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青き薔薇の公爵令嬢  作者: 暁 白花
私、天命を覆します!!
6/228

断罪2

 携帯ゲーム機ソフト・恋愛シミュレーションゲーム―― 乙女ゲームの『スターチスの指輪』である『ソーナ・ラピスラズリ・ハーティリア』は、主人公を邪魔をしては欠点をあげつらう、典型的なただの貴族令嬢だった。


 魔法が使えない劣等感から『公爵令嬢』という矜持に縋っているお嬢様だった。

 魔法が使えないからこそ自身の美しさ、所作、礼儀作法、姿勢と淑女としての嗜みを研き、完璧に出来るという自負があった。

 

 真実、彼女は公私共に国を民をアルフォンス皇子を愛していた。

 皇家に相応しい女になる為の厳しい教育も受けてきた。

 その厳しさも愛していたからこそ乗り越えられた。


 だからこそ無邪気に皇子に接して、彼から微笑みを向けられる主人公が許せなかった。

 ストーリーが進み、魔力があり、しかも稀有な魔法を使えるとわかったとたん、更に深い寵愛を受ける主人公に嫉妬した。


 『ソーナ・ラピスラズリ・ハーティリア』自身は、慈しみに溢れた微笑みも寵愛も受けたことがなかったから。

 彼女自身、アルフォンスに対し、あれこれと口煩く注意をして煙たがられているのは知っていたし、理解出来ていた。

 彼が皇子として、将来の皇帝として恥を掻かない様にと公私共に心を砕いてきた。


 その想いが報われず憎しみにかわり、『ソーナ』の心を仄暗い炎が支配し――


(何がどうなってフォーリア・サードニクスの魔力と魔法が暴走したのか、ゲームでは曖昧であったし、『ソーナ』は釈明も許されず火刑に処せられた筈……)


 その瞬間を私は『これがお前の天から与えられた運命』だと夢で延々と見せられて来た。


 確かに『わたし』はソーナ・ラピスラズリ・ハーティリアに転生した。ゲームの『ソーナ・ラピスラズリ』は『私』がモデルだった、という事になる。

 『天啓』を得たシナリオライターが書いた私の未来は平行世界の『私』という事なのだろう。


(……まるで逃れられない『呪い』ね)


 だけど生憎様。私は記憶を――『奏那』の記憶を喪わずにいた。


(それでもこの状況……全てが私の死という『天命』に集束しようとしているのね……)


 歴史の修正力、世界の意思……。だけど、私の死を望む者がそれ(・・)を自らの意思、行動で手放してしまえばどうなるのかしらね?


禍福は糾える縄の如し。私の智が私を決める。私の未来を決めるのは『天』では無い。


 『奇跡』は偶然でも『天』からの贈り物なんかじゃない。小さな必然の積み重ね。私の行動の積み重ね。


(『天から授けられた才』を持つフォーリア様に悉く覆されてしまったけれど……)


 覆せないものもある。



 私が視線を戻すと同時に、アルフォンス様が忌々しいというのがはっきりと分かる声音で怒鳴る。


「どうあっても惚けるか貴様っ! 貴様はフォーリアに対し、身分が低いのだから跪け、礼節、作法がなっていない知らない、田舎の出身の者だと馬鹿にしていたようだな」


 そのあまりにも稚拙過ぎる理由に、この方は本当に一国の皇子なのだろうか? とアルフォンス様の言葉に我が耳を疑ってしまいました。


「社交界は――社交の場は私たち淑女の政治の場でもありますわ。礼儀作法がなっていなければ相手に対して御無礼にあたります。まして私達は家名をも背負っております。家名の悪評に繋がり、侮られてしまいます」


 『子供の礼儀作法を見れば親が分かる』―― それは礼儀作法のなっていない子供は親が礼儀作法がなっていないから、教育がされていないと取られ、果てはその親の教育に問題が問題がある――と、家の質、格が問われる。


「それに私達が皇族の方々に跪き、最上の礼を取るのは当然の礼儀作法ではございませんか。それは皇太子であらせられるアルフォンス様がご存じ無い訳ではありませんよね? 学園でも社交場でも凰都に不慣れなフォーリア様をご案内し、お教えした迄でございます」


 茶話会や夜会では淑女の礼―― 片膝を斜め後ろの内側に引き、もう片方の膝を曲げて背筋は伸ばしたまま挨拶をする。これは女性のみが行う膝を着こうとする意思を示している。


 社交界では両手でドレスのスカートの裾を摘まみ、軽く持ち上げる。更に相手が自身より身分が上、目上の者に対しては男性女性に関わらず、腰を曲げて頭を深々と下げ、膝もより深く曲げて行う。これはより丁寧な作法。


 皇族主催のパーティーには跪ける様なドレスを着用するのが常識とされている。それが最上の礼儀なのだから。


 私はフォーリア様が最低限の礼儀を怠ったので注意をして、実演をして見せたまで。


「し、しかし、ならば何故社交界でフォーリアを壁際に追いやり、排除しようとした!」


「……貴方様が、それを私に問うのですか? アルフォンス様こそ胸に手を当てお考えになられたらよろしいのでは、と具申いたしますわ」


 お祖父様、楽しそうに笑みを浮かばせないで下さいませ。

 お父様が鋭利な眼光と共に片方の口の端しをつり上げる。その笑みは交渉や相手をやり込めた後に見せる悪どい笑み……。お祖父様が見せるのは真剣勝負で相手を仕留めに行く時の笑み……、怖いです。狩られてしまいそうです。


 バッ! と勢い良く扇子を開き、お母様は口許を隠した。

 お母様から漏れた魔力だけで、その周囲が煌めく。

 あぁ、レナス耐えきれなかったのね。


 顔を伏せて肩を震わせている。それだけを見れば今生の別れとなる姉の姿に泣く健気な妹の姿だろうが、レナスが肩まで挙げた手、その親指が力強く立てられていた。私が教えたハンドサイン。


 『さすがですお姉様!』


 あれは笑いでお腹が捻れているに違いない。

 レナスはアルフォンス様が嫌いだ。だから、私とアルフォンス様の婚約に一番反対したのもレナス。お父様と大喧嘩。魔法撃戦が勃発してしまいました。

 

皇子・・で私の婚約者であるアルフォンス様が、その意味をご理解していない。なんという由々しき事態……。アルフォンス様ハーティリア公爵家を馬鹿になさるのも大概になさいませ!!」


 アルフォンス・サンクトゥス・ローゼンクォーツが皇太子になれたのは公爵家の令嬢と婚約するのが条件だったからで、私を切るという事はその権利を自ら放棄したことになる。


「婚約者、許嫁、既婚者の異性とダンスを踊るのは一度まで、それ以上は不義を疑われかねません。それ以上は品位に欠けた行い。またそれ以外の男性とのダンスを踊る場合、二度目からは男性の方から御誘いがあった場合のみ許されること。女性から男性を誘うことは品位に欠けた行為。三度目は婚約が成立した時。それを繰り返すのはフォーリア様の品性が疑われる事になってしまうのですよ? 私はそれを諭しただけですわ」


 淑女ならば知っていて当然、守るべき事。

 それをフォーリア様は無邪気に奔放に振る舞い、アルフォンス様とは二度、愚弟、見習い騎士、魔導士見習い、楽士生、攻略者対象を侍らせて、他の殿方とも積極的にダンスに誘っていた。

 それは婚約者の私に対し、またハーティリア公爵家に対し、皇子と伯爵家が侮辱した事になる。


 政略結婚を前提とした婚約者である私より、伯爵家令嬢の方が皇子の寵愛を受けていると、貴族の中で有名になってしまい、サードニクス伯爵が支持をしている侯爵家が調子づいた。


「私の説明に何処か問題がございましたでしょうか?」


 審判官、司教が私に対して問い質す事柄を、激昂したアルフォンス様が冷静さを失い投げ掛けて来て下さるので、此方が場の流れを支配できて話を進められるので助かりますね。


 アルフォンス様が支離滅裂になればなる程、私が冷静に理路整然と返す程、どちらの主張に理があるのか明白になっていく。


 ゲームという予言があり、結末を知り、本物のアルフォンスを知った今、彼に憧れる理由も恋に堕ちる理由も無い。

 100年の、どころか数ヶ月で愛が冷めるのだから、憧れが冷めるのなんて一瞬。


 そんな私だからアルフォンス皇子に対し愛情なんて無い。無いのだから彼が何処の誰とどうなろうが、私には嫉妬する理由が無い。


 そもそも宰相で立場ある父を持ち、戦になれば最前線で戦う祖父を持つ公爵家の令嬢である私が、安易な発言をして嫌がらせをしてしまうと皆が信用を失う事になる。


(お母様が築き上げた繋がりも、信用も失ってしまう。そんな事出来る訳がない。そんな事も分からなくなってしまったのね……レイフォン……)


 弟は恋に盲目となり、冷静な判断が出来なくなっている。

 しかも将来、皇族に名を列ねる者として、皇太后ガーベラ様から直々に皇族の仕来たり、礼儀作法を学んできた私には責任があるのだから、そんな小悪党の様な真似をする暇なんて無かった。これも先の理由と同じ安易な発言は迷惑がかかる。


 たとえ皇子がフォーリア様と何処かでデートをしたり、ベーゼを交わしていたり、愚弟達と共に青春を謳歌していても……。


(そんな事にも思い至らず、判断出来ない程、頭の中が常世も春、なのですね……) 

 

 私達、ハーティリア公爵家は矜持を傷付けられた。

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