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日和村事件 遺族面会

 前作はホラー的な展開に入るのが大分早かったかのように感じますが、この話は大分それが遅いです。

 後日、雅は広島市警察のとある一室に緊急で呼び出された。当然、話の内容は事件に関する重要な事柄であり、行く前にかかってきた電話でそれが伝えられていた。肉親、関係者の名前が一通りあげられると、彼等の身の安否に関して話がしたいという旨の話をした。雅はそれを承諾し、現在に至る。

 

 警察署内にある面会室と呼ばれた部屋は無彩色の壁と床と天井に覆われた長方形の部屋であった。椅子が二つと一つ、向かい合うように置かれていた。手渡された水のペットボトルを握りしめて、雅は小太りの中年警察官に連れられて部屋の中に入った。心なしか空気も重く、警官も雅も影を湛えるような暗い表情を終始変えなかった。椅子に座って待つように言われると、雅は部屋で一人になった。


 あれから当然、屍生島への連絡は途絶えたままである。携帯の電波基地が事件が起きた段階で切られていたらしく、安否に関する連絡はあれから一つも無かった。一応旦那方の実家とも連絡を取ったが、情報が解ってからもう一度伝えて欲しいと言われ向こうから切られてしまった。相手方の両親は何時もはもう少し愛想がよく自分にも親切なはずである。彼等も疲れているのだろうと察し、雅は折り返し電話をするようなこともしなかった。


 暫くして、先程の警官がスーツに身を包んだ二人の男性を連れてきた。一人は若い二枚目で恐らく刑事と思われた。もう一人は身分や立場は解らないが、痩せ形の中年でゲッソリとした頬が特徴的だった。

「此方が、波多野雅さんです。」

 小太りの警官が紹介すると、二人は深くお辞儀をし、警官に退室するよう指示した。慌てたように出て行った警官を一瞥すると、雅の方を向き、改めて軽く会釈をし、椅子に座ると、話し始めた。

「こんにちは、波多野さん、私は広島県警の屍生島の件の事件の担当である丹波です。」

 刑事の方が先に自己紹介をした。続いて痩せ形の男も名乗った。

「こんにちは、私は警察の関係者なのですが、臨時の役職でして、解り辛いかとは思われますが、自衛隊、報道陣、遺族、関係者と連絡を取り合う事を主とした課の者です。篝谷と申します。」

 説明からその仕事の内容とポジションは粗方予想が着いた。自己紹介が終わると、刑事の丹波が話し始めた。

「今日、波多野さんをお呼びしたのは言うまでも無く、島で起きた件の事件に関する事です。電話でも説明があったかと思われますが、これは現在、関係者全員に正式な録音付きで行っているものです。大きな不安やこの先の心配がある事は解りますが、今回は重要な話です。よく聞いて慎重に判断して下さい。」

 そのような事は言われないでも解っているが、判断という言葉から察するに何かの選択をこの場で問われるのだろう。

「屍生島に於ける先の事件で、貴方の娘である波多野桜さん、美菜子さん。両親に当たる、浩司さんと美知子さんが亡くなられました。死因は桜さんは嘔吐下痢による吐瀉物窒息、美菜子さんは暴徒化した感染者による暴行、浩司さんと美知子さんも同じと見られます。発見されたときは外傷が激しく、抵抗の跡もありました。しかし、蘇生は不可能な状態であったので、死体安置として海上保安庁の臨時船の安置室に置かれています。改めてご冥福をお祈りします。」

 これ程までに熱く酸い唾液が咽喉を通過したのは初めてかもしれない。雅は何も言えないでいたが、両頬を流れる熱い雫が残した跡が、悲劇的な喪失によって齎された言葉にならない感情を語っていた。その涙を見て、二人は俯き、だが直ぐに顔を上げ、篝谷がこう続けた。

「気持ちがお辛いのは解ります。しかし、まだ話すべきことは残っています。先程も申し上げました通り、貴方に判断をゆだねている事情があります。今日は貴方にとって大変辛い日となるでしょう。強制的な事は致しませんので...話しても良い時になったらお声かけください。」

 気安く気持ちが解るなどと言わないで欲しいというのが本音だった。実際、今は自分の中にある熱い何か、感情として認識すべきそれを言葉にすることは自分でも不可能だった。焦燥、落胆、絶望、悲嘆、後悔の全てに当て嵌まるようで全てに当て嵌まらない思いを胸に抱いていた。混乱と動揺、憤怒の中に何があるのか形容する事も出来なかった。雅の頬を落ちる雫は止まらなかったが、丹波がティッシュを差し出した。

気付けば目の前の机と服も濡らしていた。


 遺族というのは本当に辛い立場です。残されたものというのは事件からどれ程の年月を重ねても大きなストレスを感じるものです。そんな方々に現在の公権力は寄り添えるのでしょうか。書いていて思いました。

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