日和村事件 日和役場② 推理
今回の話で、自分が書いた前作、狂人の島が出ています。因みにこの波多野雅に見せている資料としての狂人の島には後書きが付随してません。(後書きが前回から大分後に書いたものという設定だからです。)
奇人ジャーナリストが纏めていた資料と葉山礼輔という人物の実体験を基にした記録をその夜のうちに完読した。全部で30000文字近かったが、事件に関する記録としては今までの政府のどの発表よりも鮮明でグロテスクだった。冒頭分に念入りに未解明である事の注釈を付けている。ただこれが事実であれば、このウイルスというものの実態がやはり、この後の解決の重要なポイントとなるのだろう。そして、幸か不幸かあの資料、『支配ウイルス』という単語が繰り返し使われたあの資料がこの家から見つかったばかりである。それを重要証拠とすれば、この物語も竹島の発言も全て事実だろう。一連の事象は全て説明が着く内容で、この葉山の行動も辻褄が合っている。自殺した兄の事も全て書かれている。その職業、養護教諭というのも合っている。
雅の立場から手に入る状況の全てと合致する情報を事件の被害者でない竹島は全て見通したかのように知っている。そして、自分がこうして引っ張り出した資料を基に次の解決に漕ぎ着けるのだろう。最初はどんな不審者かと身構えたが、無計画に自分の所を当てた訳ではないらしい。その証拠に資料の最後に自分にあてたメッセージを添付しておくと書かれていた。最後のプリントの裏側を見ると、手書きでこう書かれている。
「貴方のお兄さんの遺体が発見されない事と、貴方のお兄さんが感染したタイミングに関して私は若干の疑問を抱いています。そして貴方の夫に当たる人物がこれに深く関与しているのではないでしょうか。葉山氏によりますと、二人は随分親しかったそうですね。そして二人とも医学、薬学の専攻で大学の研究室も同じと来ています。貴方のお兄さんも貴方の夫も高学歴なのにいやに穏やかで質素な生活を送られている。もし、のっぴきならない事情があってこうしているのであればこれは失礼に当たりますから撤回させていただきますが、お二人がなさっていた研究の内容、『ウイルスによる神経、脳の侵蝕作用の応用研究』には興味があります。」
酷い癖字で左利きらしい右上がりだが、何とか読める字を書いている。此処まで自分が見ることを予想しているのだろうか、丁寧に最後に自分の名前を記している。それもペンネームだと作中で明かしていたが、彼のいう事の整合性に関しては一応の納得と信頼の判子が押された。まだ完全ではないが、彼ともう一度会うことに価値はあるだろう。翌日も役場に行くことを決心した。
翌日役場に行くと彼のWRXが止まっていた。そして自分のスターレットに気付いたのか、運転席から出て、手を挙げた。待っていましたという合図かも知れないが、どこか敬礼にも似た変なサインである。
「昨日、読んで頂けたようですね。いやあ、お疲れ様でした。どうも文章を簡潔にまとめあげるのは苦手で要点かと思って嫌に心情を丁寧に書いちゃったりするんですよ。ただ、以上の事は個人の証言に基づくものですから、事件が解決してからもう一度後書きを書かせて下さい。あれはまだ『事件はまだ未解明のままでが、証言してくれた葉山氏の為に事件を必ず解決したい』としか書いていないですから。」
「それは、さして関係のない事です。これは小説というより記録として読ませていただきます。貴方の小説センスを省いて簡潔に事実を書いたものを此処にまとめてきました。」
そう言って昨日徹夜で作った事件概要のファイルを竹島に提示して見せた。やれやれ顔の隈はそれですかと彼はまた余計に一言付ける。睨みを効かせても見ていない調子で続ける。
「これから少し推理の真似事でもしませんか?貴方はきっとプリントの裏側の私の手書きも見たから此処に来たんでしょう。きっと事件の真相にぐっと近づく資料が貴方の手元から出て来る筈です。」
其処まで見通されると気味が悪いと率直に雅は思った。それさえ見透かしたのか竹島は、
「私が現在知っているのは此処までですから、もう隠したりもしませんよ。そして貴方が出すプリントの内容はまだ私も知りませんから、推理の幕は今開いたばかりという事です。」
真剣な調子ながらどこか、楽しそうな彼が顎に手を当てて、考え始めた。
実物の私もラテン語やドイツ語は読めませんし、医学部医学科ではないですから。此処はかなり雑で稚拙です。御付き合い頂き有難う御座いました。