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青き薔薇の公爵令嬢  作者: 暁 白花
私、天命を覆します!!
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アリシア ~追憶~ 1

 私がソーナお嬢様に宛がわれた部屋を出ると、扉の前で見張りを務めていたレインに声を掛けられた。


「ソーナお嬢様の御様子は……?」


「……何時もの(・・・・)お嬢様に戻られました」


「そう……ですか……」


「ええ……」


 そう何時もと同じ。

 御家族である旦那様、奥様、レナスお嬢様、お祖父様、そして私達には心を開き、信頼とその深い愛情を向けて下さいますが、弟様や弟様の派閥に属する者や、かつてお嬢様を無能だと蔑んでいた者には冷たく、学園に御二人が入ってからは、その御関係は完全に冷め、また溝が更に深まりました。


 お嬢様は元々、弟様を可愛がっておられましたが、弟様が魔法の才に驕り、お嬢様を侮り見下し始めたのが、その御関係を冷たいものへと変えていきました。

 それでもお嬢様は弟様が誤らない様にと、その御心を砕かれて来ました。


 それが、あの結果。


 そして何時もと同じというのは、お嬢様の心の一部が冷たいのだ。私達に信頼や愛情を注いで下さっていても、お嬢様は悲しみを感じ、御自身が受ける愛情を感じる部分が凍り付いてしまわれている。


 それはアルフォンス皇子と婚約すると決まってから……。


「ソーナお嬢様を排除したところで、あの弟様には、お嬢様のようにハーティリア領を豊かに出来る訳が御座いません。一体何をお考えなのでしょうか……」


「それは同意見ですね。私達のお嬢様は、その視点と考え方が我々とは異なる。その心の在り方に私達は救われた」


「そうね……お嬢様が成して来た事、耐えられた日々がハーティリア領の独立への道を開いたのですから……」


「そうですね。ローゼンクォーツと共倒れなり、滅びへの未来を回避出来たのです」


 お嬢様の御覚悟には敬服するばかりで御座います。


「しかし、あの日お嬢様に私とラファーガ、それにアリシアや侍女達に対して一日鍛練や仕事を休ませ、御自分の身の周りに常に居るようにと仰った時は驚きましたが……」


「お嬢様にはあの日、あの様な事態になると、まるでわかっておいでの様でした」


「もし、通常の日程で進めていたら……」


「私達はお嬢様の救出に間に合わなかったでしょうね」


 一日、鍛練を休めば感を取り戻すのに三日掛かる。其を承知でお嬢様はレインとラファーガに休む様に強く命じた(・・・)

 そう、お嬢様が珍しく私達の仕事を全て休ませ、近くに置いたのだ。


「あの後部隊の編成をレインに任せて、俺とアリシアで後を追い、夜陰に乗じて夜警を襲ってアルフォンス隊に紛れ込んでソーナお嬢様を見守っていたけど……あの場での皆殺しはお嬢様に止められたからな……」


 私とレインの会話に入って来たのは、何処に行っていたのか分からないラファーガ。

 レインが騎士の様な、と評するのなら、ラファーガは飄々とした気儘な冒険者の剣士風と言ったところか。


「ラファーガ何処へ行っていた」


「ちょっとな」


 レインの詰問をラファーガは飄々と応じる。

 それがレインを苛立たせる。


「……貴方はもう少し真面目にできないのですか?」


「何事も減り張りだよ減り張り、レインは固いんだよ。お嬢様に危害が無い様に、相手側に飛び込んで牽制するのも大事だろう」


「はぁ、つまりはサファリス様のお仲間と遊戯に興じて居た、という事ですね?」


「え? あ、アリシアちょっと待とうぜ?」


「今の私が待つ、とでも?」


「わりぃ……」


 囚われて自由を奪われたお嬢様に手を出そうとする下衆は必ず居て、私達はそれらを密かに消し、消した者の替わりに味方を増やしていった。夜が来る度に相手を消し、此方側の人間を増やしていく。


 それでも日々お嬢様に繰り返される石礫をぶつけるという遊びは止められなかった。

 お嬢様が傷つけられていくのを、我慢しなければいけない日々は正に地獄で御座いました。

 とくにインペルーニア侯爵の―― 今は元になっているでしょうか? 以前、社交界で見てから、ソーナお嬢様のお美しさに懸想したという馬鹿子息が妄執を抱き近付き、お嬢様の造形美を見せるそのお身体に、白磁の如く滑らかな御肌に穢らわしい手を這わせ、その手をお嬢様の手に重ね、芋虫の様な指をお嬢様の細く美しい指に絡め、そして――


「アリシア! 魔力が漏れている」


「取り乱しました。すみません……」


「ま、アリシアの気持ちも解るよ。俺もこの手で裁きたかったから」


 怒りの感情で魔力制御を乱すとは、私もまだまだ……反省ですね。


 それに、お嬢様に止められていなければ、私達は村を人諸とも焼き討ちにしていたでしょう。


(いっそ井戸に毒でも……)


 いけませんね。どんな理由でお嬢様に罪が被せられてしまうかわかりませんね。


「少し頭を冷やしてきます」


「いってら~。お嬢様の護りはまかせてくれ」


「お前という奴は……」


 私には軽く、しかしお嬢様に対しては表情を引き締めるラファーガ。その態度に呆れるレイン。二人の目は鋭い光を宿している。

 この二人のやり取りは何処でも変わらない。

 ですが、その瞳に宿る光を信頼して後を任せられます。

 私は苦笑して、では、と後にする。

 


 私は甲板に上がり、船首へと向かう。ハーティリア領へと海路を往く船。海鳥が船と並行して飛ぶ。


 以前からお嬢様は私達を侍女や護衛等の主従関係は嫌だと、家族として親友として居て欲しいのだと言って下さっていたのですが、それではハーティリア家に仕える者達に示しが付かないと、旦那様と奥様に諭され、それでも納得は出来無かった御様子でした。

 私がレインやラファーガより先にお嬢様に救われたので、その時は私一人でしたが、私から旦那様と奥様に侍女見習いとしてハーティリア家に仕えさせて下さい、と頭を下げた時は落ち込まれていました。


 お嬢様に救われた私は最初お嬢様では無く、レナスお嬢様に仕える事になる、と旦那様に言われていました。

 他の者から優遇されていると思われてはいけないから、と。


 呆と風に吹かれ、波の音を聴いていた所為か、ソーナお嬢様と出会ってからの事が思い出された。


(以前、お嬢様が仰られていたわね)


 「海の寄せては返す漣は人の魂を揺さぶるのよ」と。それから、「遠い昔の記憶が人の魂の奥底に刻まれているからなのかもしれないわね」と、海の彼方を見詰めて仰っていた。


 その時は怖かったのを覚えています。まるで海の神様がソーナお嬢様を連れて行ってしまうのでは、と。海の神様がお嬢様を見初めてしまい、お嬢様を呼んでいるのでは、と。


(そんな筈は無いのに……)


 昔の私は今よりも純粋だったのだなと、小さな笑みがこぼれた。


「私がお嬢様に拾われ、救われたのも海でしたね――」




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