次はラーメン屋『島内軒』のオープン!
冒険の旅をなおも続けているさなか、1つの動きがあった。
ノボルが実現させようとしていた夢の1つ、ラーメン屋『島内軒』のオープンが、いよいよ実現しようとしていた。
これまで、とんかつ定食屋、ドーナツ屋、カレー屋と、出店してきた。
しかし、いくら好きなメニューだからって、さすがに毎日毎日、とんかつ定食と、ドーナツと、カレーライスだけというわけにもいかない。
「そうだ、次はラーメン屋だ。店の名前は『島内軒』だ。」
既にテミス王国やオセロニア王国などからも、集客が見込める状況になっていた。
ノボルはラーメンも好きな食べ物の1つだったが別に何ラーメンかということは、特に気にしてはいなかった。
しかし店を出すことになれば、何ラーメンかということを気にする必要はある。
醤油ラーメン、味噌ラーメン、塩ラーメン、とんこつラーメンなどがある。
さらにはチャーハンやギョーザ、シューマイなど。
まあ基本メニューはこんなところだ。基本的に西洋中世風の世界だから、食生活も西洋風。
そこに中華料理のラーメン、チャーハン、ギョーザ、シューマイなどを持ってくるのだから、実際にこの世界の人々に受け入れられるかどうかは、未知数だ。
さらに、ラーメンの産地。
福島の喜多方ラーメンは醤油味のラーメン。具材はメンマ、チャーシュー、焼き海苔といったところか。
北海道の札幌のあたりだと味噌ラーメンといった感じで。具材はコーンとかが入っているというイメージ。
これはあくまでもイメージだから、実際にはそこまで食べに行ったことは無いまま、こっちの世界に転生してきたんだから。
あとは、九州の方は、とんこつスープのラーメンが定番だとか。これも実際には九州の方にも行ったことがないので、あくまでもイメージだが。
そんなこんなで、『島内軒』のオープンに向けた準備も、着々と進めることになった。
それから、店主の候補として呼んできたのが、
なんと、元はプロ野球選手として活躍しながら、
非情にも戦力外通告を受けた後にラーメン屋に転身して、
ようやく店が軌道に乗るかといった矢先に交通事故で死亡し、
やはりこちらの世界に転生してきた、その名は、
矢内尚憲という人物だった。
実はこれはノボルの父親、島内茂の人脈だった。
ノボルはついに禁じ手である父親の人脈を利用したのだった。
あれほど、父親のことは嫌いだと言っていたのに。
しかし、ノボルはむしろ母親のことも嫌いだった。
母親はノボルが興味のある趣味に対して、全く理解を示さないどころか、嫌悪感すら見せていた。
そのくせ、母親は自分の趣味、嗜好、価値観、考え方をノボルに押し付けようとしていた。
ノボルにはそれらに対する反発があった。
ファンタジー世界の趣味、アイドルの趣味、そして、飲食店のオーナーをやってみたいという思い。
とりわけ母親とは、趣味、嗜好が何一つ合わない、むしろ正反対、真逆といっていいくらい、趣味、嗜好に対する考え方が合わない。
むしろ、文字通り、住む世界が違う、とさえ思っていた。
今回、父親の人脈をこのような形で利用したのは、ノボルなりの親への反抗心からだった。
「矢内選手!家ではよく野球観戦をテレビで見ていました。
これからはラーメン道のご指導、ご鞭撻、よろしくお願いいたします。」
いわば、町づくりはノボルの趣味、嗜好が詰まった、ノボルの趣味、嗜好の楽園の建設という意味合いがあった。
しかし矢内の方は、野球に対しては、いい思い出はなかった。
高校の時から注目されてはいたが、野球の練習はきつかった。
野球以外の世界を知らずに過ごしてきた。
鳴り物入りでドラフトで指名され、将来を嘱望されながら、プロ入り後は出場機会に恵まれず、戦力外通告を受ける。
「世間なんて冷たいものだよ。
調子のいい時はチヤホヤ持ち上げて、落ち目になったら、見向きもされない。
それで忘れ去られてしまう。
俺も、君も、いわば没落エリートというやつだよ、ノボル君。
本当は、いつ辞めてもいいと思っていた。」
「いえ、ですが矢内選手、僕にとっては同じ高校の先輩後輩、いわば同じ高校のヒーローですよ。」
「いやいや、買いかぶらないでくれよ、ノボル君。
野球を辞めた後、ラーメン屋の修行をして、ようやく、ようやく自分が本当にやりたいことを見つけられたような気がしたんだ。」
「矢内選手、僕はラーメンを食べるのは好きですが、正直ラーメン店のこととか、種類とか製法とか、そういうことはあまり知らなかったので…。」
「しかし、落ちぶれても元エリートなら、まだ幸せな方かもな。
人生に何の目標も見つけられない引きこもりニートとかもいるからね。
最悪なのはそれを理由に殺人を犯したりするようなことだ。
そんなことになったら、地獄すら生ぬるい、行き先は天国でも地獄でもなくて、無だ。
跡形もなく消されるのみだから、そんなことになる前に、
ノボル君のように、人生の目標を見つけられることが大事なんだ。」
「僕らは、ニートよりも、むしろ社畜といった感じかな。
奴隷のように勉強漬け、野球漬けの人生を送ってきて、それに別れを告げた者同士、こっちの世界で頑張りましょう。」
「うむ、そうだな。まあ、ラーメンのことなら何でも俺に聞いてくれ。」




