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2-9 難敵の到来

 港に近づくにつれて、地獄の気配が色濃くなってきた。

 火薬の匂い、爆発音、歓声と、悲鳴。


 それらが潮の匂いと混じって奇妙な感覚を作り出している。

 不調和、違和感、この町とは不一致だと感じる不思議な感覚。


 改めて感じる地獄の感覚を、この港町で感じるのはとても不思議なのだ。


 仮初とは言え平穏で、誰もが暢気に暮らしていた世界に、これがぶちまけられるとは。


 あの、レストランに並んでいた奴等はどうなっただろうか。

 少しは好ましい顔になっただろうか。自分達が犠牲の上で生きていることに気付いただろうか。


 いや、きっとあの時の俺みたくなっていたに違いない。


 つらつらと無意味なことを考え、そして上空に行くと全貌が眼下に現れた。


 灰色の港で分かれた陸と海。

 そこを境に爆発の光が飛び散って、煙が立ち込めていた。


 陸がマフィアで、海の方がガンディル軍の反乱分子らしい。


 先ず反乱分子の方だが、かなり凄い兵装だ。そもそも立っている場所が殺意に溢れてる。


 彼等が足場にしていたのは、港に浮かぶ軍艦だった。

 砲が幾つも搭載されていて、そこに立て籠もって戦ってる。

 銃撃する兵士達は、最前線でも戦える装備で、弾数を気にせずに、湯水のごとく弾を撒き散らしていた。


 どう見ても反乱分子の装備が潤沢過ぎていて、質と量の暴力で叩きのめされそうだ。


 なのに何故だろう。


 よくよく目を凝らすと彼等は随分とボロボロだった。

 戦艦もそこかしこに傷が付いていて、砲の根元なんて皆一様に凹んでいる。


 これじゃまるで、反乱分子が劣勢みたいじゃないか。


 可笑しい。良い装備はそれだけ寿命を延ばす筈だ。

 だったら、あんな豪勢な装備なら、寿命を迎えるまで生きれそうなのに。


 今度は陸上を確かめてみる。


 こちらはマフィアの勢力だ。

 パッと見て彼等の兵装は、マフィアにしてはいい装備だけど、所詮そこまでだった。


 陸上ではスーツを着た男達が装甲車を盾に、重機関銃や小銃で気前よく弾を撒き散らしていた。

 辺りには対戦車ロケット弾もバラバラと転がっているが、もう弾切れらしい。使われる様子はない。


「いや、ロケット弾か」


 ああそうか。分かったぞ。


 マフィアは先ず、あの対戦車ロケット弾で戦艦を徹底的に破壊して、機関砲などを使えなくしたのか。

 

 きっと一番最初に砲を止めないと、と思ったんだろう。

 そして、見事破壊に成功して、敵に銃での応戦を強いる事に成功した。


 マフィア達はその判断力と急襲で、兵器の差を埋めたのだ。


「今んとこ俺らの出る幕がねえ訳だな」


 ジュリアンがそうぼやくのも納得だ。


 戦いはもう、終盤に近付いている。手助けなど必要ないだろう。


 甲板にはもう血が染み付いていて、手すりに死体が引っかかり、それを盾に銃撃している始末だ。

 士気だってもう最底辺で、皆延命のために戦っているだけだ。


 マフィアの方はというと怪我人は居るけど、常にそれらは後退させて治療をさせている。

 士気も高くて、今が押し時と言わんばかりに引き金を引いている。


 士気の差は集団戦においては大きな要因になる。

 これじゃ勝敗は決定したも同然だ。


「でも、士気は復活する時がある」


「例えば?」


「優秀な仲間が助けに来るとか」


「止めろ。なんで皆そう悪い事を口にするんだよ。現実になったらどうしてくれんだ。……ん?」


 嫌にタイミング良く俺とジュリアンの耳元で、無線が唸り出す。

 これはオルフェンの声だ。


「聞いてるか? こちらチャーリー。港に向かう航空砲兵を確認した。こっちで対処しようとしたが逃げられた。警戒し、迎撃しろ」


「了解。……ほら見ろ! やっぱりこうなった!」


 直ぐに吠えて、俺を睨む。俺のせいなんだろうか。

 俺はただ可能性を言っただけなのに。


「仕方ねえ。先ずは上に陣取って奇襲かけんぞ!」


「分かった」


 ジュリアンの後に続いて、真っ青な空に向かって飛ぶ。


 空高くを飛ぶのは、少し苦手だ。


 位置を確認する物は遥か下にしかなくて、重力の方向も加速によってコロコロ変わる。

 すると自分がどこに居るのかはおろか、どっちが上かも分からなくなってくるのだ。


 天地もない、視界いっぱいに広がる青の世界。

 それを初めて体験した時は、一時的にパニックになって森に落ちかけた。


 でも今は、ヘルメットの中の計器を確かめて、現在どんな状態かを確認する余裕がある。


 現在はジュリアンを追って緩やかに弧を描いて上昇している。

 足側にあるのが海、頭が空だ。間違いなく順調に進んでいる。


「よし、この高さまでくればいいだろう。本当は雲に隠れたかったんだけど、空にそんなものねえし」


「ここで大丈夫なのか?」


「ああ。ここなら敵に見つかりにくい上、見つかったとしてもすぐに捕捉出来るし、優位に戦える。航空エネルギーの差は大きいぜ」


 航空エネルギーは位置エネルギーと運動エネルギー、高さと速度の総和を意味する戦闘機関連の用語だ。

 上昇や方向転換で消費すると見なされ、高さと速度によって保存されると考えられる。


 速度が足りなければ墜落してしまう戦闘機では、必須の考え方だ。


 勿論、航空ユニットは常に重力を打ち消す力を使っているため、停止しても落下はしない。


 だけど、防御が貧相な航空ユニットにとって止まることは死を意味する。

 そう考えると、航空兵も絶対に速度と高さを気にする必要があるのだ。


 きっとそんな事を考えてここに陣取ったのだろうし、俺も同意見だ。

 彼の言った通り、雲に隠れられていないのは残念だけど、それでも良いと思える立ち位置だ。


「だが、敵影がねえな」


「オルフェンはいつ来るかとか言ってなかったね」


「ああ。流石にそこは分からんだろうな。それに航空砲兵って言ってたし」


「航空砲兵って確か」


「ああ、敵陣深くまで行って、砲兵を叩くのが主な任務の部隊だ。かなりの粒揃いだぜ。練度も技術も低いガンディルだとしても油断はできねえ」


「じゃあもう少し高く飛ぶ?」


「いや、最高高度に近づくからそれはやりたくねえな」


 最高高度か。ちょっと引っかかる。


「そう言えば、ガンディルの航空ユニットって速度は出ないけど、結構な速度と最高高度を出してたような」


「マジ?」


「新兵だったけどかなり苦労した」


「じゃあちょっと不味いな。うちのは小回り効くし頑丈だけど高度はそこまで追求してねえんだよなっ」


 俺とジュリアンが散開すると、居た場所で爆発が三つ起きた。


 落下音に気付かないまま待って居たら、一気にやられていただろう。

 見上げると、戦闘機のような翼を背に付けた影が五つ、見える。


「成程、確かにありゃ高いな。俺達のユニットじゃ届かねえぜ」


「でも銃弾は届きそうだ」


「ああ、精々二百メートルしかない。それに、気付かれない様に微速運転で来た見てえだな。すげえ遅いぜ」


「あれは旋回時の減速が激しい。小回り利かせれば行ける」


「流石、ガンディルと戦い慣れてるな」


「来る」


「おうっ」


 無線会話を終わって、弧を描きながら降下する。

 すると直ぐに後ろに二人着き、追いかけて来た。


 かなりの速度だ。このままだと直ぐに接敵してしまう。

 それに操作も滑らかで、練度の高さが伺い知れる。


 これじゃ手榴弾の一発じゃ隙を作ることは出来そうにない。


「後、多分敵は冷静だ」


 無駄な弾を撃ってこないし、直ぐに接敵することをせず、じわじわと左右から距離を詰めている。

 俺が変な操作をすれば、直ぐにでも食らいついて殺しにかかるだろう。



 ただ、内回りの奴が若干ふらついてるから、そこが狙えば打開はできる。


 小銃を一旦肩に掛けて、反動の少ない拳銃を取り出す。

 そしてネジを回すような、進行方向を基軸とした回転をする。


 常に回転の外側に腹が来るようにして回転すると、上手く減速し、丁度『頭上』に敵の背中が見えた。


 小銃だったら無茶な体勢だが、拳銃なら撃てる。

 回避行動を取ろうとするその背目掛けて、引き金を引く。


 一応、八割ほどは当たるだろうと思っていた。


「いよっとお!」


 が、敵は急に頭を上にあげて減速し、弾をかわしてしまった。


「ちょっと甘いんじゃないですか。お兄さん」


 そしてすぐ後ろで声がする。

 ナイフを振るえば、既に敵は後方高くに逃げている。


 可笑しい。一体どうやって後ろに着いたんだろうか。

 それに、どうして攻撃をしなかったんだろう。


「大丈夫かっ!?」


 無線でジュリアンの声がつんざく。

 煩いけど、声の裏に聞こえる発砲音で、怒る気にはならなかった。


 あっちもかなり不味いらしい。


「大丈夫っ」


「本当かっ!」


 今度は斜め下。またすぐ近く。


 拳銃弾をばらまくと、今度は急加速して避けた。


「そっか」


 道理で上手く追えないわけだ。


「ジュリアン、彼奴らのユニットは加速性能がいい」


「ただいま実感してるよ! どうやっても振り切れねえ!!」


 加速性能が良いのは、かなり大変だ。


 元々最高速度が優れているのに、更に加速性能を良いなんて振り切れる訳がない。

 きっと急旋回や減速も直ぐに加速して補っているんだろう。


 その上、彼等の操作でそれはまるで川の流れも容易く乗りこなす魚みたいに自由に動いている。


 まるで空を泳いでいるみたいだ。


 引き剥がしにかかりながら、俺の周りを縦横無尽に飛び回る二人の兵を見ていると、確信が湧いてきた。


 こいつらには勝てない。絶対に。

 きっと今生きて、考えることが出来てるのは、彼奴らが本気じゃないからだ。



「……」


 だけど、不思議と絶望しなかった。


 だって彼等からはオルフェンの様な底知れ無さも、ジェーンの圧殺される様なプレッシャーもないからだ。


 勿論、絶対に勝てない。実力差がありすぎる。

 だけど、俺は死なない。生き残るのは俺だ。


「ジュリアン。地上は?」


「優勢っ。だけどこいつらが行ったら崩れるぞ」


「なら、現状維持はどう?」


「……それしかねえな」


 そういう声は少し悔しそうだった。


「嫌なら、殺してもいいけど?」


「お前はできるのか?」


「身体を犠牲にすれば」


「辞めろ。エマが涎垂らして喜ぶぞ」


「前言撤回。絶対に無理」


 敵が接近して来る音がする。話す暇ももうないか。


 小銃で軽く弾幕を張りながら、もう一度二人を引き剥がしてみる。


「初めまして。お兄さん。私はナタリーと言います。お目にかかれて光栄です」


 が、後ろの声が追い払えない。若い女のからかうような声がする。


「ああ、あっちも紹介しときましょう。あれは私の相棒のローラン。私達は反乱軍の指揮を取っているんですよ」


 細かく旋回するけど、性能差がありすぎるんだろう。

 やはりぴったり張り付いている。


 違和感のある敬語が着いて離れない。


「指揮官が矢面に立っていいの?」


 後ろを見ると、小銃の銃口がこっちを向いていた。

 が、引き金に指はかかっていない。


 後ろを取ったときといい、殺す気が無いらしい。


「いいんですよ。空で死ねるなら本望ですから。それに空じゃ死ねないので。私」


 ニッタリとした笑みが、ヘルメットの下で見えた。

 成る程。この女、敬語で話しながら見下してるのか。


「貴方が羨ましいですよ。こんな綺麗な空で死ねるんですから。余りに羨ましすぎて、殺したくなくなりました」


「殺す気がないのは元々でしょ」


 手榴弾を前に投げて、一気にそれを追い抜く。

 巻き起こった爆発を壁に小さく旋回して、後ろにつく。


 これで、背中を捉えた。


「そいやあ!」


 けど、邪魔が入るらしい。


 何かが飛んでくる音がする。

 かなり鈍足の大きめのもの。


「手榴弾か」


 回避すると、視界の隅で爆発が起きて、体を押す。

 当たったかと思ったけど、範囲からは逃げ切れたか。


「うちの姉さんと遊びたいなら、俺を通してくれ」


 ローランと呼ばれた男か。斜め右上から追っている。


 どれだけ複雑に左右に振っても張り付いて、新たに手榴弾のピンを引き抜き、此方に投げつけてくる。

 それを避けつつ、よくよく見れば、彼の肩にかかるベルトにはずらりと手榴弾が着いていた。


 小銃を補助に、手榴弾で戦うタイプか。


「面倒くさいなっ」


 急降下してスピードを稼いでみるけど、やはりそれにもついて来る。

 そして、奇妙な事を言い出した。 


「急で悪いんだけど、あんた仲間にならないか!?」


「どういうつもりだ?」


「別に。ただ俺達の目的はお前達のせん滅じゃなくて、仲間の幸せだからな。さっさとあそこに居る。マフィア共をぶっ殺したいだけだ」


「それは無理な話だ。俺はあんたの仲間をぶっ殺さなきゃならないんだから」


「それは、辞めといた方が良いぜ。もうカシュアも来る。後少ししたら海上は封鎖。背後を突く作戦の行きがけの駄賃に殺されるだけだ」


「へえ、たかが反乱分子が随分と大事にされてるんだね」


「まあな。幾ら手段を選ばない奴等と言っても、一端手を組んだ人間を早々と裏切る訳には行かないのさ」


「そうかいっ」


 銃を乱射して囀る奴を突き放す。


 彼方は時間が経てば勝てると思っているらしい。

 だったら俺もその時間をゆっくりと食いつぶすとしよう。


「下のマフィアがの仲間を殺すまで、逃げ回る気か!?」


「それはお勧めできませんねえ。お兄さん」


 今度は正面に来た。

 前にはナタリー。後ろにローラン。


 横に急旋回するが、ぴったりと左右に貼り付かれている。


「私達が貴方を勧誘しているのは、無駄な殺生を避けるためです。ですがそれは味方の命を犠牲にしてまでするつもりはありません。仲間になる意思がないなら直ちに殺します。それに」


 くすりと、笑った気がした。

 朦朧と始めた脳の誤作動か、本当なのか。


「私の仲間が死んでもカシュアが来ます。それはそれは強大な軍です。マフィアも撤退するでしょう。貴方が期待している助力は得られませんよ」


「助力? 何の事?」


「貴方が時間稼ぎしていると、気付かないとでも。それは愚かですよ。貴方は時間を稼いで地上戦力と橋梁くすることを考えている。実力差があり過ぎて、殺せないから。でしょう?」


「だとしても、カシュアが来るまであいつ等が持つと、どうして確信できる?」


「私達はあのカシュアに延々と抗ってきました。上の言うタイミングとやらを待ちながら、そのせいで仲間を殺されながら」


「おう、この程度の劣勢で簡単にひしゃげるほどナマクラじゃないのさ!」


 左右からペラペラと煩いな。

 こっちはもう会話を理解するだけの余裕はないのに。


 もういい加減、突貫してやろうか。

 そう思い首を回すと視界に何か入る。


 ああ、もういいのか。そんな事を考える必要がなくなった。


「さて、そろそろ時間もないですし。これ以上回答を引き延ばすのなら本当に殺しちゃいますよ? どうです。武装解除して、私達と楽しく過ごしましょうよ?」


「そうだなあ……」


 五、四、三、二、一。


「いやだ」


 防風陣を全開にして、空気抵抗を上げ、一気に減速する。

 敵が反応し停止するけど、それでも五十メートルの開きが出来た。

 

 その差は、優秀な砲兵には十分な大きさだ。


 眼前に、硝煙臭い華が開いた。


 グレネードガンだ。空中炸裂して、その勢いに少し押される。

 ナタリーもローランも、爆発に消えて、姿が見えない。


「ナイスだ! クライブ!」

  

 声に下を向けば、その所業を為したアンナが、地上で手を振っていた。

 時間稼ぎは成功だ。俺達が待っていた奴等が、やっと来た。


 俺は別に見ず知らずのマフィアを手を結んだわけじゃない。だからあいつ等の協力は期待していない。


 俺が期待したのは、俺を殺せるほどの実力を持つ奴等だった。

 

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