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1-4 新しい生活と邂逅

 その日の夜、テントの中の寝袋に入り、久しぶりに平たい所で横になる。

 それは、普通ならば直ぐにでも眠れる環境だっただろう。

 野外で寝る事と比べたら、柔らかなベッドも暖かい寝床も雲泥の差に違いない。


 でも、眠れなかった。


 神経が尖って、眼が冴えて来るのだ。


 テントのせいで周りを伺うことは出来ず、敵の襲来が分からない。

 ごつごつとしたものが背中にないのも違和感で、頼りない。

 毛布や寝るための薄い服は防御力が低すぎて、攻撃を受けたら一溜まりもない。

 何より特に、銃が無いのが致命的だ。


 こんな無防備な状態でなんで眠れるのか、俺には理解できなかった。

 ここで寝るならば、木の上で小銃を抱え、飛行ユニットを付けたまま寝た方がよく眠れる気がした。


 でも、実際はこの状態の方が体は休めるのだろう。

 だから木の上には行かないで、どうやったら眠れるのか確かめる為に、隣を見てみる。


「……」


 口が悪く、動く時も騒がしかったジュリアンは、死んだように寝ていた。

 呼吸は一定で、ピクリとも動かない。眠っている時は静からしい。


 その奥でが、バーンズが小さな明かりを手に何か読んでいた。

 非常にリラックスした様子で、ページもどんどん進んでいる。


 団長のオルフェンと、女神と言われた人達はここにはいない。


 テントで寝るのは男で、オルフェンは運転席、女はトラックの荷台の中で寝るのが、この一団の常識だった。

 因みに死神と言われたジェーンは帰ってこなかった。これも常識らしい。


 オルフェン曰く、あれは良く働く猫、とのことだ。


「あーと。……寝れないのかい? ミルクでも飲む? 牛じゃなくて山羊だけど」


 観察を続けていると、本からちらとも眼を上げていないのに、バーンズに気付かれた。


 おずおずと進めて来たのは、山羊の乳。あの粥の中身だ。

 何で勧められたか知らないけど、ヤギの乳はあまり好きじゃない。


「要らない」


「そうかい。じゃあ本は? 読んでるとウトウトして来るよ」


「要らない」


「ええと、じゃあ耳栓。入って来る情報がないと眠れるんだよ」


「要らない」


 断り続けると次第に目が泳いで来た。


「ええと、じゃあ……。頑張って」


 そしてそれだけ言うと、反対側を向いてしまった。彼も寝るらしい。

 更に耳栓を付けて、手元の明かりを消して、寝袋の中に潜っていった。


 戦場が近いのにそんな格好になるなんて、彼は自殺志願者なのだろうか。それとも大馬鹿者なのだろうか。


「……」


 早速寝息を立て始めた彼を後目に、考えてみる。


 眼を閉じれば眠れる、か。それ位ならいいかも知れない。

 そもそも最初から視界はゼロに等しいのだから開けている意味がないのだし。


 助言通り目を閉じてみる。瞼をきっちり締めて、一切が入らない様にする。

 だが、眠れない。今度は戦いの映像ばかりがちらついて来る、


 あの時どう回避すべきだったとか、銃の命中度が甘かったとか。


 特にあの時だ。オルフェンに攻撃した時の攻撃。

 あの時、もう少し狙いを定めて居れば良かった。


 いや、アンナを狙って殺して、虚を突けば良かったのか。

 それも無理だな。多分、あの男は冷静に俺を撃ち殺すだろう。


 人の好さそうな顔をして、よく笑うけど、その実力は間違いなく一流だ。


「何かあんたの寝顔、すっごいね。眉間にしわ寄ってるよ」


 殺すイメージをしていた人の、声が聞こえた。

 眼を開けると、頭に帽子を被った長身の女がいる。


 随分と眠そうで、不機嫌そうに眼をこすっている。


「どうせ寝れてないんでしょ。団長が呼んでるから行っといで」


 アンナがわざわざ起きて俺の所に来た理由。

 それは、俺のご主人の招集命令だった。







「よっ。眠れない夜に悪いな」


 かなり背の高いトラックの助手席をよじ登る。

 とそんな台詞と煙草の匂いで出迎えられた。

 でもその顔はニヤニヤとした笑いが浮かんでいて、全然謝っている風には見えない。


 寧ろ、邪魔してやった、と言われた方がしっくりくる。


 オルフェンが灰皿にくわえていた煙草を灰皿に押し付けて、窓を開けて風を通す。

 焼死体とは違う煙い匂いが抜けていって、社内が無臭になっていく。


 一体何がしたいのだろう。こんな夜更けに呼ぶなんて。

 まさか今になって、身ぐるみを剥ぐ気だろうか。


 疑いの眼を向けると、オルフェンは手をひらひらとさせた。


「そんな目で見るなよ。別に取って食う気はねえ。どうせベッドじゃ寝れないんだろ?」


「……」


「まあ、この中にもそう言う奴等は居た。どいつもこいつも野犬並みの警戒心を持って居てな。特にジェーンとジュリアンは酷いもんだった」


 そう言われて、まだ見ぬ死神と全く無警戒に眠るジェリコを思い浮かべる。

 あれが眠れなかった人間の寝方だろうか。全く信じられない。


 あれを野犬と言うけど、どちらかと言えば子犬の様に見える。

 自分では身を守れない、足手まといの筆頭だ。


「だが、俺にはそんな奴をも眠らせる秘薬を持って居る。薬学会の銀の弾丸も真っ青の代物だ。特に戦場で生きてきた奴なんかは眠剤や麻薬よりも落ち着くぜ」


 随分と勿体ぶった言い回しで、天井の収納スペースを探り出す。


 俺に効くとも思えないけど、彼は解散とは言われていない。

 食い物と寝床を提供する長の命令を待っていると、遂にそれが出て来た。


 薬と言うには無骨で、鈍い輝きを放っている、一抱えもある筒状の物体。


 秘薬の正体は、小銃だった。


「アリエル七式。ちょっと古いがずっと現役の老兵だ。ひたすら丈夫さを追求して、砂に埋もれようが水に落ちようが撃てるようになった、ある意味化け物な銃だぜ」


 それを手渡されると、ずっしりとした重量が腕にかかった。

 俺が普段使っていた銃よりもずっと重い。航空兵用の銃じゃない。


「これを抱えていると、いつ客が来ても歓迎できるって気になる。生半可な弾じゃ撃ち抜けない二重鋼板のドアを盾に、夜通しのパーティも出来るだろう」


 確かにテントで無防備に寝るよりは、この頑丈な装甲車の中で、銃を抱えていた方がいい。


「……」


「な? 落ち着けるだろ? だから暫くここで寝るんだな」


 言うや否や、オルフェンはハンドルに足を乗せて、たった二秒でいびきをかき始めた。


 確かに眠りやすいけど、一気に酷い環境に様変わりだ。

 隣人は食べ物をくれるが信用できないし、いびきは煩い。


 息が詰まりそうな音の中、信用していない人間の横で眠れる訳がない。


「……」


 それでもあのベッドの中よりはこの狭い助手席と銃を持って居た方が落ち着けるのが事実だった


 ここは視界が確保されていて、少し屈めば射線を遮ることも出来る。

 彼の言う通りの材質ならば、襲ってくる敵の全滅だって夢ではない。


 ずっとましならば、出ていく理由もない。言われた通り助手席で目を閉じて、夜をやり過ごそう。


 銃を抱えて、来るかも分からない敵を警戒する。

 眼を見回し、耳をそばだてて、一切を逃さない様に、頭に叩き込む。

 集中して、集中して、集中して……










 ふと、体が揺れた。


 訳が分からなくてぱっと目を開くと、二つの事が分かった。


 助手席から見る景色が動いていて、トラックがとっくの昔に出発していた事。

 そして、いつの間にか目を閉じて、無警戒に眠ってしまった事。


「あ、起きたんだ。お寝坊さん……って凄い目を見開いてるぞ」


 何でトラックが出てるんだ。

 何で俺はこの振動に気付けなかったんだ。

 何で今まで出来ていたことが出来なかったんだ。


 思わず小銃の引き金に手を駆けると、隣で運転していたバーンズが片手を出してくる。


「ちょっと!? ここでは撃たないでよ。僕はオープンカーなんて嫌いなんだから」


「……」


「多分、熟睡しすぎてびっくりしたんだろう? 君、疲れすぎてたんだよ。皆死んだかと思ってエマを呼んで、脈も図ったんだから」


「っ!?」


 エマに診察されたなんて、葬式でも上げるつもりだったんだろうか。


「あ、大丈夫だよ。エマがアンモニア嗅がせようとしたけど止めたから。あれ酷いんだよね。濃度きつめにしてるから鼻血とか出るし」


 事実、葬儀に出る様な事態に遭いかけたらしい。

 いやそんな事はどうでもいい。もっと大事なことがある。


 車が発進しても起きないなんて、無警戒にも程がある。いつ死んでもおかしく無い。

 これが森だったなら、俺は確実に死んでいただろう。


 色々な物を犠牲にしてたった一つだけ、守り通した自分の命を、あっさりと。


 俺はいつの間にか、こんなにも弱くなっていたみたいだ。

 近い内にどうにかしないと。


「おっと、君に話すことがあったんだ」


 考え込む中、バーンズが片手で胸ポケットからメモ用紙を出して、読み上げる。


「オルフェンから業務連絡。我々はこれから戦線離脱する傷病兵の護送をする事になった。君は任務時には遊撃隊として空から警戒する予定だ、だって」


 それが俺の初仕事らしい。


 傷病兵、つまり戦場で戦えなくなった兵士を、後方の基地まで送り届ける。

 護送のやり方も何故使えなくなった兵士を送り返すのかも知らないけど、一先ず敵を殺せばいいのだろう。


「いつ?」


「もう直ぐ昼休憩と、それに合わせて商談相手が来る。その時に準備をして、ご飯を食べ終われば活動開始だと思うよ。結構急だよね。大丈夫?」


「大丈夫」


 なら、食事は腹が重くならないもので済ませないと。

 ああ。他にも、聞かないといけないことがある。


「装備は?」


「型落ちだけど、僕が作ったユニットがあるよ。ジュリアンのお下がり。銃はガンディル国のカミーリャって奴。後は拳銃と手榴弾、かな」


「道順、想定される敵は?」


「ええと、出発地点から西に行くらしいけど、敵は多分来ないだろうし……」


「その道の環境は?」


「ええ、いやあ。どうだろうなあ」


 バーンズはその冴えない顔で、冴えない回答をするばかりだ。


 駄目だ。これでは戦闘する場所が掴めない。

 目と耳を潰されて、放り出された小鳥になってしまう。


 敵が居るのか居ないのか、隠れ場所があるのかないのか。それがはっきりしない内は、飛ぶのは死と同じだ。


 見晴らしの良い空に出るのは、良い的になるのと同じなのに。

 この世は地獄。悪鬼羅刹がどこに居るかも分からないのに。


「はっきり教えろ。何が居る? 何がある?」


「そんなに言われても……」


 他人事と思っているのか、バーンズは苦笑いをして、目を逸らす。

 そんな隣人に質問しているだけで、昼までの時間は消えていった。




 少しじっとりとした森を切り開いた切り株だらけの所。

 そこが今回の休憩地点だった。 


 前の装甲車が止まって、バーンズもトラックを停車させる。

 途端、トラックの荷台に乗っていた団員が皆降りて来る。


 全身が強張ったのか肩を回したり、首を回したり、あるものは地べたに仰向けに寝ている。


 そんな中、ずっと運転していたバーンズは、疲れた様子も見せずにテキパキとテントを建て始めていた。


「おい、結局どんな環境で」


「い、いやあ、忙しいなあ」


 俺を寄せ付けない口実らしい。苛立ってくる。

 まあ、いい。情報が無ければ飛ばないだけだ。


 他人の為に使う命など、持ち合わせてはいない。


「おう、起きたのか?」


 それに、もうバーンズに聞く必要もなくなった。

 一番情報を持って居そうな男が装甲車の助手席から居た。


 白髪の頭を掻いて大あくびする、オルフェン。


 彼方も寝起きなのか少し髪が跳ねていて、首を鳴らしている。随分とくたびれてるみたいだ。

 しかし、そんな彼でも団長であり、この戦いの詳細を知って居て当然の人間だ。


「俺が飛ぶのはどんな環境だ? 敵は?」


「おう、そう急くなよ。餌待ってるひな鳥じゃねえんだから。そう言った情報は、これから来る依頼主が持って来てくれるよ」


 オルフェンは俺を全く相手にせず、いつの間にか持って居た折り畳み式の椅子に座る。 

 更に煙草をに火を着けて、ゆっくりと空に吹かして、眼を閉じた。


 随分と旨そうに飲んでいるけど、あれは寿命を刻むものだと書いてあった。

 どうしてそんなものを吸うのだろう。


 そして、何で詳細を教えてくれないのだろう。

 まさか使い捨ての駒にする気か。


 疑惑の目を向けると、オルフェンが目を閉じたまま煙草の先を赤く灯らせる。


「あー。生き返るなあ。全くトラック内が禁煙とかどんな規則だよ」


「当たり前っすよ。火器類いっぱい積んでる中で煙飲もうなんて、塹壕から飛び出してタップダンスする様なものっす」


 煙草を吸う彼の前にエマがやって来て、白衣を翻しながらオルフェンの咥えたそれを引っ手繰る。


「後、団長は煙草控えるべきって言ったっすよね。主治医として、団長のボロボロな肺は見捨てられません」


「おいおい、マジかよ。それは俺の虎の子だぜ。結構高いんだぜ」


「だったらこれはアンナさんにでも渡しときますよ」


「おい、あいつも愛煙家だろ? 煙草の為に金稼いでる奴だろ?」


「アンナさんは一日一カートンで済ませるけど、団長はあるだけ飲むじゃないっすか? 肺の中で燻製でも作ってるんすか? 肺自体が若干ロースト気味なのを自覚してください」


 それだけ言うと、エマは更に胸ポケットから煙草の箱を取ると、さっさとどこかへ行ってしまった。

 肺がローストか。あんな臭い煙で焼かれた肺なんて食べたくないな。


 それにローストになる所か、灰にするつもりらしい。

 オルフェンがニヤリと笑ってこちらを見る。


「まあいい。虎の子は無くとも取って置きはあるからな」


 軍用ブーツの辺りをまさぐって、ビニールに包まれた煙草を出してくる。

 その内の一本に、火を着けて、ゆっくり体に沁み込ませる。


「良い草だ。物が違うぜ」


「オルフェン、戦闘区域の詳細を」


「あーもう、分かった。分かったよ。お前余り話す方じゃないし、隣で突っ立ってるだけなら商談の時に居ても良いぜ」


「ショウダン?」


「詳しい仕事内容を決める話し合いだ。お前が欲しい情報もザックザクだぜ」


「行く」


「よし来た。ならもう俺の寿命を縮める作業を邪魔しないでくれ。食前の一服と食後の一服が好きなんだ」


 ゆっくりと煙草の灯を強くして、肺を焼いていく。

 煙を吸わないと、ご飯が喉を通らない体質なのかもしれない。


 ご飯と言えば、そう言えばご飯の準備が全然始まっていないみたいだ。

 人が来る前に昼ご飯を食べると言っていたけど、それはどういう物だろう。


 各自で調達して食べるなら、この辺りに埋めておいた缶詰入りの袋を掘り返さないといけないのだけど。


 ちらと辺りの様子を伺ってみる。

 バーンズはテントを建てているだけ。他の人達も思い思いの場所で休んでいる。


 その誰もが、食事に関わることをしているように見えない。

 決まりだ。現地調達に違いない。


 確か、トラックに自分の小銃を置いてあるはずだ。それを持って地面を掘り返そう。


 荷台をよじ登って、銃が入っているプラスチック製の箱を開けてみる。

 色々と銃器が詰まっている中で、比較的ボロボロなそれが俺の銃だった。


 それを手に取って、妙な細工がしてない確認してみる。

 砲身に詰まりはなく、弾薬も変わらない。カートリッジも異常なし。撃っても問題はないだろう。


 確か、レーションはこの南に少し行った辺りに埋めた筈だ。


「ん? 何処に行く気だ? もう直ぐ飯だぞ」


 森に分け入ろうとすると、ジュリアンが引き留めて来た。

 体を鍛えていたのか、片手には油の入ったボトルを握って、上下に動かしている。


「ご飯取りに行く……」


「ああ、それは姉ちゃんの役目だ。ガキは座って口開けてりゃいいんだよ」


 そうは言うが、ご飯はここにない。それに彼の姉は昨日からずっと居なかった筈だ。

 半日トラックで移動したのに、どうしてすぐに追いつくと思うのだろう。


 来るはずがない。絶対に。


「取りに行く」


 腹を空かせたまま戦闘なんて、死ぬ確率が上がるだけだ。

 しっかりとご飯を取って、腹をこなした上で戦う。状態は常に万全でなければ。


 下草をかき分けて、目の前の邪魔な枝を払う。


 と、熊の顔がそこにあった。


「っ」


 何故気配もなく、ここまで接近できたのか。

 どうしてこんな人の気配のする所に来たのか。


 そう考えると同時に足と腕が動いて、熊の眉間を撃ち抜いていた。


 一瞬の判断と反射的な動きで、命が繋がった

 運が良かった、そして自分が毎日銃を使っていて良かった。


 でも総安堵するのは、完全な油断だった


「肉に鉛突っ込んでんじゃねえ!」


 怒声が下の方から聞こえて、腹に何かがめり込む。

 下を見ると、肩に当てる為の銃底が、突き上げる様に鳩尾を打っている。


 空の胃が捩れ、喉を熱い何かが走る。


 思わず後ろに引こうとするけど、敵は更に追撃しようとしていた。


 茂みから踏み込んできた一歩で、殴る気だと察せられた。

 それを食らったら間違いなく意識が消し飛ぶとも感じた。


 だから、また発砲していた。


「ちっ!?」


 しかし、敵はその弾には当たらない。まるで銃弾よりも早く動いた様に見えた。


 茂みの奥で姿も見せず、飛びのいた様に気配が木陰に気配が消える。

 そして、同時に発砲音。


 仰け反って回避するけど、少し耳を掠めたらしい。ピリピリと痛む。

 俺も大木に背を預けて、息を整えると、その木に銃弾がめり込む音がした。


「いきなり撃つとはいい度胸だなおい!! 今からてめえを熊の餌にしてやるよ! 鉛と血のソースで和えてな!」


 そんな罵声と耳を劈く破裂音、そして顔を掠める木っ端が辺りを支配する。

 同時に土の臭いが硝煙に塗りつぶされて行く。


 地獄がその姿を現しつつあるようだ。


 でもそれを一旦忘れ、あれを殺すにはどうすればいいか。考えてみる。


 その音からして想定しているよりも、もう少し右側の木の後ろから撃って居るに違いない。

 そして常に伏せ、向かって左側から銃を出して撃っている。


 これは推測だけど間違いないだろう。


 なら銃口が向きにくい右に出て、敵の頭が出ない様にけん制しつつ、回り込む。これで打開できるはずだ。


 よし、行く。


「っ」


 想定したルートへ走って、小銃を撃ちながら木の裏へと回る。

 やはり予想通り、銃口は左側から出ていて、俺の音を察知したのか直ぐに引っ込んだ。


 だがもう遅い。裏に行って、そこで敵を排除して、終了だ。

 全力で走って木陰へと銃を構え、引き金を引く。


「っ!?」


 が、その弾は誰に当たる事も無かった。


 そこには敵の姿はなかったのだ。


 ゾクリと嫌な感覚が走って、それが正しいというように何処からか弾が飛び、足元に着弾した。

 いつの間にここから消えたんだ。いやそれよりも何処に行ったんだ。


 直ぐに思考が回転し、身体が勝手に動く。


 撃たれた方向は右斜め後ろからだ。が、当てようともしないこれは陽動。

 次に敵が動くのは、その振りむき動作でがら空きになる、左斜め後ろだ。


 銃口を突き付ける。

 同時に、喉にぐいと冷たい感覚が押し当てられた。


 俺の銃は敵を捉えていない。

 向きは当たっていたけど、敵はしゃがんでいるか伏せて居る様で、その頭上を向いている。


「てめえ、何もんだ? ただの野犬じゃねえだろ」


 腰辺りまで伸びた下草の茂みから、奇妙な声がする。


 男にしては高過ぎるし、女性にしても高すぎる。

 まるで、年端も行かない少女の様だ。


「おいおい、だんまりか? それとも喉に何か詰まってんのか? だったら今すぐ、風通りを良くしても良いんだぜ」


 銃の先が喉にめり込む。

 どうすればこれを打開できるだろうか。

 頭を巡らせるが、いい案が浮かばない。


「そうか。なら仕方ねえ。安心しな。墓は作ってやるよ」


 引き金を引く音が木の葉のずれる音に紛れる。

 久々に、死神の足音が聞こえている。


「おいおい、何やってんだ二人とも」


 が、そこに随分と暢気な声が割り込んできた。

 土の香りも硝煙の臭いも掻き消す、煙草の臭い。


「ジェーン、クライブ。何があったか知らねえが実弾込みの喧嘩は止めろよ?」


 その声に目線だけやると、暢気に俺と敵を見比べるオルフェンが、煙草の灰を落としていた。

 戦場にしてはリラックスした様子と、聞き覚えのある名前に、疑問符が浮かぶ。

 

「喧嘩じゃねえ。折角の食材に毒を入れる殺人鬼の、死刑執行だ」


 まだ状況が整理出来ていない中、敵が茂みから現れる。


 その姿に、更に疑問符が浮かんで、混乱してくるのを自覚した。


「それとも団長は鉛入りの肉を食って楽になりたいのか? ならケツに直接ぶちこんでやるよ」


 銃を担ぎ、ボウガンを背中に背負う敵の姿。

 それは武器に埋もれた十才くらいの少女にしか見えなかった。

  


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