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青き薔薇の公爵令嬢  作者: 暁 白花
メモリー
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歓迎式典ーセシリアー

「では、最後にご用意致しましたスイーツをお召し上がり下さいませ」


 そうして出されたのはガラスの器に盛られたクリーム色の氷菓。


「氷菓ね。しかし私たちの知っている氷菓とは違うわね。何よりこの芳醇な香りは何かしら?」


 ヴァニラを使った氷菓。魅惑的なヴァニラの香りに女性たちが一瞬で虜になった。


「この氷菓は乳牛のミルクと、とある国の女王陛下をも虜にし、女王陛下の元、その国が保護し独占をすると云われるヴァニラという植物から抽出した香料を使用しております。これは香水にも使用する事が出来ます」


 この甘やかな香りを纏いたい、異性を虜にしたい、または異国の女王が纏うと聞いて希少価値に女性が色めき立つ。


「皇太后様、皇后陛下、賢妃、徳妃、貴妃、淑妃の四妃様に献上致します。希少故に側妃の皆様に献上出来なかったこと申し訳御座いません」


「良い、それ程までに希少な物なのだ。セージよ、ハーティリアは良く手に入れることが出来たな」


「我が領地には港町があり、我が領地に拠点を置く、ハーティリア御用達の商会が運良くヴァニラを仕入れる事が出来ました故に、ハーティリア家に最初に持ち込まれたのを買い取らせて頂きました」


 皇帝陛下と旦那様の質疑応答の間に皆ヴァニラ・アイスを口にする。


 私も匙で掬い一口、口の内に広がり、溢れる、甘く芳醇な香り。この為に調整されたミルク。それがヴァニラと合わさり膨れ上がり、鼻腔に到り、鼻から抜けていく。


 どんな言葉を尽くしても表せない甘く冷たい心地よさ。その香りはまさに天上の調べ。異国の女王陛下が独占したというのが良く理解できた。


 ――これは、戦になるわね。


 他所を見てみれば言葉を失う貴族たちが在った。


 彼らは流行りを司る者を自負し、様々な高価な書物、絵画、詩歌、楽器、お茶に花、ドレスに装飾品。そして香水を手に入れ発信じまんしてきた。


 故に理解した。理解させられた。この香りは、今まで手に入れてきたもの総て合わせても勝てないと。価値など無い、と。


「あぁ……もう無いなった……」


 獣の乳などと忌避していた貴族たちは、ついに耐えきれ無くなり、物欲しそうに、得も言われぬ快感に酔いしれて言葉を漏らす。


 そうして女性たちは伴侶を見つめ、婚約者を見つめ、親を見つめて、手に入れろと圧をかける。


「この氷菓を食せない、か」


「はい。どうしても入手しようとお考えならば、やはり原産国へ使節団を送り、友好――国交を結び、輸入するしか方法は御座いません」


「フム……して、その国は何処に在るのだ」


「海を越えた遥か南方の国だと」


 陛下が渋い顔をする。商人に対して権力を振りかざすことが出来ないからだ。

 利がない、理がない国から出てしまえば良いし、そうなると悪い噂が流れ、ローゼンクォーツ皇国から商人が離れ、また新たな者も入ってこなくなる。


 陛下に対して侵略戦争仕掛けられるなら仕掛けてみよ、という挑発と警告だ。疲弊に遭難、沈没事故。それに軍馬や武器や兵の運搬をどう解決してみせるのだと。


 皇后陛下――アネモネ后が是非に出兵を、と訴えているけれど――


「その国までの海図がありません。当然言葉も風習も違います。たとえ辿り着いたとしても、まともな交渉など出来ないでしょう。もし、横柄な態度や挑発的行為と取られれば、遣わされた者たちは殺められてしまいます。否、それ以前に船団の何隻がまともに異国の地へと着けるのか。人的、物的損害を考えれば、派遣など無謀極まりありません」


「……地図、海図は秘中の秘よな……」


「……はい」


「あい、解った」


 陛下がアネモネ后の無言の訴えを拒否した事によって、他の女性の圧をも退けた。


 拒否された形の皇后陛下を含め女性たちは落胆した。


 ――譲れ、もしくは商会を紹介してくれと言ってくるわね。楽して手に入れようとするものばかり。それなら譲れと言ってくる可能性が大きいか……。

 

「ハーティリア殿これは……?」


「日輪国への贈り物、使節団の皆様への贈り物の目録です。帰国の際にお渡し致します」


「心遣い、我が国の帝に代わり感謝いたします」


 晩餐会は成功に終わった。


 ドレス、菓子、香水。その三つの話題を作れた。あとは巷に流れて行くだけ。


 私は女の戦場で優位にたったことになる。そしてそれを贈った旦那様の存在も大きくなった。


 インペルーニアの勢いを多少は削れたはず。皇后陛下が国の母が流行遅れのドレスを身に纏う事は出来ない。


 ――皇家の伝統を取り入れたドレスになるだろうけれど、次の流行まで厭々着ることになるのでしょうね。


 それはどれほど心の負担になるのだろうか。


 ――着せられる度に発狂しそうね。


 そして周囲にきつく当たるのだろう。


 ――目を入れて、当たられた者を保護しなければいけないわね。


 そうでなければ世話係の首が飛んでしまう。


 ――早く領地に帰りたいわね。

一応、此れで式典の様子は終わりです。


以前、執筆中に飛ばしたのは長くなりそうだったのと、執筆が少し苦しくなって来ていた時期でもあり、式典の様子からソーナの話へと移った次第です。


2018年から4年経って式典の話をようやく終わらせる事が出来ました。


あらためて読者の皆様、お読み頂きありがとうございます。

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