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青き薔薇の公爵令嬢  作者: 暁 白花
Blooming Days
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建国とハーティリアの始まり

 〈終末の獣〉封印とその後の祭の話とは話が前後してしまうけれど、私はクォーツ国が存在しながら何故ローゼンクォーツ皇国と名を改めたのかお母様に伺った。


 クォーツ国がローゼンクォーツ皇国と成ったのは、王子とアリーシャ様が旅に出て幾つの月日が流れたのか、その間にクォーツ国は〈終末の獣〉によって壊滅させられたという。


 お母様のお話では、壊滅の規模としては巨大ハリケーンが襲った程度・・だと言うけれど……。


(前世でテレビのニュースや衝撃映像で見た知識でしか知らないけれど、ハリケーンが通り過ぎた跡は何もかも吹き飛ばされて瓦礫しか残っていない印象だったけれど……。もしかして〈終末の獣〉はただ通り過ぎたか、ペシミズムとかでため息を吐いた程度の感覚だったんじゃないかしら?)


 それなら〈終末の獣〉が本気で攻撃をしたら、この星を砕く力があるんじゃないかと思ってしまう。それをお母様に話すと――


 現在、大平原となっている場所には元々国があり、〈終末の獣〉の魔法によって国は消え去り、その魔法によって出来た大切断と呼ばれる傷痕が大地に刻まれているという。今でもその場所には草花は生えていないという。


(……なんか凄いビーム系の魔法……そんなの防ぎよう無いじゃない)


 だから壊滅程度(・・)で済んだ元クォーツ国は不幸中の幸いだったのだろう。

 人が生き残り復興出来たのだから。


 王子の指揮と、アリーシャ様の励ましと心のケア、そして旅の間に出来き、共に艱難辛苦を乗り越えた仲間達と力を合わせて復興を成し遂げた。

 この時に野生種の薔薇の様に気高く逞しくという意味を込めて〈ローゼンクォーツ〉と名を改めたという。


 王子は初代皇帝となり人事を尽くし、その皇帝を支えたのが旅の仲間達だった。


 しかし、その中にはアリーシャ様の御名前は無かった。


(役目を終えたアリーシャ様に残されているのは権力争い―― 政治の人形として政略結婚の道具となることだけ……)


 当時の宗教やクォーツ国の重鎮達が救国の聖女と成ったアリーシャ様を女帝の座に着かせ、彼等の子息と結ばせ、その子を皇帝にしようとする者達が現れるのを懸念し、彼女は皇帝と成った兄に許可を貰い、ローゼンクォーツから離れた海辺の土地で小さな街を創設し、ハーティリアと性を改めて暮らした。


 街ではあっても小さな国だった。


 それがハーティリア家の始まりであり、現在では水没してしまっているけれど、その街がハーティリアの元々の首都だったという。


 何故、港街だったかというと、〈終末の獣〉は海から遣わされて来るという。


(つまりローゼンクォーツ皇国の守護として街(国)を作る事を許されたということよね)


 まるで鬼門―― 丑寅の方角に居を構えて京の都を守護していた安倍 晴明みたいだと思った。


 しかし、疑問が残る。


「何故、海の近くに――と思うでしょ?」

 

 お母様の質問に素直に頷く。


「アリーシャ様は御自分が其処に居を構えてしまえばローゼンクォーツ皇国から―― 正しくはアリーシャ様を操ろうと企む者達からの口と手が出されるのを阻止していたのよ」


「成る程。アリーシャ様に手出し口出しをして、封じの要石でもあるアリーシャ様が機嫌を損ね、その場所を離れる様な事になれば、〈終末の獣〉の脅威を植え付けられたクォーツ国の生き残りは見えざる恐怖に怯え続けなければならなくなる」


「ええ、その通りよ。アリーシャ様の無言の圧力だったのよ」


 圧力なんて生易しいものじゃない。それは―― 私に手を出したらどうなるか解っているわよね?―― というローゼンクォーツ皇国の民を人質にした脅しだと私は思います。


 それによって婚姻を手足の枷としたかった者達の思惑も打ち砕いた。


(民の中には自分達も含まれているのだから、戦々恐々としていたでしょうね)


 そう考えるとブラッドストーンはハーティリアの監視役だったのではないかしら?


 それがこうして婚姻を結んでいるのだからブラッドストーン家は現在のローゼンクォーツ皇国に信を置いていないのだろうし、お隣ということで交流が生まれ交友関係と成ったのだろう。

 それがいつ頃からかは知らないけれど、政略では無く恋愛結婚を認めるくらいにはなっていたという事よね。


 これは両お祖父様も認めている。


 閑話休題。


「それに、アリーシャ様は海と空、波と風の音を感じながら静かに暮らしたかったのではないかしら」


 と、お母様は切なそうな目をする。


 聖なる力を有するアリーシャ様を護る為―― 時には逃がす為に戦い散って逝った者達やアリーシャ様御自身が力及ばず護れ無かった者達を、〈終末の獣〉を斃すという大義名分のもと切り捨てて振り返るという想いも振り切って来たはず。

 

 では、その大義名分が無くなった時、アリーシャ様の胸に去来したのは、懺悔と虚しさでは無いだろうか。


 勇者だとか英雄だとかにスポットライトを当てれば彼等の英雄譚は巨悪を斃し、凱旋して平和になった―― で終わる。


(けれど、ハッピーエンドを受け入れられない者だって存在するわ)


 重く考えるならアリーシャ様は未来ではなく失った過去を求めてしまったということだ。それは失われた未来を求める行為でもある。


 周りからも切り捨てられ、切り捨てる事を求められ、かえりみられる事がなかった感情。それを役目を終え、立ち止まった時、つい振り返って置き去りにしてきた感情を見てしまったのだろう。

 そして人々のお祭り騒ぎを見て、とうとう切り捨てた筈の弱い自分に追い付かれ、囚われてしまった。


 お亡くなった人達の分も生きよう―― なんていうけれど、結局それは生きている人達の―― 悲劇・・とは無関係・・・に生を謳歌出来る人間の勝手な言い分だと私は思う。


(そんな誓いで亡くなった者達のたましいが救われるなら、心霊現象も怪談話も存在しないわよ)


 お化けなんて無いさ―― なんて汚いもの、目を逸らしたいものから蓋をしたい人間が言うことではないのか、と思ったりもする。

 やましい事があるから無い方が心の安寧に繋がる。


(それを目に見える形にしたのが慰霊碑だったりするのよね――)

 

 誰も好き好んで自分の罪や後悔なんか数えて生きていたくは無いだろうし、見ない方が、無かった事にして蓋をした方が健全・・なんだろう―― と思ってしまうのは私の性格が歪んでいるからだろう。


(かく言う私の前世も言えた義理では無いのだけれど……)


 虐めなんてして自殺に追い込む様な殺心・・も殺人と同等の罪は犯してはいないけれど、自分の理想を叶える為に多くの理想や未来への希望を―― 才能を奪ってきた。


 『奏那わたし』が優勝した試合で、その大会での優勝に賭けていた娘も居た。


(あの時は、貴女が存在しなければ―― なんて凄い睨まれたなぁ……)


 そんな『奏那』がシッペ返しを食らったというのも皮肉な話だけれど……。


 まぁ、それはそれ、これはこれ―― と完全に脇に置く。


 けれど『ソーナ《わたくし》』としては自分の命が掛かっているのだから棚上げして置き忘れなんて出来ない。

 なんの因果か記憶たましいは『奏那』のものを持って転生出来たのは不幸中の幸いだろう。


(私が持っていた知識なんてたかが知れているけれど……)


 それでも魔法が発展しすぎた世界で魔力が無くとも別の道でなんとか出来ているのだから救われている。


 それにしても転生したという事は、『奏那』が死んだ場所に縛られて地縛霊に成って、通る者や車を事故に引き摺り込んで同じ様な目に遇わせる悪霊の様なモノに成っていないということでもある。怪談話や心霊話、肝試しのネタにならずに済んでひと安心だ。


(ま、したい人はするんだろうけど……)


 そういった者達へ、我が身を振り返れ――と遠い世界から言葉を贈っておこう。

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