は俺を視認するだけで精いっぱいで、銃弾は俺の後ろを飛んでいく。


「くそっ! くそう!」


「駄目だ! 逃げるぞ!」


 二名逃げ出したか。


 だが、逃がすものか。敵は皆、根絶やしだ。

 急加速と回り込みで真正面に行き、銃床で殴りつける。


「ひいっ」


 撃って来る奴にはそれを盾に、グレネードで応戦。

 そして敵が落ちるのを見届けて、盾も手放す。


 これで、航空部隊は全員落ちた。少し呆気ないけど、素人相手ならこのくらいだろう。


 後は下の群衆だけだけど……。


「飛行ユニットと同じ速度で突撃する化け物が居るらしいからなあ」


 空の戦闘が終わったのに未だ悲鳴が聞こえてくる。

 つまり、地上で戦いが勃発している。


 視線をそちらにやれば、丁度その化け物が戦っていた。



 それは、正に死神だった。

  


 いつの間にか後ろに来て短剣で喉を掻き切っていた。

 拳銃で一人を撃ったと思えば、その後ろの心臓までも潰していた。

 そしてそれに呆気に取られれば、また姿は消えて誰かの悲鳴が聞こえる。


 凄い殺しっぷりだ。小銃に対して全く引けを取っていない。


 動きが素早すぎる。まるで蜂をそのまま大きくしたようで、遠目でも追うのが精一杯だ。

 直接相対している敵は、きっと瞬間移動したように見えるだろう。


 一体あの女は何者なんだ。他の生物の血でも混ざってると言われても、今なら信じられるぞ。


「あれじゃ、別に参戦しなくても良さそうだな」


 でも、きっとここでぼんやりしていたら怒られるのだろう。

 だから端の方にグレネードを、と思ったけどもう弾切れだ。


 仕方ないからそれを肩に戻して、小銃を構える。


 また回り込んで、森の方に隠れ、敵に気付かれない様に適当に撒き散らす。


「ぎゃっ」


 俺の銃弾で、敵が死に始めた。でも、視線はジェーンに釘付けだ。

 無遠慮に撃って居るのだけど、気付く様子はない。


「いい仕事だな」


 命を懸けずとも食事が出来る。まるで地獄じゃないみたいだ。

 その原因は、ジェーンが強すぎるという一言に尽きた。


 乱闘の中にあって、彼女はただの一回も立ち止まらない。

 くるくると回って、その場の死体を盾にし、更に敵に飛びついて首を斬り、と思えば思い切り伏せて何処かに行ってしまう。


 あの速さに加え空間を目一杯使った動きは、まるで野獣の様で、敵の反撃は全て空を切っていた。


 そして、彼女は遂にただ一度も立ち止まることなく、敵を倒してしまった。


「よし、片付いたな」


 少し息を荒げつつ、辺りを見ている。

 確かに片は着いた。敵は皆倒れてる。


 でも、逆に言えば敵は倒れただけだ。まだ生きている奴がいる。


 きっちりと止めを刺さないと、後が面倒だろう。


 そう思って茂みを出て、銃を向ける。

 右足を撃たれて、悶える男だ。


 銃を構えて、その後頭部へと狙いを定める。


「おい、クライブ。何してんだ?」


 ジェーンが少し鋭い眼差しで問いかけるが、何故俺に敵意を向けるか、分からない。


「後始末だ」


 引き金を引く寸前、小銃に凄まじい衝撃が走って銃口が逸れた。


 弾丸は男のすぐ横に逸れて、外れてしまった。

 しかも小銃の真ん中が凹んで、もう使い物にならなくなっている。


 衝撃の出所を見ると、ジェーンの拳銃が煙を上げていた。

 その持ち手は、まるで敵のようにこちらを睨んでいる。


 いや、間違いなく敵対者だった。


「おい、狂犬。言っておくが傷病者は条約の保護対象だぜ」


「ここで生かせば後に面倒なことになる」


「ああ、そうだろうな。そうだろうが、それでも条約は条約だ。こいつは捕虜にする」


「駄目だ。ここに居る奴等は皆殺す」


「それこそ駄目だな。こいつらに戦意はねえ。そんなのを殺すのは、クソッタレのする事さ」


「この世界に、クソッタレじゃない人間なんているのか?」


 俺の眼には、地獄の炎に逃げまどいながら、押し合いへし合い、殺し合う、最低の人間しかいないように見える。

 この場に居る全ての人間は、誰かを殺して生き残っているに違いないのだから。


 でも、彼女曰くそうではないらしい。


「ああ、そうかい。やっぱりこうなったか」


 そして、彼女の判断基準では俺は殺すべき相手であるようだ。


「言っとくけど、てめえと比べたら皆聖人君子だよ。狂犬」


 殺害宣言と共に、鋭い刃と大口径が此方を向いた。





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