Blue Momentー瑠璃色の夜明けを薔薇色に染めて
夜の街―― 滅びた都―― 聖地―― 様々な呼び方はあるけれど、最も適している言葉は観光地だ。
どんな悲劇なことがあっても商魂逞しいというか、その地の活性化―― 経済を回すには使えるものは、何であろうと利用しなければならない。
その為の大義名分は『悲劇を後世に伝える』だ。
早足で貧民区の家の屋根を歩きながら下を見る。
座り込み上の空の者。
安酒場で安酒を立ち飲みする者。
彼らは夢を見ている。かつて栄華を極めた“薔薇の都”という終わらない夢を。
たとえ、それが砂上の楼閣であったとしても、平和で掌に収まるほどの幸せがあれば彼らは良かったのだ。
家族、想い人、親しい者たちと笑いあえて、愛を囁き合い、仕事をして、お腹を満たす食事と寝床。その日々を守れればそれで良かったのだ。それが市井に暮らす彼らの営みなのだから。
その土台――砂を少しずつ削った者たちがいた。
「オレはよぉ! 期待してたんだぜ……こんちくしょう……」
「飲み過ぎだぞゲオリク!」
「うっせぇやい! これが飲まずにいられっかってんだ!!」
「ゲオリク。お前が言いたいことは十分に理解出来る。私とて期待した一人だったのだからな」
「そうだ……。だったら解っだろう? 聖女様とアルフォンス皇子ならば――」
「それに騎士団の団長の息子に、魔法の優れた公爵の御子息様、天上の歌声の楽士に、魔導士という心強い絆で結ばれた方々が脇を固めていた……。だから――」
――彼らが逃げ出した時は裏切られた気持ちで一杯だったんだろうね。
だけど、それが彼らの選んだ道なのだ。
――マッズイエール飲んで酔っぱらって愚痴言って今さら悔やんでも遅いのよ。
夜闇を駆けながら、内心で舌を出す。
――っと、目的地ね。
私は身を低くして様子を探る。




