子守歌
《深淵の大罪》の背鰭では無く、僅かに覗く背を狙い射つ。
聖なる光を纏った聖槍が唸りを上げて《大罪》へと迫る。抵抗をものともせず、混沌の魔力を完全に消滅させて、鱗諸とも肉を爆ぜさせて深々と突き刺さる。
(アリシア達が作った穴を、あの粘液質の魔力が塞ぎきる前に狙い射ててよかったわ)
ラファーガがアリシアの《ロサ・アスール》の杭を《狩りの女神》の矢に連結させる。
「アリシアッ!!」
ラファーガの合図にアリシアは魔法陣を展開させると、《ロサ・アスール》の柄を魔法陣へと突き入れる。
すると彼女の武器が空中で固定される。
聖槍の波動が邪魔をして《大罪》は粘液質の魔力を纏えない。
「ソーナ達が作り出した好機を逃すなっ!! 船の魔力動力炉に魔力を回せ! 対海魔装備を出せ!! 奴を行かせるな!!」
粘液質の魔力が復活しない事を絶好の好機だと、サファリス様の号令に「応ッ!!」と海兵隊員達が大声で応え、駆け足で持ち場へ向かう。
対海魔装備だという銛を射出させる。
勢い良く射出された銛が《大罪》の巨体に食い込むと、再度装填された銛が射出された。
射出機から伸びる太い金属線が船体と《大罪》を繋ぐ。
「第一列銃士隊、射てッ!!」
銃モードの可変銃装剣を構えたサファリス様を中心に、魔力の充填を終えていた魔銃士隊が魔法を次々と放っていく。彼等の属性に聖属性が付加されている為に魔力消費が激しい。
「第二陣、いきますよ!!」
ユエ様が率いた隊が迅速に前へ出て位置につくと直ぐ様に魔法を放つ。
放たれた魔法に対し、《大罪》も魔法を放ち幾つか抵抗すると、船を引きずり回そうと泳ぐスピードを上げていく。
それに抗い、《大罪》の好きにさせるものかと、サファリス様が命令を出し、操舵士がそれに応えて、逆に《大罪》を引っ張り踏み留まり、引き合いとなる。
聖槍が突き刺さっている為、微々たるとはいえ弱体化しているのは間違いない。
(更に弱体化―― いいえ、それどころか上手くいけば無力化が出来るかも知れない)
リスクはあるけれど。
「――――咲いては散る廻る命――」
アリシア達やサファリス様達が振り向く。
「――――嘆き悲しみを漣華と咲かせ和ぎの水面へ」
私は歌う。戦場に似つかわしくない歌を。
「――目覚める時は健やかなる命をと祈り 生まれ来る愛しい愛しい命。共に喜び真心で包み 安らぎを――――」
祈りの子守歌を私は歌う。
「《大罪》が大人しくなった!?」
私の意識の外で誰かが言った。
「お嬢様!」
「ソーナ!」
と、私を呼ぶのはアリシア達とサファリス様だろう。
ゆっくりとした静かなリズム。揺れる揺り籠の様な―― ぐずる愛し子をあやす様な舞いとステップで魔法陣を描く。指が綴る詠唱文。
「――今は泡沫 夢と現 微睡みの中。子守歌に誘われて さあ、眠りなさい」
歌い、魔法陣の構築を終える。この時になると、アリシア達は武器の回収を終えていて、警戒だけは怠らずに隙無く武器を構えている。
サファリス様も大口径の回転式魔法銃に装填している弾丸に魔力を充填していて、何時でも攻撃可能な状態。
ユエ様達も魔法杖装剣に魔力の充填をし、照準を《大罪》に合わせている。
ジェイド様は《大罪》と繋がっている銛を切り離して、距離を取るように指示を飛ばしている。
(……《大罪》は……眠りについた……わね……)
身体が熱い。凄く熱い。
私の身体は限界だった。
(アリシアやラファーガ、レインが《大罪》に集中している間に……)
私は朦朧とする意識の中、最後にサファリス様を見る。
(守れて……良かった……)
激痛が走る身体と、ふらつく脚を引き摺ってその場を後にする。




