2-10 共闘と裏の動き
傭兵団、ナハトの風。
彼等がどれだけ強いかは、戦ったからよく分かる。
地上でグレネードガンを構えているアンナも、対空機関銃を用意しているバーンズも腕前は一級品だ。
ジェーンは単騎で航空兵を落とすほどだし、オルフェンの知恵はまるで未来を予知しているみたいだ。
そして、航空砲兵を逃がしたオルフェンが、何の手も打たないわけがない。
だから、こいつらと対峙しても負ける気がしなかった。
こいつらが一騎当千だろうと、オルフェンが差し向けた刺客と連携してしまえばこっちのものなのだから。
「何なんですか。いきなり」
例え、あの一瞬で爆発から逃げるような敵だろうと。
敵は左右に散らばって、アンナの方を見下ろしている。
航空砲兵は地上爆撃が任務。ちょっと分が悪いか。
「アンナ! 俺に構わず撃て!」
「あいよ!」
バリケード内に居るアンナは言うや否や、グレネードガンを撃ちまくって弾幕を作った。
それに乗じ、爆発を掻い潜りながら銃を撃って、無理やり敵を地上から引き剥がす。
あの爆炎の中に高速で飛ぶ鉄片がある。当たったら一巻の終わりだ。
だから迂回する様に旋回していたのだけど
「クライブ! お前のユニットはジュリアンのと同じだからグレネードは無視して良いぞ!」
そんな指摘を受けた。
そうだった。終わりじゃないのか。ならもっと自由に動けるな。
爆炎の中を突っ切って、ローランの方に向かう。
「おわっ!?」
銃床で殴りつけようとするけど、寸でのところで避けられた。
爆発で視界を切って不意を突いたのに、随分と反応が良いな。
逃げる背中に追撃をするけど、それも上手く避けられる。
あれに追いつくのは難しいだろう。別の行動を取った方が良い。
例えば後ろへ回り込んだナタリーに、拳銃を撃つとか。
「うわっと。凄いですね。お兄さん。透視能力でもあるんですか?」
透視能力が無くたって動きは分かる。
動きの速い敵と間近で戦う時は、音で位置を探る。
それはとある死神との殺し合いで学び、慣れたことだ。
特に風切りの音が際立つそのユニットなら、簡単に聞き取れる。
でも声がするという事は、ギリギリでかわされたらしい。
敵が銃を構える前に不規則機動で回避する。
「それだけ逃げるんだったなら、そのまま投降しませんか? 私は慈悲深いですよ。海よりも深いんです。悪いようにはしませんよ。何度も言いますけど」
何て言っているが、こいつに話す暇はない。
ローランが砲兵を殺そうとまた射程範囲内に降下している。
殺される訳には行かない。あれは生命線だ。
「おおっ!?」
銃で威嚇してやれば、直ぐに引き下がった。
「いやな所に撃って来るな!」
だとしたら参考にしたジュリアンの性格が悪いんだな。
確かに、バーンズを守っている時のジュリアンは嫌らしかったし。
因みにジュリアンだったら、ここから更に手榴弾も投げつけてやるだろう。
だから俺もそれに習おう。
拳銃を高く放り上げ、両手で手榴弾を掴む。
親指でセーフティを外して、二人に投げつければ、敵はすぐに反応した。
「おっと」
「ヤバっ」
眼前の爆弾に二人の軌道がガクンと直角に曲がった。相変わらずの速い回避だ。
だが、アンナとバーンズがその動きに合わせたのだろう。
その軌道の先にグレネードの爆発と機銃の射線が重なった。
流石にペチャクチャと話す暇はなくなったらしい。
二人は無言で逃げて、大きく距離を取ろうとする。
ああ、だけど流石に無理な軌道だ。
やっと背中を捉えることが出来た。
「っ」
その一瞬で小銃を構え、撃つ。
「ぐっ」
ローランの背中に命中した。ど真ん中に一撃だ。
ナタリーも攻撃しようと思ったが、あっちは既に消えていた。
音のする方を見ると、下の方でナタリーがローランを回収している。
「舐められたものだ」
あんな無防備な背中を見せるなんて。
丁度落ちて来た拳銃を取って、それで撃つ。
獣の照準は間違いなく、弾詰まりも無かった。
だが、敵の動きに攻撃が当たった様子は無かった。
拳銃を何発も撃ったのに、何事もなくローランを回収した。
「全く、酷いもんですねえ。あっちの性能は」
「ナタリー、やばい。彼奴のせいでエネルギーが無くなった」
「分かってますよ。こっちもです。緊急防衛を使い過ぎましたね。……流石にこれ以上は無理でしょう」
「いいのか? カシュアどころか連携する筈のシミラーもまだ来てねえぜ」
「私達は十分荒らしました。義理は果たしたと見ていいでしょう。文句があるなら道草食んでるシミラーへ言うべきでしょう。……やはり私達はあれらに良い様に使われたんでしょうね」
言った後、こちらを見て笑う。
「ですが、意趣返しはとっくの昔に済ませました。きっとあなたも分かりますので、楽しみにしていてくださいね」
意味深な事を呟いて、ナタリーが手を上げる。
途端、戦艦が急に動き出して、海へと逃げ出した。
航空兵もそっちに行って、戦艦に乗り込む。
「撤退したか。追撃をしないと」
「おう、ちょっと待ってくれ」
動き出そうとしたら、無線からオルフェンの制止を受けた。
「追撃は中止だ」
「どういうこと?」
というか何処から見てたんだ。
空から見回すと西の屋根の上に人影が見える。
あの白髪と体躯は間違いなく、俺の雇用主だった。
「たった今、話し合いが終わった。話をまとめると、シミラーがヤバいらしい」
「……シミラーがヤバい? 西の奴等は殺したぞ」
てっきり西の通りに展開していた奴等がそうだと思ってたんだけど。
「あれはロランに頼まれたチンピラ共だ。あいつ等も排除したかったんだろうよ。で、現在シミラーは行方不明だ」
「カシュア軍? それにシミラーが行方不明って?」
「カシュア軍はメトロポールの伝手で何とかなるらしいから気にするな。万が一に備えてエクシプノをそのまま展開させておく。で、消えたシミラーだ」
向こうで、ライターの音が聞こえた。
人影の方も赤い火が灯っている。
「厄介だぜ。あっちはマフィアだからな。条約で保護されてない代わりに条約を守ることもない。不意打ちだろうと非人道武器だろうと、毒ガスだろうと使い放題だ」
「……それはどれだけ状況が悪いって事だ?」
「最悪だ。俺らに依頼した時から今までの時間をたっぷり使って、何かやってたんだろうよ。というかチンピラも反乱分子も、全部時間を稼ぐための囮と見た方が良い」
つまり俺達は、あの長髪中年の手の平で転がされてたのか。
「……どうするんだ?」
「敵の目的は分かってる。俺達の、いや二大マフィアの排除だ。だから遠くには行っっていない。で、今メトロポールの航空兵がこっそりと偵察してるらしいんだが、それにお前らも合流してくれねえか?」
「どの辺りだ?」
「今度は北の方に行ってくれ。あっちは武器庫がある。占領して、パクっても可笑しくねえ。現地の指揮はレベッカに任せてるから従え。他のメンツは、俺と一緒にガンディル軍を連行だ」
「了解」
「改めて作戦を言うぜ。航空兵はレベッカの指揮でシミラー探し。俺達はガンディル軍を連行し、カシュア軍が港を制する前に港から追放する。迅速に動け」
航空隊でお前らという事は、ジュリアンと一緒か。
ジュリアンを見ると、一体何があったのか、自分の背中に血まみれのジェーンを乗せている。
本人の血の気はあるようだから、きっと全部が敵の血だろう。
返り血を浴びるほどの接近戦を空中でするなんて、一体どんな戦い方をしたのやら。
まあいい。今は命令だ。
アンナ達の所に降りると、ジュリアンも降下して来る
「聞いたか?」
言えば、アンナが航空用の魔力カートリッジを渡しながら頷く。
「ああ、武装整えてもうひとっ飛びだね。水要る?」
「要る」
飛び回って、少し疲れた。これは明日も残る疲れだ。
長く飛んだからか、ずっと飛んでなかったから鈍っていたか。
どちらにせよ、余り本調子じゃない。
それを見抜かれたんだろう。ジュリアンが後ろから背中を叩いた。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ」
「って言ってる声がなんか萎びてるぜ。おい」
「お前は大丈夫なのか?」
「俺の背中見てただろ。化け物が付いてたんだ。敵は手も足も出なかったよ」
顎で示した先には、同じく水筒を受け取ってがぶ飲みしている死神。
「重量の関係でナイフしか使えなかったけどな」
腕を振りながら、ジェーンがぼやく。
そう言えば、この女は高速で動く航空隊の背中にしがみ付いて居たのか。
改めて、凄い身体能力だ。
「とにかく、平気だ。駄目だったらさっさと隠れてる」
最優先事項は何時だって自分の命だ。
命令で捨てる気なんてさらさらない。
「そうか。分かった。ヤバくなったら言えよ」
「言う暇があったら逃げてる」
「いやそこは絶対に言ってくれ。マジで」
「分かった」
その時にならないと分からないが、最悪逃げながら報告しよう。




