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2-11 彼女の本質

 北に飛べば街並みはどんどん工場のようなものが多くなっていく。

 ここは工場地帯らしく、恐らく兵器を扱っているのだろう。


 そしてそれらの製品を一括して保管する為か、その先に倉庫群はあった。


 強い日差しを跳ね返す白い塗装をされた丸屋根。

 それが隙間なく奥まで並んで、ある種壮観な眺めを作り出していた。


 大きな倉庫が遠くに行くにつれどんどん小さくなって、一番最後なんて豆粒みたいにしか見えない。


 このどれも同じ見た目の倉庫のどれかに、敵が居るのは間違いない。

 何せ、傍には軍服を着た男が倒れている。シミラーの仕業に違いなかった。


「……余り突っ込みたくないな」


「ああ、あいつ等のせいでちょっと体力使ったしな。俺ら」


 先の戦いで、消費したのは俺だけじゃないらしい。

 ジュリアンもヘルメットの隙間から汗を拭って、ため息をつく。


「それに指揮権はレベッカにいってる。先ずはレベッカを探そう」


「了解」


 そう言えば、レベッカの指示に従えって言っていたような気もする。


 全く信用できない奴の命令なんて聞きたくはないが、ほどほどに信用できるオルフェンの命令だ。

 一応、探して何を要求するかだけは聞いておこう。


「しっかし、航空兵が探してるって言ってたけど、何処にも居ねえな」


「こういう場合、味方は既に騙し討ちに」


「おっと待て。悪い事を言う前に、どっかに隠れよう」


「迷信深いね」


「これで何度も何度も酷い目に遭ってるからな」


 近くに立つ工場の屋上へと降りて警戒しつつ、話を続ける。


「騙し討ちにあって全滅したのかも」


「そりゃねえぜ。メトロポールは規律あるマフィアだ。頭は絶対に守る。全滅は有り得ねえ」


「じゃあなんで居ないんだ?」


「そうだな……。きっとそれは後ろの人間が知ってるぜ」


 と言われて、初めてその気配を察知できた。


 彼の息遣いや動きはそれだけ微弱だったのだ。

 刺激しない様にちらと見れば、後ろの建物に隠れていた影が姿を消す。


「……何だあれ?」


「殺す気はねえんだからメトロポールだろ。まあ待ってな。直ぐに無線が来るぜ」


「無線を待つな。普通ならそっちから確認取るものだろう?」


 後ろから男の声がして、思わず銃を構える。

 今度は全然気配が分からなかった。


 しかし、直ぐに敵に囲まれて、銃口を四方八方から突き付けられて、抵抗なんて出来そうになかった。


「こっちは味方だ。銃を下ろせ」


「じゃあなんで銃を向けている?」


「ボスから新人はまだ野生が抜け切れてないと聞いた。近付く際は細心の注意を払うべきだろう」


 構えていた銃を下ろして、男がヘルメットを外す。


「メトロポール航空兵団団長、フィリップだ。ボスが待っている」


「了解、案内してくれ」


 顔見知りなのか、ジュリアンを疑いもしない。


「こっちだ」


 そう言う団長に、付いて行ってしまう。

 全く信用できないが、仕方ないので俺もその後ろを歩く。


 屋上を降りて、しばらく歩いて、彼が入ったのはとある大きな工場だった。


 そこは工場の機械を全て壁際に押しのけてあり、コンクリートの床が露出されてある。

 そして、工具やバーナーなどが置かれ、簡易的な航空ユニット用のドッグに改造されていた。


 彼等はどうやら既に一戦交えたらしく、壊れたユニットの修理と怪我の治療で忙しそうだ。


 その中心で、メトロポールの頭であるレベッカも椅子に座って腕に包帯を巻かれながら、パイプを吸っていた。


「来たか」


 俺達に気付いたレベッカが、治療中にも拘わらず近付いて来る。


「ボス、まだ治療が」


「いい。どうせかすり傷だ」


 治療者の腕を押しのけて包帯を外す。

 露になった腕の裂傷は火傷にもなっているから、どうやら銃弾でなく爆発で受けた傷らしい。


「説明する。倉庫近くに軍人の死体を確認、他にも敵影を確認した。が、接近した途端、奇襲をかけられた。事前情報のお陰で幸い死者は出なかったが、偵察部隊の三分の一が負傷した」


「そりゃ随分と、やられたな」


「全方位からの爆撃を受けた被害にしては、軽微と言える」


 パイプの煙が消えて、近場に居た一人が新しい刻み煙草を持ってくる。

 煙草は欠かせない質らしい。直ぐに火を着けて話を続ける。


「ロランは今回の為に随分と長い時間をかけて準備をしてきたのだろう。恐らくまだまだ罠が複数仕掛けられている可能性がある」


「どうするんだ?」


「さてな。それは参謀のオルフェンが決める事だ。ただ、私達を撃った輩は皆絨毯爆撃の下に叩きのめしたが」


「絨毯爆撃って、市街戦でやるなよ」


「砲兵の実戦経験の為だ。それにやられたらやり返さねばな」


「で、倉庫の中は?」


「倉庫……。それが問題だ。それこそが奴等が長い時間をかけて準備をした証拠でもある」


 パイプの甘い煙を吐いて首を傾げ、倉庫のある方へ視線を送る。

 ものに遮られ、見えない筈だけど、彼女には何かが見えるらしい。


 不愉快そうに目を細めた。 


「どれも空だった。敵も少数で、私達の捕まるくらいならと頭を撃ち抜いた」


「空って中身はすっからかんか。そりゃ時間かかってるって分かるわな。てか、一体どれだけ装備必要だったんだよ」


「さあな。ただマフィアには不相応な装備には違いない」


「不相応な装備?」


「大砲だ。この町を焦土と化してもまだ余りあるくらいのな」


「……うわあ」


「全く厄介な話だ。もっと早く気付くべきだった。ドン・ロランの目的は私達を殺す、ではなくこの町の掌握だった訳だ」


 レベッカが、言ってパイプの煙をゆっくりと吸い込む。


 さてと。


「意味が分からない。つまり俺は何をすればいい?」


 話がさっぱり分からない。そもそも何で町の破壊が掌握に繋がるんだ。

 そもそもロランとやらは、ナハトの風とマフィア達、チンピラと反乱分子を争わせて何がしたかったのか。


 俺の疑問に、彼女が視線を戻す。


「私達は最初こう考えていた。ドン・ロランは反乱軍とカシュア軍を使い、私達を壊滅させようとしている、と」


「ああ、そうだな」


「だが、あいつ等はそんな事を考えていなかった。最初から、大砲でこの町ごと私達の拠点を破壊して資金や武器を焼き払う気だったのだ」


「それでお前達は終わるのか?」


「いいや。だが、この地域でシミラーが一歩抜きんでる事は間違いない。いやはや参ったな」


 平坦な声でそう言って手近に居た人を呼び寄せる。

 その人の手には無線があり、彼女はそれを受け取った。


「じゃあ、どうするんだ?」


「先ずはオルフェンとアルベルトに連絡だ。後に私達は全力でロランを殺す」


 そう言って無線で誰かと連絡を取り始める。


「オルフェン、敵は町ごと私達の資産を破壊するつもりだ」


 何故かこっちの無線からも声がする。

 この無線はナハトのメンバーしか使えないという訳じゃないのか。


「どういう事だ」


「兵器庫から大砲が全て無くなっている。弾薬もだ。そしてこの辺りにはシミラーは居ない」


「へえ、つまりあわよくば俺達を殺し、でなけりゃ地盤を破壊って事か」


「どうする? 私は今から攻勢に転じようと思うが」


「そうだな……。確かりゅう弾砲は十キロくらいが最大射程だったな」


「ああ、だから町から十キロ圏内を探す」


「いや、確かいい場所がある。野砲が比較的簡単に移動できて、その上簡単に見つからず、港町を全て砲撃できる場所だ」


「ほう。何処だ?」


「そこから二百メートル行ったところに大通りがある。その道を行った所に森がある。そこに隠しておけば三日位は隠せるだろう」


 なら今すぐそこに直ぐに急行して、殺さないと。

 そう思ったけど、何だか辺りの動きが鈍い。


 何故か彼等は示し合わせたように、一方を見ていた。


「成程分かった。では、そこをやればいいんだな」 


 その先ではレベッカが、パイプをくわえたままニヤリと笑っている。

 この人が笑うのを初めて見たけど、成程マフィアだ。


 随分と凶悪な笑いだった。


 今まで後手に回って来て、規模が大きくても大したことは無いと思っていた。

 まんまと罠に嵌って、そこは知れたなあとも、うっすらと考えていた。


 でもその印象を全て払しょくするような、そんな笑いを浮かべている。

 浮かべたまま、彼女は指示を飛ばす。


「準備は?」


「たった今全て完了しました」


「そうか。では撃て」


 短い命令だった。


 それだけで遠くで何かを撃つ音が聞こえた。


「何をしたんだ? レベッカの姉御」


「迫撃砲で撃てる焼夷弾という物を入手してな。試し打ちをした」


 焼夷弾。それは燃やす為に使う弾だ。


 船を燃やしたり、戦車を燃やしたりと色々あるが、焼夷弾、とだけ言う場合は広範囲を焼くものを指す。


 つまりレベッカは森ごと、そして生きたままシミラーを焼き殺すという選択をしたのだ。


「……そりゃロランが哀れだぜ」


「そうか? 豚に生きたまま食われるよりはいいだろう?」


 そう言う彼女の眼には、焼けるシミラーの姿が見えるらしい。

 とても旨そうにパイプを吹かして、目を細めた。


 


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