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青き薔薇の公爵令嬢  作者: 暁 白花
私、天命を覆します!!
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断罪3

 アルフォンス様が慌てた様子で、フォーリア様を擁護する為に言葉をぶつけて来た。


「い、いや、しかしだな! フォーリアは何時も酷く冷たい言い方をされて、一人で涙を堪えていた! 俺が居なければ心が壊れていたぞ! 普段からソーナ・ラピスラズリ、お前の言葉は冷たい。常の様に辛辣な言葉をぶつけていたのだろう!」


 ……そのアルフォンス様の言葉に内心、悪い笑みが溢れそうになる。この時を待っていたのよ。


(いけないわ。気を引き締めなくては)


「アルフォンス様、私はフォーリア様とは二人きりでお会いしたことも、行動した事も御座いません。先程のフォーリア様に対してのご指摘の際にも、私が一人で出来る事は得て不得手を問わず限界が御座います。私が不得手な事には得意とする者や他の事が得意な者と常に御一緒していただいていました。その方がフォーリア様が凰都にも学園にも早く溶け込めるだろうと……」


 真意が届いていなくて残念です。と、私は寂しげな笑みをつくる。


「ダンスの際の注意も、アルフォンス様というこの国の貴き御方と共に在るフォーリア様が、軽く見られる事があってはならないと……、フォーリア様が婚約者がいる殿方と何度もダンスを踊られる度に、その方の婚約者であらせられるご令嬢が不安で瞳を涙で揺らしていたので、フォーリア様に注意を諭したのです。フォーリア様の評価はアルフォンス様の評価でもあるのですから……」


 私は潔く身を引く、という姿勢を見せる。


「アルフォンス様の方こそ公私混同、フォーリア様への感情を抜きに真偽をお調べになられなかったのですか? ……なられなかったようですね」


 私は小首を傾げアルカイックスマイルを浮かべてみせる。


「ほ、本当なのかっ!? 本当に他の者も居て、ソーナ・ラピスラズリが言った注意は、その通りなのかっ!?」


「え、ええ……。そう……です、ね? そうです。アルフォンス様、ソーナ様の……ご友人? と、名乗る……取り巻きの方のご友人が……」


 私の断罪の場から一転、アルフォンス様とフォーリア様は、常識と皇族としての資質を、特にアルフォンス様には次期皇帝としての器が問われる場に変わり、混乱してしまい、信憑性も根拠も無く、また、それらを調べていない事を自白してしまっている。


「と、取り巻き……ご友人のご友人……?」


「フォーリア様。つまりは私に直接、関わりが無かったご令嬢の仕業―― という事ですね? 『私のご友人と名乗る』というのも私の親友かも確めていらっしゃらない、と?」

 

 二人のやり取りにシン、となる観衆と舞台。


「それにしても……『とり巻きですか』……」


 痛いほどの静寂。そんな中でやけに自分の声がはっきりと、しかも冷たく聞こえた。


 とり巻き―― つまり、私に媚びておこぼれを狙う者、とフォーリアは評した。

 彼女は最大級の侮辱を発した。これ程、私に対してもハーティリア公爵家や親友の伯爵、男爵家に対し、これ程の無礼は他には無いだろう。


「フォーリア様、不確かな事で私の大切な親友を貶めるのは、おやめくださいませ! 先の言葉を撤回し、お謝りくださいませ!」


 すると直ぐ様、フォーリア様が瞳を潤ませて私を責めてくる。


「どうしてソーナ様は何時も何時も! そうやってわたくしを責めるのですかっ!!」


(この人は何を言っているのだろうか……)


 フォーリアの正気を本気で疑い、私は言葉を無くしてしまう。


「――――――――ッ!」


 視界が流れ、腕を捻り上げられる。


 手首が拘束され、鎖で繋がっている為に私は肩から舞台へと叩き付けられ、取り押さえられた。


 意識を奪おうとしたのか、襲撃者に頭も押さえられ、倒れた時に衝撃を受け、目の前が真っ暗に、その時に火花が散る様に視界が弾けて一瞬だけど意識が飛ぶ。


 私がアルフォンス様とフォーリア様を避難すれば、が我慢出来なくなるだろうとは思っていたが、こんな短慮な行動に出るとは……。


 私を押さえつける彼は――アヴェル・ブレイバー。

 皇帝直属の騎士団――《鳳凰騎士》。フォーテュード・ブレイバー騎士団長の子息。


 力弱き乙女を力ずくで押し倒すというのは、騎士に、それも栄えある《鳳凰騎士団》を目指そうという者が採る行動ではない。


 騎士爵は一代限り。だからアヴェル・ブレイバーは士爵の子息なだけで、彼自身に身分はない。


 実力主義、騎士爵が欲しければ自分の腕で勝ち取れ、というのが決まりだと、お父様が仰っていた。女の騎士もいる、と。

 私が魔法が使えず、何れ、身分を無くすからだろう。


 さて、そんな一代限りの騎士爵の子息なだけのアヴェル・ブレイバーの評価は『きっと将来は優秀な、見習い騎士の学生』。

 そんな彼が身分剥奪、罪の確定宣告、死刑宣告も受けていない公爵令嬢に暴行を働いた。

 騎士としてはあるまじき最低最悪の行い。

 しかも今は、私が釈明をしている途中。


 フォーリア様の反論に対して答えようとした瞬間に、まるで言葉を止めるかの様に、私を取り押さえた。


 しかも彼はアルフォンス様とフォーリア様とは親友とあれば、私の言葉が二人の立場を悪くする不都合な事があると、証明してしまったも同然。

 

「アヴェル・ブレイバー……貴方は相変わらず考え無しね……」


「なに?」


「周りの反応を良く見て見なさい」


 アルフォンス様とフォーリア様の私を責める罪の理由がもはや支離滅裂になってしまっている事に……。

 私は確りと自身の正当性を説明している。アルフォンス様とフォーリア様の虚偽が明るみになっている。


(私の釈明をそこで止めたらどうなるのか、本当に理解出来ていないのね)


 私の罪を暴き真実とした準魔導士の魔法、私の悪評を歌った楽士生、私の罪の証拠を作りあげた愚弟、彼等の全ての行いがアヴェル・ブレイバーの行動によって疑わしい物に変わった。


 ざわめく観衆。何処からか、私は不正を働いていないのではないのか等という声が聞こえ始める。それが呼び水となり、アルフォンス様とフォーリア様、彼等に近い親友にたいする疑問の声の波紋が広がっていく。


「な、なんだ急に……」


 戸惑いの声を漏らすアヴェル。


「盲目的な正義は身を―― それどころか家をも滅ぼしかねませんわよ。アヴェル・ブレイバー。貴方はそれを理解した上で、この様な暴行を働いたのかしら? 理解出来ていないなら、愚か、としか言いようがありません。さすがは愚弟の親友というところかしらね。まさに『類は友を呼ぶ』ですわね」


「よく口の回る『淫魔』だな……。俺はお前の言葉に惑わされない」


 火刑までの筋書きが破綻していく。

 だけど油断はならない。

 壊れかけているだけで、完全に壊れた訳でも『ゲーム』の幕もまだ降りていない。


 どんなに回避しても、回避した先に『アルフォンスルート』が待っていた。


「けれど『傾国の乙女』に誑かされているのは何処の何方どなたでありましょうか?」


「貴様ーッ! これ以上はフォーリアの騎士であるこの俺が許さぬ」


「――っぐ。貴方が剣を捧げるのはフォーリア様個人ではなく。皇帝と国でありましょう! 貴方はフォーリア様個人への思いだけ、私事だけで私にこの様な無体を強いるのですか」


 私は頭を押さえる手の力に抗い顔を上げる。

 見習いとはいえ、さすがは騎士。人を捩じ伏せる技はきちんと心得ている。僅かな抵抗でも身体に痛みがはしる。

 さっきからずっと感じていた生暖かい血の感覚。

 血が髪を濡らしていたのは解っていた。


『――――――――ッ!!!!』


 ジクジクと熱い痛みを訴えている。

 ベッタリと血に濡れた髪が顔に張り付く。

 流れた血が更に顔と左側の視界を赤に染めていく。


(自分達が楽しんでいた時は正義を振りかざしていたというのに、今度はそれを棚上げして、今さらこの程度の事で怖じ気付かないで欲しいわね……。これから火刑を楽しもうとしていたのでしょう?)


 私に最早この国への愛情が無いからなのか、考えに毒が混じる。


(怒りや呆れを通り越して、持てる感情も無いわね……)


 あれほど使命感が、やりがいがあったと言うのに最早その情熱は何処にもない。



「もうよい。貴女は口をつぐめ」


 悪い流れになりつつある場の空気を変えようと、アルフォンス様がフォーリア様の腰を抱き宣言台に立つ。


「アヴェル。その女を立たせろ」


「はっ! アルフォンス様が立てと言っている!」


 頭を押さえていた手で今度は髪を掴み、引き上げられる。


「――――ッ」


 痛みに顔を歪めてしまう。

 それでも意地でも声をあげるのを耐える。


(このっ! 女の命と云われる髪をよくもっ!)


 ギリッと噛み締めた奥歯が鳴る。

 私を拘束している力が弱まったのは、これから始まる事を、私がして来た事の結果を確りと見ろという事だろう。

 

「これがお前がして来た事の結果だ。くく」


 ほくそ笑むアヴェル・ブレイバー。

 今までの流れを彼等は――


(開き直って綺麗に無かった事にしたわね)


 仲睦まじくお互いを信頼し合い寄り添う二人を、天が祝福するかの様(・・・・・・・・・)に、光が差し、風が何処からか吹いてきて花弁が舞う。


 アルフォンス様は白を基調にした礼服に赤いタイ。金髪の髪は襟足を伸ばしたウルフヘア。

 整った顔立ち、リーフグリーンの瞳。その眼差しは彼の存在感を引き立たせ、その瞳でジッと見詰められるだけで溜息が溢れてしまう。


 彼にエスコートされ、たおやかに寄り添うのは薄桃色のドレスにマロンブラウンのストレートの髪。榛色の瞳は優しさを湛えている。その微笑みは温かく、柔らかで優しい陽だまりの様であり、安らぎをあたえる。

 そんな微笑みをアルフォンス様に向け、彼もそれに応え、二人は見詰め合う。


 それはゲームで見た光景スチルと同じ。それが目の前で起きている。

 こんな状況、立場では無く、無関係な立場で見たかった……。そんな立場なら何時まででも見ていたいと思わせる場面。


 これで流れが彼方に流れはじめた。


(まだ、まだよ)


「アルフォンス・サンクトゥス・ローゼンクォーツは、ソーナ・ラピスラズリ・ハーティリア、貴様との婚約を破棄を宣告する! そして、サードニクス伯爵家のご令嬢、フォーリア・サードニクスと婚約を結ぶ事を宣言する。よいなフォーリア」


「はい。アルフォンス様。わたくし、とても嬉しく思います。わたくし、フォーリア・サードニクスはアルフォンス様のお手を取りたいと思います」


 跪き、アルフォンス様の手の甲に口付けをして、誓いを立てる。


(たぶん私が注意したからよね……)


 跪いたのはそういう事だろう。だって横目で勝ち誇った視線を送って来た。


 元々、私とは国の為の婚約と結婚。しかし、婚約を破棄したその場で別の令嬢と婚約。

 だけど、観衆の反応は祝福より戸惑いでざわめいている。


 公私でわたくしを見捨てた皇子が、完全に私事だけで動く。それは国民に不安を与えるには十分だった。

 そこに将来国を支える若き、見習い騎士アヴェル、宰相の子息で愚弟レイフォン、魔導士レキ・パーライト、楽士生アイト・チャロ・オプサイドが加わっている。

 彼等も私情で動いていると態度で解ってしまっている。


 皇子とその新たな婚約者に逆らえば、騎士の制裁があると私で実証してしまっている。

 宰相に悪印象を与えればいまより暮らしが厳しくなり、魔導士、魔法士に見捨てられてしまえば、魔力を持たない者は恩恵を受けられなくなってしまう。楽士はアルフォンスとフォーリアを讚美する歌、英雄譚だけを歌う。


「その者を火刑台の柱に磔よ!」


 アルフォンス殿下の号令でアヴェルと複数の騎士により私は十字に磔にされる。


 





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