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青き薔薇の公爵令嬢  作者: 暁 白花
My Life.
21/228

薫1

「……」


 甘口でもカレーのあと引くスパイスが気になるのかアリシアは席を立ち、お椀に少しだけお味噌汁を注いでくる。


「……」


 アリシアを見て、その薫りが湯気と共に漂うと、なんだか私も欲しくなって少しだけ注いでくる。


 玉ねぎが溶けきり、味噌汁にトロみと玉ねぎの甘味が加わっていて美味しい。


(玉ねぎを後から足しているのね……)


 ……行儀が悪いと思いつつ“ねこまんま”にしたくなるのは何故だろう?

 チラリ、とアリシアに視線を送ると、いけません、と首を振られた。


「俺達と出逢う前から作ってるんっていうんだからな。ハーティリアに居た俺達は幸運だ」


「私はハーティリア家に仕えていましたが、実際にハーティリア家と関わったのは十歳になってからでしたから、それ以前は詳しくはなく、それが残念でなりません」


「お嬢様、続きを聞かせて下さいませんか?」


 三人はお父様やお母様、シアンに私の事を聞いているはず……。

 それでも三人の話を聞いて、過去の私を垣間見たに過ぎず、過去の私の想いが今の私を作り上げているのには違いない。だったら私の過去を語ろう。それは未来に繋がり、その未来にアリシア達が共に歩んでくれるのだから。


           †

           †

           †

           †


 農地改革と米作りの為に、米農家の村の村長をはじめ重役達、農民を数名と、更に貧民街、孤児院から人々をハーティリア領首都ブルーローズのに召集。

 議場となった広間には当然官僚も出席している。


 お父様、お祖父様は私が説明した時の様に料理から出し、シアンを助手に野草集めと医食同源、新たな米作りの方法を説明していく。

 そして何故か最後にお父様は、娘の発案だと私を前に立たせた。


 私の立場――土台を固める為だろうとは、幼いながらに理解出来た。何せ、頭脳は17歳だ。たまに精神が肉体に引っ張られる時があるけれど……。


 解ってはいた事だったけれど、やはり殆どの者達が食べ物さえ口にしていれば、出来れば良いという考えで、栄養の大切さを知って貰おうと理詰めで説明しても、彼等は理解を示してはくれなかった。

 食べれば元気、食べれなければ飢える。種を沢山蒔けば沢山育つ、と農民は自分達が行って来た経験値に自負もあり、貧民街の住人も先ずは食べ物を寄越せ、と騒ぎ、鼻で嗤い去っていく者と、半信半疑ながらも現状を理解出来ていて残る者とに分かれた。


 そして、残った者に仕事に従事すれば給金を払い、新たな事への生活の保障を約束すると、お祖父様が説明した。


 1月、2月は米作りの説明と議論に費やされた。


 私がお父様達に説明。お父様達が農民、貧民街の住人、孤児院の年長者に説明し、議論をするという形にしている。

 お祖父様はハーティリア領に残り、お父様、お母様、私、レナス、レイフォンは凰都の邸宅へと戻り、私とレナスはお母様や家庭教師から礼儀作法と勉強を励み、レイフォンは学業と剣術に魔法と学ぶ。この魔法の勉強にレナスも参加する。


 実は私も魔法書を持っていたりする。学術として興味があったから、お母様が使っていた物を戴いた。


           †

           †


 そして――


 アルフォンス殿下との婚約を回避出来た! と内心、スキップしてそのまま踊り出したくなる気持ちの解放感を抑えて思案する。


 将来はお母様似の美しく麗しい女性になる、と言われていたりする。ならばそれを今から磨かない理由は無い。


(将来、商爵になるのなら「絶世の美女」という売りがあるのもいいかもしれないわね)


 ナチュラル美人が一番。お洒落の流行で頭に変な物を乗せたり、美に効くと聞けば怪しげな薬を求め、血を抜いたり、毒物混じりの白粉を用いて美白を追求したり、少しでも痩せて見える様にとコルセットで締め上げ――


(けれど、素になれば歯は黒くボロボロ、肌も……)


 そんな恐ろしい未来(幻想)を撃ち砕く!


(主に社交界の華と謳われるお母様が!)


 私は右手を強く握り締める。


(思わず誰もが振り向かざるを得ない程の美しさを手に入れる。その為に徹底的に己を磨き上げてみせるわ)


 そう決意した私は、お母様から姿勢や仕草、雰囲気を真似て盗み、重要な点、気付いた事、修正点は書き起こして研究を重ねている。

 前世でフィギュアスケートをやっていた時の様に絵を書き、イメージトレーニングもしている。


 更に食の改善もなされた。あんなに味の濃い高カロリーの食事は運動をしない貴族には、病とぽっちゃり一直線――


 ――朝日を浴びながら、あの『七草粥革命』と呼ばれる様になった日から今日までの事を振り返っていた。


「おはよう。ソーナ」


「おはようございます。お姉様」


『おはようございます! ソーナお嬢様!!』


 ハーティリア邸―― 園庭に朝早くから元気な挨拶が私に向かって為された。


「ごきげんよう。お母様、レナス、皆さんも……」


 私はお母様、レナス、そして侍女達に向かい合う。


「では始めます」


 そう言って始まるのはヨガ――


 私達が着ている服は麻の服にハーフパンツ。最初は私一人で始めたヨガ。

 最初は私の姿に吃驚したシアンからお母様に伝わり、興味を抱いたお母様が参加、お母様がレナスを誘い、シアンもおっかなびっくりに始め、遠巻きに見ていた侍女達が美を求めて続々と参加してきた結果、各々が思い思いの麻の服とハーフパンツ(トレーニングウェア)を買い揃えだした。


 気が付けば何時の間にかヨガ教室みたいになっていた。


 目の前の侍女達はお母様とレナス派に属している。その彼女達の中でもシアンが教育している者達が数少ない私の派閥だったりする。


 先ずは私がして見せてから皆に指導。皆が形になってから揃って行う。


 お母様と侍女達は仕事がある為に早目に終わらせて湯浴びをして汗を流す。レナスはお母様が拭っている。


 ここで一つ不満がある。


(元日本人の私としてはお風呂に入りたい。湯船に浸かりたいのよね)


 浴槽に湯を溜め、桶に湯を汲み入れて布を浸けて身体を拭い、汚れを落とす。


「お湯には浸からないのですか!?」


 と驚いたものだ。


 湯に浸からないのは退廃的だから、という事らしい。だが、立派な湯船があるという矛盾。


 要するにキレイ好きではあるが入浴には熱心では無い、という事だ。


 髪も身体も石鹸で洗う。しかし、その為か洗った髪はキシキシして傷む。


 私はシアンに髪と身体を洗って貰いながら石鹸を見つめる。


(石鹸は、ある……)


 あるにはある……。だけど……ワクワクしない。


 湯浴みを終え、シアンに麻の服とハーフパンツからドレスに着替えさせられた私は部屋へ向かう。


 その途中の廊下でレイフォンに睨まれる。


「……お嬢様、お気になさらず」


「ええ」


「っ!」


 シアンの気遣いに短く答える。

 私の反応にレイフォンが振り替える気配が伝わってくるけれど、興味がない。


「くそっ! 下等民族の癖に魔法貴族である僕を無視するのかっ!」


「癇癪を起こしているようだけれど、私に嫉妬・・する前に、魔法以外で役立つ物の一つでも生み出してみなさい」


 それだけを言い残し、私は部屋に入った。


「では、お嬢様、お時間になりましたら参りますね」


「ええ、お願いね」


 一礼して退室するシアン。そして私は次の策の為に前世の趣味だった物を作る事にした。



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