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青き薔薇の公爵令嬢  作者: 暁 白花
Apostolos
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想い ~サファリス~

 腕の中で自身の身体を預ける愛しい少女を俺は見る。

 やはり、ソーナの言う通り、《使徒》化は止まっていないのだろう。息も荒く、伝わる鼓動は速く、身体も熱い。時折、小さな苦悶の声が零れる。

 姿も《使徒》のまま戻っていない。しかし、その瞳だけは俺の良く知る瑠璃の色に戻っていた。


 彼女を休ませるには早く船へと上がった方が良いのだが、今だけは俺がソーナを独占しておきたい。


(彼女の事を心配をしているアリシア達を怒らせるな)


 それでも、と思ってしまうのだからどうしようも無い。


 それにしても、とソーナの意識を取り戻せた時の事を考える。


           :

           :


 俺がソーナの抱えていた寂しさを暴いた時、《使徒》ソーナの瞳の色が血の色にも似た妖しい紅玉の色から、彼女本来の美しいラピスラズリの色に変わった。


 姿は変わってしまったが、《使徒》の心は紛れも無くソーナのもの。彼女の孤独と絶望。

 それは、冤罪により掛けられた呪いだ。

 その呪いは、彼女へ想いを寄せる者の温もりを奪う程の呪い(もの)だった。


 ならば想いの熱を直接伝え、呪いを解けば良いと考えた。


 ――が、お転婆ネコの彼女には磨がれた鋭い爪があった。彼女の祖父、戦神と謳われた男、直伝の技が。


 しかも《使徒》化となり、膂力のました手槍。

 身体強化をして掴み止め、引き寄せると彼女の唇を奪った。


 俺の急な口付けにその愛らしい勝ち気のネコの様な瞳を驚愕で目一杯見開く《使徒》ソーナ。


 何者も必要無い、と言った《使徒》ソーナからの口付けを拒んだが、結局のところその心も一つの側面でしか無い。

 姿が《使徒》であれ、俺もソーナなら姿は関係無かったのだろう。


 これではソーナが孤児院の子供達に話していた幻想物語の死体愛好者ネクロフィリアの王子と変わらない。


(ま、違いと言えば硝子の柩の姫や眠っている姫とは違うって事くらいか)


 あと、初見で奪う訳では無いという事くらいだろう。


『悪い魔法の呪いや、死からお姫様を解き放つのは王子様の真実の愛と口付けなの』


 とは、ソーナが言った事だ。


 それは彼女が望んだ事だったのだろう。

 公爵令嬢として国、領、民の為のアルフォンス・サンクトゥス・ローゼンクォーツ皇子との婚約。

 恋も愛も、尊敬も無い婚約。寧ろアルフォンスの方がソーナを一方的に嫌っていただけだが。ソーナの方は――


『武家の血も流れているので『武士の情け』結婚ですね』


 と、民を通しての情を見せてはいたが。

 

 しかし、その一方でそれを『呪い』と例えた。


 それに、愛しい彼女の可憐な唇をあんな奴が奪ったのは業腹だ。


 ソーナを苦しめている―― 苦しめた口付け(呪い)なら――


 俺は口付けを止め、彼女の唇から離すと挑発的な笑みを浮かべ、驚いたまま、身を硬くする《使徒》ソーナに問い掛ける。


「真実の愛ある口付けなら、呪いは解けるのだろう?」


「なっ! ……んんっ!?」


 何を馬鹿な事を―― か、それとも何をする―― かは、分からないが、彼女の言葉を遮り、唇を奪い、舌を捕らえ、絡め、魔力と唾液を強引に流し込んでいく。


 彼女は喉を鳴らし飲み下していく。


 一説には魔力炉は心の臓では無く、丹田にあるという。

 魔力炉、心の臓説は魔物や魔人の魔核―― 魔力結晶がそこにあるからだ。


 丹田に無属性の力を持たないエーテルが集まり、魔力とするのが心の臓だという。


 女性は『子宮』の位置に当たるとか。


 器―― 杯の形に酷似する子宮は血を受ける杯だとか。血統(子供)を宿すうつわ


 つまり魔力をも受け入れるさかずきなのだと―― それが皇族―― 王族の姫、魔法貴族の令嬢として生まれた女としての在り方で、それらに嫁ぐ令嬢なのだとソーナは言った。


 魔力は魔力回路を流れる。ならば俺の魔力をそこへ注げば良い。


 魔力は操者の想いの力だという。ならばソーナへの魔力(想い)を注ごう。


           :

           :


 と、まあ、そうやって戻せたは良いが、あの艶っぽさと熱く甘い吐息、潤む瑠璃の瞳が俺の理性をぶっ壊しかけた時は焦ったが……。


 成る程、アズライト教の童貞共が『淫魔』と忌み嫌う訳だ。

 その叡智に美と愛の女神の如し肢体。凛とした中に艶がある声に聞き入ってしまう。


 聖性―― 犯し難いからこそ、男の欲望を掻き立て、理性を乱されてしまう。


(奴等にとっては誘われ、弄ばれる、といった畏れか……)


 それを誤魔化す為に『靡な容姿で人を誑かし、媚びを売るしかない法の使えない女』を略して『淫魔』と称したが、魔人の『淫魔サキュバス』の事だろう。


 流石にソーナに罪状を告げる司教が『ママ、僕をあの淫魔からお守り下さい』と祈っていたのは気色悪かった。


 何かが海に投擲された音が聞こえ、そこで考えを止る。


 俺とソーナはその音かした方を―― その正体を見た。ソーナを独占しすぎたか、投擲されたのは《ロサ・アスール》だった。


 早くお嬢様を連れて戻ってきなさい。そう言っている持ち主の顔が思い浮かぶ。それはソーナも同じだったようで、彼女と見詰め合い、笑みを零す。


「サファリス様……」


「ああ。そうだな、君を待っている者達の許に戻ろう」


 俺は《ロサ・アスール》を掴み、何度か軽く引っ張り、合図を送った。


 彼女の様子をこっそりと窺うが、《使徒》化を抑え込むのも限界に近い様で、ソーナの息も先程より荒い。


(何か、何か解決法は無いのか……)


 聖魔法の文献は少ない。《使徒》化など知らなかった。

 まして、彼女の魔法は創意と独自性が強い。


 宮廷魔法士・魔導士を唸らせ、頭を抱えさせた程だ。そんな彼女の聖魔法は、歴代の聖女の魔法とはかけ離れている。


(結局ソーナ以外、解らないって事か……)


 そのあたりの事を彼女が考えていない、とは思えない。必ず用意しているはずだ。今はソーナの解決法に賭けるしかない。

 


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