町長は譲(ゆず)って気ままに冒険生活ライフ!
キングスリング島
ネオアイランドシティ
「はいはい、次、はい次、はいはい次…。」
ノボルは町長の仕事をしていた。といっても、部下たちが持ってきた書類に印鑑を押すだけ。
ノボルにとっては退屈な仕事だったが、部下たちの評判はすこぶる良かった。
現代なら、スマホ決済もあるような時代。しかしこちらは、文化レベルは西洋中世レベルの、剣と魔法のファンタジー世界。
だから当然、書類は手書きだし、決済は印鑑で済ませる。
そういえば、いまだに紙の書類で決済を行っているところは、実は思いのほか、多いようだ。
しかもシャチハタ不可のところが多い、って、これはノボルが転生前に生きていた、現代という時代の話だ。
「ノボル町長!これからもお仕事、よろしくお願いします!」
部下たちは口々に言う。
しかしノボルは目の回るような忙しさだった。
町長の仕事もやりながら、冒険に出て魔物退治のクエストもやりながら、
なおかつ、ネオアイランドシティの町の宣伝や、カジノや劇場、飲食店や牧場、それとキングスリング島という島の宣伝、
島の特産品の宣伝、さらには、それらの経験談を小説として執筆しなければならない。
しかも、小説の執筆は手書きだ。
これでいつ休むんだよ。と思ったら、せめてこの書類決済の印鑑押しだけでも、誰かに譲りたくなった。
いつまでも続く印鑑押し。それもようやく終えた頃には、もう1日も終わろうとしていた。
海に沈む夕日を見つめていたノボル。
「ここから見る夕日は、なんてきれいなんだ。」
夕焼けがきれいなのは、それだけ空が澄みわたっているということ。
前の世界では、こんなきれいな、澄みわたった空の夕日なんて見たことがなかった。
やがて日も沈み、今度は夜の会議。食事をしながら会議を行う。
食事のメニューは、鯖の塩焼き定食。
鯖の塩焼きと、ご飯と味噌汁と、お新香がついている。
議題は今度オープンさせる、とんかつ屋『昇屋』の店舗の構想と、そのとんかつ屋のメニューの考案。
「僕は、たとえばこういうメニューを考えたんですが。」
それは、『オールカツ定食2』というもの。これを店の目玉メニューにしたいというノボル。
詳細は、ミニメンチカツ2個、ヒレカツ2個、カキフライ2個、それと、エビフライが1尾。
それに、ご飯と味噌汁、お新香もつける。ご飯のおかわりは自由だ。
これは、がっつり食べたい人用のメニューとして考案した。
「それと、今日食べている、鯖の塩焼き定食も、実は『昇屋』のメニューの1つにしたいと。
揚げ物だけでなく、この島の海でとれる魚も、この『昇屋』のメニューとして出したいと思っています。」
キングスリング島はもともと無人島だったのを、ここまで開拓してきて、ネオアイランドシティという町を建設してきた。
キングスリング島は四方を海に囲まれ、海産物はいくらでもとれる。
鯖も、カキフライのもとになる牡蠣も、それから味噌汁に入れる若布なども、この島の周りの海ではいくらでもとれる。
だから、これらの食材を使用した店をオープンさせたかったと、ノボルは声高に語った。
会議はいったんお開き。
そして眠りにつく。
しかし、翌朝ノボルは、広場に人々を集めて、とんでもないことを言い出した。
「皆さん!僕は町長を、誰かふさわしい人物に譲りたいと思っています!」
「ええーっ!これまでノボルさんがリーダーになってきたから、ここまで町が発展してきたのに…。」
集まった人々は動揺を隠せない。
「したがって、次の町長は、選挙で、みなさんの投票で決めたいと思っています!」
これを聞いて、なおも動揺を隠せない人々から、質問が飛んだ。
「ノボルさん、いったいなぜ、市長の座を退こうと思ったのです?」
実際にはあの、退屈な印鑑押しの作業から解放されたいというのも1つの理由だったが、
あらためてノボルは、その理由を語った。
「実は…。もっといろんな世界を見てみたいと思いまして。
それにね、あまり1人の人ばかりが、長の座に居座っていては、それこそ独裁みたいになってしまいますからね。
だから、あえて他の人に任せても、いいんじゃないかと思いまして。
まあ、このネオアイランドシティは、もう既にここまで発展してきているわけだから、大丈夫ですよ。」




