日和村事件 日和墓地 発見
今回も実車を出していますが、スターレットって格好良いですよね。知らない方済みません。完全に趣味の話です。
暫くの間、雅は義父母の家に世話になることにした。以前の様に明るくなることが出来なかったし、明るくする人はもう棺の中に納められようとしていた。納められるのを小さな箱になって彼女の車の中で待っていた。雅の旧式のスターレットのトランクの殆どを埋める2人分の遺骨は近く、近所の日和村の寺に供養され、葬式も波多野家全員で行うことにした。それも置いた夫婦と残された虚しい未亡人だけだが、それが今できる精一杯だった。二人は息子を亡くした後だが、雅に優しく振る舞った。兄である雅孝が見つからないことを心配したり、警官との対話の内容を聞き、労わったりもした。葬式の時は堪えられず、また3人で涙した。悲しい食卓を囲み、主人の遺骨が入る予定の墓と、娘達が入る墓を考えたりする生活は、心労が絶えず、山里の新鮮な空気でさえ苦しく感じられる程だった。その夏は息をするのも億劫に感じられた。
ある日、義父母は雅にこう言った。
「雅ちゃん、あんたは若いけん、今回の事と今までのもん、全部無くしてもまた1からやっていける。信太郎はあんたが幸せになることを望んどる。」
「く...」
思わず雅は単語にならない言葉を発してしまった。この後義理の両親が何を言うか容易に想像がついた。そして、今二人がそれを言うのにどれほど苦しいかも同時に解った。
「じゃから、別のもんと結婚してくれ。幸せになって...信太郎の分まで。」
「そんな...」
「いや、良いんじゃ。もうなくしたもんは帰らん。還らんのじゃ。生きている問を考えて、若い自分を考えい。」
何と答えればいいか、模範なんて物はきっと存在しないから雅はこう答えておくことにした。
「今はそれを考える余裕もありません。」
何を言っても形にならないような気がした。自分の愛した娘の骨、捧げた愛と比べればあまりに小さいその骨は見れば見るほど虚しく、悲しかった。どう誤魔化してもそれが事実でそれに代わる表現は思いつかなかった。今は亡き夫の部屋を一緒に掃除しようと、見かねた義母が自分に声を掛けた。辛い作業なのは同じだが、自分はけりをつけんとと、強がって見せた義母の表情は、少し刺激すればまた涙腺が緩んでしまうのではないかともう程震えていた。気付けば労わられてばかりだったが、この二人も今回の事件で血縁を全員亡くしている。この表情の奥にある冷たくなった感情が会話や仕草の随所に時々見え隠れしていた。
空っぽになった部屋の中の箪笥や引き出しを整理してくと三つほどの大型段ボールになって纏まった。彼が学生時代に使っていたノートやもっと昔に描いた森の地図があった。アルバムにも同様の物が溢れるように挟まっていた。大量に見つかった森の地図は全て彼が虫取りや森の探検の時に使っていた物であった。几帳面な彼らしく随分丁寧に書かれている。定規で縮尺を計算した後まで見つかった。現在は国有林になった箇所の地図も全て保管されていた。他にも彼の若い頃の写真や記念品として大事にしていたコンパスと懐中時計が見つかった。どれも子供のような遺品ばかりだったが、彼の研究者的な性格に相応しく、3人にはしっくりくるものばかりだった。雅は信一郎が移ってからも研究を続けると言っていたのを思い出した。いつもは自分の父の手伝いで漁師をしていたが、彼が頻りに論文を読んでいたのを思い出した。一体何を読んでいるのかドイツ語が解らない彼女には全く解らなかった。
「うん?」
雅は引き出しの裏側にもう一つ資料が挟まっているのを見つけた。此処に於かれているのは誤って落としたからだろうか。それは考えられなかった。このタイプの引き出しは意図的にやらないとプリントが奥に挟まらない。つまり此処に隠す理由が信太郎にあったという事だ。内容はドイツ語、タイトルは日本語で書かれていた。
『国有林地図、原子支配球形ウイルス研究に関して』
タイトルは如何にも恐ろしく、この前の件の事件を思わせた。雅は背筋に寒気を覚えた。何かとてつもなく大きな陰謀をこの書類の後ろに感じた。何より兄が生前此れを意図的に隠していたという事だ。
私はこの様な田舎の祭りに積極的ではない方ですから、家に居る時にやけに外が騒がしいとしか思ったことはありません。