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2-3 廃棄間近の船と愛銃

 今日一日歩いて分かったことは、この軍港には色々な人間が色々な目的で居るという事だった。


 足のない、敵国の軍人と通じている好好爺。

 男か女かも分からない、得体の知れない売人。

 何人もの子供を育て売人に部屋を提供する、修道女。


 大通りを歩けば世界は全く秩序だっていて、幸せではないけど平穏な日常が流れているのに、その流れの底では無秩序が濁り溜まっている。

 観葉植物で彩られたレストランも森の木並みに高い時計塔も、その汚泥の上に建てられている。


 彼の言う通り、レストランで焼かれていた肉もそう言った存在の賜物で、彼がやった様に、ナハトの風はその中で金を稼いでいるのだろう。


 そしてそれこそがここでの地獄を生きる知恵なのだ。


 一件馬鹿の様に見える人間ですら、その知恵を活用している。

 逆を言うなら、これを身に着けていないと生きていけないのだろう。


 この一見平穏な大通りを行く人々の中で、一体何人がそういった人間なのだろうか。


 少なくとも、長い前髪をピンで留めなおし、時計塔の針を見上げる青年は間違いなく身に付いていた。

 時間はジュリアンの望んだ結果か、それ以上の成果を示していたのだろう。


 にっかりと笑って俺の方に向き直る。 


「いよし、後は爺に会って駄賃を渡すだけ。簡単な仕事だったな。クライブはこの後どうする?」


「帰って寝る」


「それ以外で」


「予定ない」


「じゃあ武器見ようぜ武器。丁度姉ちゃんもそこに居るだろうし」


「武器? あるのか?」


「おう、軍港だからな。色々とあるぜ。あんな国とかそんな国の奴がな」


「そうなのか」


 その提案は、少し惹かれるな。


 武器は良ければ良いほど持ち主の寿命を伸ばす。

 もしそこに良い物があるのなら、買っておくのもいいだろう。


 それに、今の俺は全ての武器をナハトの風に依存している。

 もし、彼方が裏切った場合、どうなるかは目に見えて居る。


 彼奴らの性格上、可能性は少ないが無い訳ではない


「でも俺には金がない」


「そう言う予算に糸目を付けないのが、オルフェンの良い所だぜ」


 ウィンクをして見せて、懐から出したのは分厚い封筒だった。

 それの中身は話しぶりだと間違いなくそれなのだろう。


「さあさあ、羽振りよく使おうぜ」


 オルフェンが聞いたら頭を抱えそうな台詞だ。


 ジュリアンは俺の手を引き、港の方へ歩き出した。

 





「これが、海か」


 初めて間近で見る海は想像以上に広かった。

 そして独特の色をしていた。


 紺碧という言葉を読んだことがあったけど、これがその紺碧らしい。

 透き通る様に青いのだけど、とても濃くて不透明だ。

 その矛盾した色に何処かの将校が身に着けていたブローチを思い出す。


 それに大した強風も拭いていないのに水面が波打って居て、キラキラと瞬いている。

 鏡とか宝石ではない、滑らかな光がそれが延々と遠くまで続いている。


 どれも不思議な光景だ。森や村では見る事がない光景だった。


 でも何より不思議なのは、湿気の原因だろう所に近づいているのに一層風が吹き付けて、いっそ清々しい空気になっている事だった。


「?」


 と思ったけど、もっと不思議な事がたった今起きた。

 思わず口が開いていたのだけど、そこに吹き込んだ風に微かに塩気を感じる。

 風に味が付いてるなんて、一体どういう事なんだろう。


 どれもこれも不思議で信じられなくて、港の先まで歩いてみる。


 そこからちょっと覗き込んでみると、やっぱり大量の水が波打っていた。

 それに、海というのは底がないほど深いらしいけど、それも本当らしい。


「おいおい、いつまで見てんだ? 早く行くぞ」


 言われて海から目を離せば、ずらりと並ぶ大きなクレーンが目に入る。

 コンテナを吊るすそれらの奥に、軍艦が一隻と他の船が幾つも停泊していた。

 人が積み込みや積み下ろしの為に走り回っていて、騒がしい。


 凄い人の数だ。あれらの中に望む船があるんだろうか。

 でもこれだけ賑やかな所に、裏があるとは思えない。


「こんな所に武器が売ってあるのか?」


「ああ、意外とあるんだぜ。こういう所にな」


 そう言って、彼は一つの船に近づいていく。


 随分大きなボロい船で、フジツボが所々に付いている。

 手入れされていないような様子だ。廃船と言ってもいい様だ。


 けどその船の最も特徴的な所は、その甲板にガラの悪そうな男が立っている事だろう。


 睨みを利かせつつ、時計を確認し、更に何かの紙をちらりと見ている。


 見るからに怪しい男だ。そしてそんな男にジュリアンは近付いていった。


「よう、元気してたか?」


「元気に見えるか? 最悪だよ」


 男はペッと唾を吐いて、大きくため息を吐く。


「金はねえ。女は逃げる。仕事はキツイ。三重苦だぜ」


「なら相変わらずって事だな」


「よく知ってるじゃねえか。で、今日は何のようだ?」


「新入りの銃でも見ようと思ってな」


「あん? 新入り? 随分ちっこいな。ガキじゃねえか」


「おう、でも俺と同じくらい強いぜ」


「そいつは将来有望だな。十年以内に死ぬぜ。ていうかさっさと行け。後がつっかえたら面倒だ」


「あいよ」


 甲板には手を伸ばしても届かないほど大きなコンテナがずらりと並んでいて、そこに群がるように人が集まっている。


 俺はもう経験していた。人が群れれば空気は蒸していく。

 じっとりとした熱気が纏わりついて、不快になっていく。


 戦車の中が、きっとこんな感じに違いない。


「大丈夫か。眉間に凄い深いしわが寄ってるぞ」


「耐える」


「そっか。頑張れよ」


「でも、出来るだけ早く帰りたい」


「じゃあ、姉ちゃんとの合流は諦めて要所だけ押さえるか。銃器はあっちだぜ」


 そう言って連れて来られたコンテナの中はより一層熱く、鉄の臭いもして、なにより蒸していた。


 乾いた布を振れば湿気りそうだ。乾パンを置けばとろけそうだ。人だって殺せるに違いない。


 目的の物は目前なのだけど、その環境で嫌になる。


「クライブ、これ以上しわを寄せたら跡が残るぞ」


「分かってる」


 湿気も熱を無視し、しっかりと物に注目する。


 壁に掛けられた色々な小銃。

 棚にずらりと置いてある拳銃。

 箱詰めされ積み上げられた銃弾。


 見たことのあるもの、ないもの。良質なもの、良質でないもの。様々だ。 


「あ、これ」


 その一角で、吸い込まれる様に視線が止まるものがあった


「その拳銃が何だ?」


「昔使ってた」


 使い心地が良くて、弾の数も結構あって、結構お気に入りの銃だった。

 でも銃弾が手に入らなくなって、本体を捨ててしまったのだ。


「へえ。お客さんは結構マニアックなんだねえ」


 それを見て居たら、奥の方から声をかけられた。


 ここのコンテナの主だろう、日に焼けた短髪の女だ。

 腰に拳銃を四つ、背中には小銃を背負っている。


 ランニングシャツを着替えれば、完全武装といった様子だ。


 今から戦場にでも行くのだろうか。


「その銃は生産中止になって久しいんだよ。もうどこに行っても手に入らない」


「そうなのか」


「そもそも生産コストが高すぎたんだねえ。部品が一々細かいのさ」


 だったら買わない方がいいだろう。

 生産されてないのなら、カートリッジも買えない。修理も出来ない。


 それじゃ実用品とは言えないし、必ず困ったことになるだろう。

 気に入っていたけど、これは諦める外ない。


 銃を置くと、店主が不思議そうな顔をする。


「ん? 諦めるのかい? もうこれしかないんだけど」


「それしかないなら要らない」


「……え? 普通それしかないなら買わなきゃって思うよね?」


「何で?」


「何でって……どういうこと?」


 と女が俺の後ろに居るジュリアンに目を向ける。


「こいつはコレクターじゃないんだよ。実用性しか見てないんだぜ。多分」


「へえ。それは失礼しちゃったな。だったらこれはどう? 同じ系統で、生産コストを改善した奴なんだけど」


 渡されたものは好んでいた物とそんな差がないものだ。

 デザインも持った感触も変わりなく、違いがあるとすれば少しだけ銃身が長いような気がする。


「何の面白みもないけど、銃としての性能は逸品さ」


「そうなんだ。撃ちたいんだけど」


「よしきた。奥の方に消音室がある。案内するよ」


 親指で指し示された扉は随分と重そうに開かれた。

 店主に案内され、中に入ると、暗い一室に的が一つだけポツンと置いてある。


「ここならどれだけ撃とうが音は気にならない。例え火薬式の銃だってな」


「へえ。なら俺はこれを撃つぜ」


 そう言ってジュリアンも入って、銃を構える。

 何処か見たことのあるデザインだ。


「随分と変なのを取ったねえ」


「姉ちゃんの好きなシリーズなんだよ。火薬式が好きなんだとさ」


 見たことあると思ったら、俺の足を撃った銃か。

 随分と重そうで、ジュリアンはそれを両手で持って居る。


「随分珍しい嬢さんだね。今時火薬なんて爆薬にしか使わないのに」


「音が好きなんだってよ」


「へえ。じゃあ閉めたら三発だけ撃っていいよ」


「三発だけかよ」


「銃は消耗品なの。特に火薬式は痛みやすいんだから。四発撃ったら買い取りだからね」


「へーい」


 そう言って、ジュリアンが逸れの引き金を撃つ。


 途端、凄まじい音と、彼の短い悲鳴が響いた。

 見ると、拳銃が後方に落ちていて、ジュリアンは頭を抱えている。


「反動、すげえ」


「そりゃ火薬式だからね」


「頭と手が痛てえ」


「マグナム弾だからね。……もう一回撃つ? 後二発はいいんだけど」


「誰が撃つか! こんなじゃじゃ馬娘! ったく。反動で自分の頭撃つとは思わなかったぜ」


 どうも、その銃は両手ですら手に余る、飛んだ欠陥品みたいだ。

 でも、ジェーンはそれを片手で撃って居た気がしたような……気のせいか。


 ジュリアンが撃たないなら次は俺の番だ。

 硝煙が匂う中、銃を構える。


「っ」


 引き金を三回引くと、懐かしい手応えと共に、弾が的に当たった。


「お見事。全部ど真ん中だね」


「ど真ん中つーか、初めて持つ武器でそこまで命中するか?」


「癖も手応えもほとんど同じだった」


 これだったなら十分に戦える。


「威力は?」


「ごくごく普通の銃弾と加速装置だから特に言う事ないね」


「装弾数」


「三十発。これも今となっちゃ普通か。因みにセミオートだよ」


「耐久性は?」


「強い訳じゃない。だから砂漠とかには持っていかない方がいい。勿論水の中もね」


「なあなあこっちは?」


 ジュリアンがそう言って、じゃじゃ馬呼ばわりした銃を振る。


「そっちもダメ。水は特に厳禁。火薬が湿気るから」


「そっか。じゃあやっぱ違うのがいいな。小銃買おう。小銃。何か良いのない?」


「それならこっちがいいかもねえ」


 こうして、俺達は小銃と拳銃を二つ、購入した。

 これで、自室にやっと銃器を用意できる。


 例え何が来ても迎え撃てる。


 満足してゴルフバックにそれを詰め、コンテナを後にする。

 と、何が言い忘れたことがあったのか、その店主に呼び止められた。


「聞きたい事があるんだけど」


「何だ? 情報量金取るぜ」


「そんな大層な情報じゃないよ。ただ、最近ここら辺の食事情が良くなってるって話を聞いてね」


「まあ、良くなってるだろうよ。今朝も肉食ってきたぜ」


「ふーん。いや、聞きたいのはそれだけ。ありがとね。……だったら私もこの舟下りて食べてみようかなあ」


 女店主は呟きながら、コンテナに戻っていった。


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