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2-7 マフィア達の画策

 西門に続く通りは曲がりくねっていて、そこをタイヤが空回るギリギリの速度で走った。

 偶に運転手から悲鳴が聞こえたけど、何とか事故は起こらずに済んだらしい。


 車を降り、有名な彫刻家が作ったと言われる西門を見上げる。


 芸術なんて分からないけど、この国の象徴である魚を模したものらしい。


 その滑らかな肌を持つ魚の下には、トラックと装甲車が並んであり、ジュリアン達三人が既に居た。


 オルフェンの指示通りなのか、荷台には大量の木箱が積まれている。

 それが備蓄だとするなら凄い数だ。きっと数日間は戦闘できるに違いない。


 けど、何故だろう。そんな荷台の上に見知らぬ人物も居た。


 赤い髪を中ほどで切った女だ。ごついパイプから煙をくゆらせている。

 でも彼女を見た時、パッと目に入る大きな特徴は髪でもパイプでもなく、頬の傷だろう。

 耳の前から顎の所まで伸びる大きな傷のせいで、随分と剣呑な雰囲気が漂って、不穏だ。


 そんな女が荷台に腰かけ、詰まらなそうに遠くを見ている。


 こんな女を俺は見たことがない。一体誰だろう。

 敵だろうか味方だろうか。撃って良いのか悪いのか。

 判別付かなくて、辺りを伺う。


 すると、オルフェンが驚き、笑っていた。


 あの様子を見るに、敵ではないらしい。


「レベッカ。メトロポールの総大将がどうしてこんなとこに居るんだ?」


 彼の問いかけに、ぼんやりとした視点が俺達の方に合う。


「ああ、やっと来たのか。待ちくたびれたぞ」


 パイプの中身を思いっきり吸い込み、地面に残りカスを捨てながら地面に立つ。

 姿勢悪く座っていた時は気にならなかったけど、真っ直ぐ立って初めて分かる。


 彼女は、偉丈夫だ。


 身長がアンナと同じなのに、アンナ以上に体ががっしりとしている。

 小型の大砲なら反動を抑える装置なしで撃てそうだ。


「何故ここに居るかと言えば、新人が入ったという話を聞いて顔を見たくなったからだ」


「そうかい。じゃあ紹介しておこう。クライブだ」


 背中を押されたので、一歩出て礼をしておく。 


「小さいな。ジュリアンの時も思ったが、お前の隠し子か?」


「ちげーよ。よく飛んで、よく殺す。良い航空兵だ」


「成程、では縁を作っておこう。レベッカだ。マフィアの一つ、メトロポールのボスをやっている」


 握手を促されて、一先ずそれを握る。

 硬い手だ。それに、これだけ近付くと臭いもした。


 真新しい、赤を想起させる臭いだ。


「殺したのか?」


「邪魔なのを何人かな。……確かにいい兵士だな。血の臭いを嗅ぎ取るか。それに手の平も硬い。マグナムは撃つか?」


「撃たない。火薬式は余り好きじゃない」


「そうか。では今度魔道式の小銃でもやろう」


「間に合ってる」


「可愛げのない奴だ」


 そう言うとレベッカは手を離し、改めてオルフェンに向き直る。


「もう少し愛嬌を教えたらどうだ?」


「いいんだよ。で、殺したって事は襲われたのか?」


「まあな。例の古狸の巣にも押し入ったらしい」


「そりゃ不味い。この町は終わったな。エクシプノが更地にする前に引っ越しの準備をしておいて良かったぜ」


「ああ。その件に関しても言いたい事がある。君達は引っ越しをしなくても良くなった」


 そう言うとレベッカが手を上げる。


 すると建物の影から数人の迷彩服姿の男がゾロゾロと出て来た。

 みんな銃で武装し、手錠をかけた軍服の男達を連れている。


 手錠をかけられた男達は誰も彼も憔悴しきった顔で、俯いて陰鬱だ。


「お、今夜の夕食か? 大食いだな」


 銃の整備をしていたジェーンがニヤリと笑うが、レベッカは取り合わない。


「こいつらは、反乱分子だ」


「何の反乱だ?」


「オルフェンにしては鈍すぎるぞ。ガンディル国に対しての反乱分子だ。カシュア軍に内応して、港を破壊、もしくは明け渡すつもりだったらしい」


「へえ。まあ、負けが分かってる戦なら起こり得るな」


 その思考回路は、俺も理解できる。


 生き残るためには何もかもを使う。それは地獄に置いて当然の手法だ。

 例え自分が守ってきた国だろうとそれは例外ではない。


「そんな風にガンディル軍が動いているのは、別に構わない。問題はそれを利用したい奴が居たという所だろう」


「ほうほう、そう言う事か」


「どこぞの嘘吐きが、私とエクシプノが反乱分子の動きを探り、ガンディルに横流ししている等という噂を流しているらしい。さて、誰だったかな……」


 レベッカが思い出そうと首を傾げつつ、腰のナイフを抜いて軍服の男の首に突きつける。


「ど、ドン・ロランだ。シミヤーのドン・ロラン」


「そうだった。ドン・ロランだ。しかし、私も歳を取ったらしい。ロランが、具体的に何をしていたか。一番重要なそこすら忘れてしまった」


 そして次の男の顎を、ナイフでくいと上げる。


「ドン・ろ、ロランは、アルベルトとレベッカが共謀して、反乱分子の情報を集めてると、傭兵や情報屋、犯罪者を使って、探してると噂を流していた」


「そうだった。つまりドン・ロランは反乱分子に疑惑を持たせて、私と犯罪者と傭兵をまとめて排除しようとしていた訳だ。さて、ドン・ロランの最終目的は何だったかな?」


 最後の男の頬に自分と似た傷を浅く付けつつ、尋ねる。


「港の独占と、か、カシュア、軍との癒着だ」


「ああ、これで全部思い出した。やはり忘れた時は人に聞くべきだな」


 にやりと笑って、ナイフを仕舞い指示を出す。


「もういい。釘を刺した後、そこらに捨てておけ」


 迷彩服の男達が退場し、レベッカはオルフェンへと向き直る。


「以上が事の顛末だ」


「成程な。で、引っ越しの必要がなくなったのか。まあ言わずもがなだが、聞いておくか。やるのか?」


「ああ。喧嘩を売られたなら買うまで。三大マフィアは、数日中に二大マフィアになる。残念だが、あれにはどこかに消えてもらおう。祖国か、海底か、何処かの牢屋か」


「成程な。じゃあ俺達はほとぼりが冷めるまでじっとしていればいいのか?」


「それでもいい。が、私達も勝ち馬に乗りたくてな。カシュア軍と知り合いになるのも一興かという話になった。それについて話がある」


「ほお。ここからどんな曲芸飛行を俺達に強いるんだ?」


「別に難しい事じゃない。偶然にも狸が色々と情報を持って居てな。そしてこれも偶然なんだが、私がカシュアへの伝手を持って居る」


「随分と重なる偶然だな。どのくらい前から偶然が起きてたんだ?」


「お前がガンディルの司令官と仲良くなりながら、その上退役軍人を使ってカシュアとも伝手を作ろうとした時からだ。カシュア軍はビジネスパートナーになり得るんだろう?」


「ああ。あのあいつ等は何でも使うからな。自国民他国民、味方や敵、傭兵にマフィアに犯罪者。より富を得る為なら手段を選ばない。是非とも仲良くしたかったよ」


「カシュアと仲良く、か。そんなお前に朗報だ」


 赤い封蝋を押された、ごくごく普通の封筒だが出て来る。


 しかし、その赤い封蝋に押された紋章はカシュア軍の物だ。

 話しの流れとそれが本物ならば、手紙はカシュア軍からという事になるけど。


「本物か?」


「間違いなく」


「じゃあ拝見」


 封を切って、手紙を出す。

 紙面は余程興味深いものだったのか、感嘆の声を漏らした。


「報酬とカシュア国への入国を許可する代わりに、ガンディル軍を港町から撤退させろ、か」


「要約するとそうらしいな。お前に要求することは、言わなくても分かるだろう?」


「ああ。……まあ、出来なくもない、か」


「だろうな。因みにこの手紙は私とエクシプノにも届いている。マフィアで良ければ人を寄越せるぞ。手数は居るか?」


「要らねえよ。エクシプノとメトロポールにゃ港に待機してもらう。タダで荷物を運んでもらうぜ」


「……そうか。いいだろう。支払いはカシュアにつけておく」


 話は終わったらしい。


 レベッカは再びパイプに草を詰め、吹かし始める。

 オルフェンも煙草に火を着けて吸うと、煙に言葉を乗せた。


「それにしても、メトロポールのボスが伝言のお使いとはな。余程新人を見たかったのか?」


「風の噂で賞金首という話を聞いた。軍人相手に圧倒する戦闘力を有する、この戦争の止めを刺した奴だと」


「はっ。それは言い過ぎだろ?」


「いいや。その通りだ。この子供は、ニトロに相当する人材だ。莫大な破壊力を有し、扱いが難しい。今からでも遅くない。こちらに渡すのはどうだ?」


「よせよ。こいつはそんな大層な奴じゃない。空を飛ぶのが上手いガキさ」


「……オルフェン。狸も注目しているぞ。この子供に」


「忠告痛み入る。が、心配は無用だ。エクシプノとは争わねえし、仲良くもしない。勿論誰かを渡す気もない」


「それを聞いて安心した。私が保護する必要はないな」


「ああ。世渡り上手って言ったのはあんただぜ」


 その言葉に、パイプをくわえた口の端が微かに上がる。

 ここに来て初めて見せた笑顔だ。


「そうだったな」


「そうだも」


 眼を細めて笑うレベッカとにっかりと笑うオルフェン。

 二人が吐いた煙が混ざって、町中へと消えていく。


 色々と予定が決まったらしいけど、全ては彼等の腹の中。蚊帳の外の俺にはさっぱりだ。

 一体何をどうすればよいのだろうか。


 バーンズを見上げると、苦笑いを漏らしている。

 何かを把握しているようだった。


「どうするんだ?」


「えーと、要約するとオルフェンの指示通りに動けばいいと思うよ」


「それは分かってる」


「えーと、じゃあ簡単に言うとここら一帯が地獄絵図になる……かも?」


 その曖昧な答えは、俺の疑問を更に膨らませる。

 が、地獄となるなら問題はない。


 殺してはいけないなんて生温い規則に縛られるよりも、地獄の中でのたうち回る方がずっといい。


 それに軍隊という、暴力に手慣れた勢力と戦うのだ。

 ぬるい規則従っていては、きっとすぐに殺されるだろう。


「ああ、でもオルフェン達が全部片付けるかもなあ」


 なんて考えつつ、万全の準備を整える為にトラックへと入る。


 戦いはもう直ぐだ。


 


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