日和村事件 日和村国有林 逃亡
どうやって佐伯が此処まで来たのか。それは次回作で公開します。
竹島は薬品庫の入口から出て、再び培養室に向かった。
「てめぇ、許さねぇ、殺す。」
佐伯の本性の象徴たる呻きが聞こえる。胸の辺りに食らわせた斬撃に耐えたという時点で驚きだが、彼は雅が落とした刃を握って此方に向かってくる。
「何て、生命力...」
「全くですねぇ。ウイルスに増強効果があるそうですよ。」
竹島はビーカーを握って、佐伯に近付く。何をする積りなのか雅には全く想像がつかない。
「はああああ」
剣の様に刃を構えながら向かってくる。竹島はギリギリまで引き寄せて思い切りビーカーを投げつけた。
「ぐああああ」
この声は苦悶に近い悲鳴だった。あの液体は硫酸だったらしい。物凄い蒸気が筋肉を溶かす液体から上がっている。
「何を...」
「君の方が良く知っているだろう。」
そう言うと竹島は佐伯の頭を目掛けて斧の刃を振り下ろす。それを素早く躱すと、佐伯も反撃に出ようと必死に刃を振り回す。竹島は距離を置くと、隙を見計らって右手の刃を叩き落とした。そして、斧で佐伯の首を切り裂いた。喉笛を掻き切る一撃に流石の佐伯もよろめく。血塗れになった顔面に憎悪を浮かべ、不気味な双眸を此方に向けた。
「うああああ」
虎狼の様に吠えるも、その空気が裂けて口を開いた咽喉から空気が漏洩する。そして痛みに耐えかねたのか竹島と雅に背を向けて逃げていく。逃がすまいと竹島は出口に向かって逃げるその背中を追う。
「もう逃げられないよ。」
竹島は斧を脊椎を狙って振り下ろすが、佐伯の抵抗に阻まれる。何とか生き延びようと必死なのが血走る眼と口を吐きながらも呻く口から伝わる。雅はその豹変した兄の姿に戦慄した。真っ赤に染まったその眼には未だ殺意の炎が燃えている。正しく化物であった。
「必ず次は殺す。絶対に殺す。」
佐伯はそう言い残すと竹島の身体を振り飛ばした。そしてふらつきながらも走って逃げていく。雅は追おうと立って走り始めたが、それを竹島が止めた。
「止めましょう。また彼とは会うことになります。」
「でもそしたら、また沢山の人が死んでいく。」
「ええ、それは此処で止めを刺せなかった私の不覚です。しかし、今は村も此処も危ない。そして此処は佐伯に有利なフィールドです。今すぐ逃げましょう。立てますか?」
そう言って、竹島は雅の手を引っ張った。二人は出口に向かって走り始めた。森はもう夕方になっていた。夜が覆い始めた森の鬱蒼と茂った道を走った。
「竹島さん、その...有り難うございます。助けてくれて。」
「お礼は不要ですよ。その片手に握っている書類を持って私と一緒にもう一度京都に行きましょう。」
「どうしてですか。」
「貴方が参考になりそうな書類を纏めておいてくれたのは本当に助かりました。それがあればあのウイルスは完全に解明できると思います。」
「あのウイルスは何なんですか?」
「詳しくは後で話しましょう。ただ、名称は正式ではありませんが、マーズ・コントローマと言うそうです。」
「どういう意味ですか?」
「まあ、造語でしょうね。ラテン語と英語のコントロールを組み合わせて『死の支配者』と言ったところでしょうか。」
竹島は若干話し過ぎで息が切れたらしく、「急ぎましょう。」と急かした。
森を急いで抜けると、直ぐに竹島の車が見えた。
「貴方はどうしますか?私の車で逃げますか?自分の車で逃げますか?」
「自分の車で行きます。ただ、何処に行くかだけ教えて下さい。」
「貴方の体に負担を掛けて申し訳ないのですが、その資料を持って、先ほども言った通り京都に行きましょう。当然貴方は断る事も出来る。ただ、私は貴方の兄が死なない限りはこの戦いが続くと考えています。」
「わかりました。私も行きましょう。」
「その言葉を待っていました。まずは本州にわたって神戸に行きましょう。」
終わり方は微妙ですが、今回も次回に続く形が都合良かったので本編はこの形で締めくくらせて下さい。此処まで御付き合い頂き有難う御座いました。