遠い時代のお話
ただ、問題なのはこの皇国の在り方。
ドレス、化粧と流行り廃りはあってもとても緩やかで、皇国が一番素晴らしい文明文化が開花しているのだから、戦に勝って吸収した国、支配し隷属させて人々を他国との肉壁にしている国は格下の蛮族なのだからと見下して、その国の文明文化、技術を取り込んで来なかった。
王族、権力者の男性には死を、技術を持つ男性は労働奴隷にして使い潰す。男児なら男娼として売られる。
女性は例え子供であっても勝者の慰み品とされる。
(その時々の流行の品や動物とかは港街メーアから輸出されているけれど……)
それがハーティリア、またはローゼンクォーツ皇国の強みかと問われれば首を傾げるしかない。
その程度の文明文化だ。
(魔法士だけが御自慢だものね……)
その質も落ちているけれど。
「ソーナ」
「はい」
お母様に名を呼ばれ、私は思考の海から意識を現実へと浮上させた。
「この皇国の始まりは知っているわね?」
「はい……それが一体?」
「じゃあ、ローゼンクォーツ皇国が出来る前については?」
「存じません!?」
私が失念していた事だった。
「ローゼンクォーツの始まりがあるのなら、始まる前の国―― ローゼンクォーツを建国した王子とアリーシャ様がお生まれになられた国があるはず」
「知らないのも当然ね。ローゼンクォーツ建国以前の話は記録にも歴史書にも記される程重要では無いもの……」
それなのにお母様の口振りは、歴史を知っているかの様な――
(違う!)
「お母様の出身は軍人ながら侯爵の位を授かった御家。つまり――」
「つまり?」
「――つまりブラッドストーン侯爵家は〈深淵の大罪〉が初めて顕れた時から、魔モノと戦って来た歴史でもある」
「半分正解ね。〈深淵の大罪〉――七匹の魔獣は元々は一つの存在だったのよ」
「ッ!!」
「驚くのも無理無いわね。私も初めてお父様から聞かされた時、貴女と全く同じ反応をしたもの」
確かに真実に驚いた。けれど私の驚愕はまったく別のところにあった。
『スターチスの指輪』の〈深淵の闇〉はレベルとアイテムさえ整えば主人公がバッドエンド《ゲームオーバー》を迎えることは無い。けれど中ボスクラスになると愛と勇気、絆の強さによる連携技でギリ勝てる強さに設定されていた。
学園ファンタジーでもあるんだから、脅威としては自身の周囲に収まっている。
ただ、そんな学生の主人公と攻略対象の何かの見習い程度のヒーローが、七柱の〈深淵の大罪〉に勝てるとは思えない。
(続編が発表されていたから無印は学園編で、その続編は修行と冒険編で、更にその続編が最終章の三部作だったとか? しかしそれでも、頭が恋愛脳の常春状態で世界を救えるのかしら?)
常に攻略対象が増えて振り回されるのだから。そんな恋愛模様の片手間で〈深淵〉の魔モノ退治なんて出来るわけが無い。
(まあ、ゲームはコンティニュー出来るし、セーブ出来ますし)
攻略本やサイトもあるからゲーム攻略なんて余裕でしょうよ。
(けれどこの世界は現実……。愛の力とか絆で、なんでもかんでも救えるなら誰も苦労なんてしない)
だからこそ人は“真実の愛”なんてモノを探し求めるのだろうけど。
そんなあるかどうかわからないモノを、求める様に運命付けられたフォーリア本人か、はたまたヒロインの席に座らされる転生者、もしくは転移者さんは大変よね。
(同情しちゃうわ。ま、私の知った事では無いけれど……)
私は私のバッドエンドを回避することが一番大事だし。
「……ナ。ソーナ!!」
「は、はい!」
「良かった。さっきから呼んでいたのに貴女、青褪めて反応しないんだもの心配したわ。大丈夫なの? 私が留守の間、ずっと気を張っていたんでしょう? その疲れが出たのね。気付かなくてごめんね。今日はもう良いわ。話は明日にして、貴女も今日はゆっくり休んで過ごしなさい」
「い、いえ、大丈夫です」
お母様は難しい顔で私を睨んだ後――
「お、お母様!? なな何をなさって――」
――お母様は私のドレスを脱がすという暴挙に出た。
「おとなしくなさい! せっかくのドレスが皺になるわ」
そう言ってお母様のベッドに私は寝かされた。
「話を聞く気なら、そのまま聞きなさい。良いわね」
「はい」
お母様はベッドサイドに椅子を寄せて座り、私の髪を優しく一撫でして、話を再開させた。




