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日和村事件 選択面会

 私は想像でこの物語を書いていますから、あまり内容に関して現実的な責任は取れません。予め御了承下さい。

「済みません、続けて下さい。」

 雅は何とか堪えて話の続けるよう二人に言った。

「大丈夫ですか?・・・では続けます。此処からは先程までの遺族面会と異なるものとなります。寧ろここからが我々としての本題、と言っては失礼ですが、今回の第一案件となります。貴方の夫の信太郎さんですが、例のウイルスに感染して見つかりました。これがどういう意味を持つか...私は此処が一番あなたにとって酷だと思っています。私情を亡くして話すのは敢えてです。」


 他にも会話の合間で何度も篝谷は念を押した。予想が着かないでもなかった。内容も、そこから導かれる帰着、つまり、雅がこれからすべき選択も。

「ウイルスに感染すると、風邪や嘔吐下痢の様な諸症状の他に自我の崩壊、そこから狂暴化というある種、狂犬病に近い症状が現れ、人間的な理性や元の人格が完全に失われていきます。言語知能や、記憶のいくらかは残るという報告も受けましたが、いずれも正常でなくなることは確かです。そして、このウイルスは恐らく回復不可能です。何故それが言えるかという事も簡単に説明が着きます。脳の細胞が見たことも無いような変異を起こしています。それも一か所ではなく、神経伝達系統の至る所に見受けられます。これは他の感染者の解剖で確かめられ、某大学の教授とその他の研究チームが正式に判断した情報で素人目にも解るほど明確な物でした。回復が出来ないのも脳の機能がいくらか損なわれているからです。」

丹波が続けた。

「補足いたしますと、自衛隊及び島内に立ち入った警官隊の数名は自衛行動として発狂した感染者を数体殺害しました。此処にはいずれも公式な正当防衛としての承認があります。しかし、自発的に殺害することは日本直属の機関として、また被害者側の人間の尊重されるべき正当な権利の一環として不可能です。そこで麻酔銃を用いて一時的に換金するという方法が用いられました。何となく察しがついているのでしょうが、貴方の夫信太郎さんはそのケースです。現在、臨時船の個別監禁室で束縛をされています。人道的な事ではありませんが、不必要な暴力が加えられている訳でもありませんし、政府が生存者を保護するための臨時対応として承認した苦肉中の苦肉の策です。」

 二人の説明からもう選択が告げられようとしてるのが雅にも解った。それを告げたのは篝谷でそれが書かれた書類を丹波だった。もう既に警察と自衛隊の名前も知らないお偉いさんの判子が押されている。

「お聞きします、旦那さんを公的目的として処分すること、即ち殺害することを承認しますか?また承認した場合の研究解剖に協力してくださいますか?」


 暫くの沈黙の間に全く動かなかった顔と正反対に、激しく動き続ける内面で葛藤した雅は果てしない静寂の戦争とも言える心の内乱の果てにたった一つの答えを出した。いくつもの愛を捧げてきた人達、血と体を分け、時と場を共にしてきながらも、一番大事な時を共有できなかった人達、完全に地獄と化して数日が立とうとしている海辺の故郷に思い馳せた。頭痛がするほどにこの一瞬の言葉を、選択を、悩んでいた。誰かの命それも自分とこれからを共にするはずだった、単身赴任の身ながらもこの上ない程の愛を捧げ続けてきた人の命運を選ぼうとする自分の腕が肩から震えていた。


「はい・・・」

 彼女のこれまでの人生を棄却する選択の内容を羅列する用紙に実印を押した。いつもより深く推し朱肉に悲しみのような跡が深く残った。滲んだのは自分の視界を覆う涙の所為だろうか。


 二人は悲嘆にくれる彼女を見ながら、簡単な挨拶を決まっているかのようにただ、人間の感情や憐みが捨てきれないかのように述べ上げ、失礼しますという短い挨拶で部屋を出て行こうとした。

「待ってください。」

 閉まろうとする扉を強引に止めて、二人を見つめた。

「兄は...私の兄はどうなりましたか?」

「兄?」

「篝谷さん、ほらあの、」

 丹波の小さな手振りで漸く解ったらしい。そして、説明も丹波の方からだった。

「彼は...雅孝さんは自殺なさいました。自分の感染を止めるために、生存者を匿って自殺なさいました。偉大な最後でしたと、そう聞いております。ただ、遺体がまだ見つかっていません。そう変な所に流れたりはしないでしょうが、遺体が見つかってから改めてお話しさせて下さい。」

 それだけ言うと、もう一度頭を下げ、二人が去っていった。



 今回も退屈な文章を読んで頂きありがとうございます。御付き合い頂き有難う御座いました。

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