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青き薔薇の公爵令嬢  作者: 暁 白花
私、天命を覆します!!
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遠矢 奏那

 わたしは裕福な家庭に生まれた。

 父は世界的に有名な指揮者で、母も世界的に有名なバイオリニスト。

 そんな両親の一人娘として生まれたわたしは、遊びの中で楽器や音に触れてきた。

 それが当たり前だったので、周りがいうほど特別な事では無かった。


 自分で言っていて恥ずかしいけれど、『美人バイオリニスト』と云われる母。その母に似た美少女。

 さらさらの黒髪、ややつり目ではあるけれどそれを縁取る睫毛は付け睫毛が必要が無いくらいで、長くボリュームがある。親友の言葉によるとバッサバサらしい。眉は上がりめのストレート。ドールの様な魅惑のアイ。親友によれば強気でクールな雰囲気。

 唇はアヒル口。鼻も美鼻で、美鼻ラインと呼ばれるものがあり、それが確りしている。


 何かに集中している時の口元は、指揮台に立ち指揮を取る父の様だと父の指揮者姿を知っている母を含め、複数の証言がある。


 ……わたしそんなに挑発的な笑みを浮かべてる?


 『美少女バイオリニスト』の誕生……。

 それが周りの期待するだった。

 たとえ母からバイオリンを教わっていて、『音楽の才能』があったとしても、私にとってみては『特別』な才能ではなかった。

 だから両親の様に音楽の道に進まないか? と問われれば「否」と首をふってきた。


 だから両親から聞かれた時は一も二もなく、わたしは答えていた。


「フィギュアスケートがやりたい」――と。

 

 身体を動かして音に合わせる、音を奏でるように滑る、音を表現する。特にアイスダンスに心が惹かれた。

 身体を動かすのが好き、音楽が好き。だったらこれしかない! と。


 音楽の―― バイオリニストへの道を進めて来た人達に「バイオリニストの道へ行っていれば……」とか「だから言ったのに……今からバイオリニストの道は……」なんて言われたく無い。


 だから妥協をせずに練習に取り組んだ。

 だけど私が惹かれたアイスダンスだったけれどパートナーがいなかった……。


 居たとしても、わたしとは反りが合わない。

 稚拙、妥協、「出来ない! 無理!」と文句を言う。

 憧れを汚されていくようでぶちギレた。


 ペア、アイスダンスはこの国では底レベル……。だからシングルをやるべきだと……。


 わたしはパートナーを得られないまま、シングルで続ける事にした。学芸会のダンスをしたい訳じゃない。発表会がしたい訳ではないのだから。

 

 相手がお子ちゃますぎるのよね。


 わたしはシングルで実力をつけた。

 ジュニアとはいえハイレベルな世界大会で優勝出来るくらいに。


 その試合、わたしは張り切っていた。忙しい両親がそろって応援に来てくれたから。


 問題が起こったのはキス&クライに戻った時、足に違和感を感じた。

 わたしにくだされた結果は、シングル選手として再起不能という診断だった。

 シニアにいって、試合後のエキシビション、○○ オン アイス―― そういった場所で滑られる、参加出来る様な選手になって母の生演奏で滑るのが、わたしが思い描いた未来図の一ページだった。

 その未来が音を立て壊れた瞬間だった。


 よく学び、よく遊び、よく練習に励んだ。そんなわたしにはこれまで、男子との甘酸っぱいトキメキイベントも無かった。あと……友達も少なかったわたしには、入院中に会いに来る人もいない。

 だから唯一の親友、日向ひなたが持って来てくれた携帯ゲームの乙女ゲーで、トキメキ成分を充電……。


 もちろん二次元と現実の区別は確りとしています。しているからこそ現実の男子に魅力を感じなかったりするのですよ。

 おわかり? とどこかの海賊船長の様に言ってみたり。


 リハビリ凄く痛い……。身体をストレッチ……。乙女ゲーム。

 けれどちょっとした時間の隙間にふと頭に過るのは、母の生演奏で滑れなくなったという悔い。


 それでも諦められないわたしは、辛いリハビリに耐えてリンクに復帰した。


 氷の感触、滑る感覚とリズムを取り戻すべく氷に乗る。

 初めて氷に乗った時の怖さや、スケート靴のブレードの頼りなさに脚が震える。

 そんなスケートを始めた頃の思いを置き忘れていた事さえ忘れていた事に、小さく笑みがこぼれてしまった。


 ……それでも解る。もう二度と四回転トウループは飛べないという事を。


           :

           :

           :

           :


 アイスダンスで復帰。散々な結果で終わったシーズン、美女と出逢い獣人は真実の愛を知る、というお話を演じたが、見ている者達には『美女と案山子』に見えたという。つまり、”男子に華が無い”という事。この評価にわたしは立ち眩む。


 この評価と醜態。羞恥で凹んだパートナーとのペアを解散……。


 お嬢様とストーカー熊さん。お嬢様が落としたイヤリングを拾い、お嬢様の匂いを嗅ぎ、逃げるお嬢様を執拗に追いかける熊。そんな風に見えなかっただけマシだと思うんだけど?


 そして冬は過ぎ、春休み。

 コンサートツアーから一時帰国するという両親を迎えに空港へ。


 そして感動の再開。出迎えた愛娘に対して両親そろって驚愕の表情を浮かべたまま固まる。


「そ、そそそそ奏那、一体何があったのっ!?」


「あ、あの試合の所為か? どういった心境の変化なんだ!?」


 遠矢 瑠花(るか)は混乱した。

 遠矢 拓麻(たくま)は混乱した。


 混乱した二人は何もかも投げ出して、わたしの顔や髪、身体に触れて自分の娘か確かめる。


 身体は母が触れていた。流石に父は自重した。


 理性が残っていて良かったわ。


「グレた……我が家の天使が……」


「し、しばらく日本に居ましょう、拓麻さん。確りしているとはいえ、年頃だものね。不安とか悩みとかあるのに側に居られなくてごめんね、奏那……」


「そうだな、瑠花。仕事をセーブして、先ずはツアーのぎゃ――」


 狼狽する両親に落ち着けと、手刀を脳天に降り下ろす。

 世界的に有名な指揮者とバイオリニストに手刀を降り下ろせるのはわたしくらいだろう。


「ただの気分転換だって!」


 公衆の面前で恥ずかしい……。顔から火が出そう……。

 う~ん。そんな衝撃的? そんなに驚かれる格好じゃないと思うけど……。


 わたしの今日のファッションは普通だと思う。

 黒いストレートカジュアルの髪をバッサリと切り、セミロングのハニーピンクに染め、ゆるふわカールの髪を右側だけに耳より2~3センチ高い位置でサイドテールに纏め、春物の白のニットTシャツは胸元が開いていてセクシーさを演出。

 黒のジーンズ生地のホットパンツ。編み上げの黒のニーハイブーツ。ちなみに踵が高くないタイプ。踵が無駄に高いと急な動きが出来ない。


「ま、まあ良い……ホントは良くないが……。肌を焼かなかっただけ良い……はずだ」


「そうねナチュラルメイクだし。素が良いのだから余計な物は必要ないわ」


「ああいうのは、ね……趣味じゃない」


「そのままの奏那の方が素敵よ。ところでお昼は?」


「まだだけど?」


 二人とも機内食食べている筈だけど……。


「それじゃあ早速行きましょうか」


「そうだな」


「奏那は何が食べたい?」」


 わたしを一番に考えてくれている。確かに直接は会えないけど、ネットやメールでやり取りはしているけど、わたしは両親の腕に自身の腕を絡め、歩き出す。


「焼き肉!!」


 たまにはこうやって触れ合うのも大切だよね!

 なんとなく二人が苦笑しているのがわかる。

 女の子らしく無いと絶対に思われてる。

 けど、いちいちナイフ、フォークを持ってちまちま食べるより、思いっきり食べる方がすきだ。


 パスタよりラーメン。お皿で出てくるヒレ肉より焼き肉。


           :

           :


 ちょっとした高級焼き肉店。

 特上カルビを焼きながら母が言った。


「奏那。好きな格好、そういった格好をするのなら姿勢よく、スタイリッシュに振る舞ないとダメよ。そうじゃないと『人を外見で判断するな』と反論を言う事は許されなくなる。資格は無いわ」


「勿論、勉強も疎かにしてはいけないよ」


「それらは自分の正しさや、自分自身を他者の意見に流されずに自分で判断出来る様に、そしてそれらの知識はわたしを守る、でしょ。解ってる」


 

 理解しているのなら良い。と二人は微笑む。


 その後、生活やスケートの事を話し、美味しいお肉を頂いた。


 自宅へと帰って来て、わたしと母は一緒にお風呂に入り、一緒に眠った。

 

 ほんの一時滞在して家族団欒を満喫して、両親がツアーに戻る日、わたしは庭に咲く桃の花の下で家族写真を撮った。


 また来年も、と約束したんだけどな……これが最後の写真になるなんて……。

 この時のわたしは最期の瞬間迄、この約束が守られる事を信じて疑わなかった。


 

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