日和村事件 会見内容
実際にこの様な事件が起きた試はないので、対応の仕方、報道の内容は全て私の想像です。それはもう前作も書きましたね。
やがて市役所の長椅子で佇む雅の前のモニターが、正確にはモニター越しに見える記者会見場の人々が急に騒がしくなった。シャッターを押し捲る報道陣の群れとマイクが束になった机の前で丁寧にお辞儀をし、ゆっくりと座る警視庁の代表が映し出される。眩いばかりのシャッターに目を眩ませながらも淡々と事件の報告をしていく。その言葉を彼女は一言一句逃さず聞いていた。全てが理解出来た訳ではなかったが、モニターを焦がす様に見つめていた。
「本日の未明に発生した屍生島に於ける大規模な暴動事件は未確認の生物兵器が使用された疑いが強く、現在、自衛隊が武装した状態で島の探索及び事件の発生元を調査しています。今の所未感染の状態で生存していることが確認されたのは1名のみで、数名が死体で発見され、現在司法解剖及び研究の為の解剖を遺族に当たる人物に依頼しています。生物兵器の毒性に関して詳しい事柄は不明ですが、脳や神経に強い影響を与え、また、風邪や嘔吐下痢症のような症状を引き起こす事も解っています。更に、脳の機能を低下させ、自我を崩壊させるような未知の症状が確認されたと正式な報告が先程、調査に行っている方から連絡がありました。そのウイルスが原因と見て間違いないようです。」
あまりに衝撃的で現実離れしたその内容に市役所内も記者会見が行われているモニターの奥とスタジオも騒然となった。辺りを埋め尽くす様な煩いどよめきに警察側の数名が静かにしてくださいと繰り返し声を上げる。混乱がモニター越しに伝わる。
「皆さん、静かに、・・・会見を再開します。現在の生存者ですが、目立った外傷はないものの、治療と検査の為に搬送されました。そして、島の状況とウイルスの性質に関する調査ですが、現段階では見通しがつかず、異例中の異例とも言えるこの事態で不必要な混乱を招く事の無いよう、警視庁としては断言としての発表は致しかねます。」
若干日本語が変だ。あちらも相当混乱しているものと思われた。
「え、ええ・・警察、自衛隊としては島を期間不定で閉鎖し、島で使われたと見られるウイルスの感染経路及び性質を調査することを決定しました。感染者は脳機能の低下に伴い、暴徒化していくと見られ、え、え・・感染すれば回復の見込みは無いと思われます。」
さらに周囲はどよめきを増した。ゾンビなのか?パンデミックが起きたら...などという声も飛び交う。
「落ち着いてください。警察、自衛隊としてはこの事件に迅速かつ、適切に対応してまいります。今後も情報が入り次第、この様な会見で正式な発表させて頂きます。また暴徒はウイルスの影響を受けて発狂した恐れもあるという可能性も否定できませんので、ウイルスの万が一の流出を防ぐため、島周辺の海域も島と合わせて閉鎖させて頂きます。現在、報道機関やネット上での根も葉もないような憶測の影響で誤情報が錯そうしています。不用意な情報を流出させたり、無闇に信用する事の無いよう警告させて頂きます。また、現在発表した情報も正式な操作で今後表現や対応を変更させていただく場合がありますので、これも断定的な発表ではない事をお知らせします。この後政府及び広島県からも会見がありますが、そちらでもウイルスの研究および、島民の安否を確認できない限りは断定表現を避けるとの事です。」
ここでテレビ画面は報道スタジオに戻った。深刻な表情をしたキャスターが改めてこう言った。
「現在、情報が大変、錯綜している状態です。現在拡散されている情報が必ずしも正しいとは限りません。」
雅は落胆という言葉では言い表せないほどの絶望に暮れた。表情も精神も視界も完全に凍結し、思考回路が停止した。家族の生死に関する発表は無かったが、最早未感染での生存は絶望的であった。
緊急会見をする担当者というのは辛い役職ですよね。毎回そう思って見ていました。特に震災や大規模な事件の後は実感します。