戦後 ~アリシア~
お嬢様に救われ、その日から何度も聞き、安らぎを覚えたお嬢様の澄んだ歌声が静かに戦場を支配しました。
それは戦歌では無く、戦場では場違いな程に命を優しく慈しむ祈りの歌。
そしてまるで愛しい命をあやす様なゆったりとした舞い。
私達は見惚れてしまっていた。
それは《深淵の大罪》も同じ様で、お嬢様の子守歌を大人しく聞き入っています。
私達はお嬢様が荒御霊を鎮める為の子守歌という魔法を使い、《大罪》を眠りに沈め、海の底へ還そうと為さっていると気付き、海に引き摺り込まれては堪ったものではありませんから《大罪》に突き立つ武器を引き抜きました。
サファリス様の守護者であるジェイド様も金属線を切り離していらっしゃいます。
クォォン……と、まるで小さな子供が欠伸でもするかの様に一鳴きして、《大罪》が海へと沈む様に潜り姿を消します。
その光景を誰もが無言で眺めています。
そして、《大罪》が沈みきり、姿が見えなくなり、私達は暫くの間、警戒をしていましたが何も起きないと判ると、《深淵の闇》と《深淵の大罪》を相手取り生き残った事、国へ生還出来る事に歓喜を爆発させました。
「お嬢様、やりました! お嬢様のおかげで――」
――皆無事です。国を護れました。振り返った私はその言葉を紡げませんでした。振り返った先に言祝ぐ相手が居なかったのです。
「お嬢様っ!!」
其処にはお嬢様が先程までは居たという痕跡だけが遺されていて、私は血の気が引き、失せて行く音を確かに聞いた。
「確りするんだアリシア! お嬢様を追うぞ!!」
レインに叱咤されて私は頷き、駆け出す。
「くそっ! 何がお嬢様の騎士だ! これじゃあ、あの時と何も変わらない! 守護者失格だっ!!」
ラファーガの言う“あの時”とは幼い頃の事でしょう。そしてまた彼の言う通り、侍女として失格です。
(いったい私は何を安堵していたたのよ)
私は、私達は安心をして油断などしてはならなかった。
悔いる私の視線の先に戦装束――《処女の女神》を纏ったお嬢様を見つけた。
お嬢様の姿を確認したのは良いのですが、私の裡は嫌な予感で支配されています。




