Blue Momentー瑠璃色の夜明けを薔薇色に染めて
『これは大聖女ソーナ様が兵たちの士気を上げるために振った聖なる旗だと云われています。このように旗棒しか遺されていません。旗の部分は残念なことに〈深淵の大罪〉の大火炎玉を受けた時に、大聖女様、と両軍の兵と多くの人々の身代わりになるように燃え尽きてしまいました』
――どう見たって旗の旗棒には見えないんだけど?
お姉さんさんの説明に訝しむわたしは改めて、玉座の座る部分に突き立つ旗棒を観察する。
精緻な模様が施されている。旗の棒にしては形も変わっている。
――これ、槍だ。
槍にしても少し石突も変わっている。
――ん~……本当に槍?
〈ただの旗なんてあの娘が持つ筈無いでしょ? 歴史家ってのは馬鹿なの?〉
――じゃあこれは何だっていうの?
〈『アルテミス』の矢よ。時には短槍として使ってはいたけれどね。だから聖なる矢であり、聖なる槍でもあるのよ。もっぱら矢として放っていたけれどね〉
――旗として使われてたのって……。
〈あんたの父親とか、あの娘のガーディアンとかが前線に立たせないようにするためでしょう〉
こと、お母様はショーギとチェスが弱かったと、みんなが言っていた。
兵が居なければ逃げ回るしか無い弱い王。王妃を自分の前に出す王。『まるでアルフォンスみたいじゃない?』らしい。
『大聖女ソーナ様と聖なる御力が無ければ、皆さんのお爺様やお父様、年の離れたお兄様は亡くなっていたかも知れないのです。そして、ローゼンクォーツ皇国の民をご両親に持つ方も……御覧の通り、街や山も川も森も消し飛ばした力によって為す術なく焼滅させられて居たでしょう……』
ズキンズキンと頭が痛み出した。
『エクレール。愛しい私の娘』
――っ!? 今のは何!? お母様……?
私を腕に抱くお母様。何故か強く、離したくない、離れたくないという気持ちが伝わってくる。
――違う。身体が覚えてるんだ。
儚げで優しい目。頭を優しく撫でてくれた。それは、それはまるで今生の別離を、最期の時を少しでも遅らせようとするかのようだ。時に、運命に抗うような。
『あさきゆめみし――』
――子守唄?
「エクレールちゃん! エクレールちゃんってば!!」
ユッサユッサ、ガックンガックンと揺さぶられてわたしは現実へと意識を戻した。
「タ、ターニア。ストップ! ストップ! プリーズゥ~!!」
「もう、さっきから聞いてるのに~」
「えっと……?」
「ターニアさんが、あの聖なる旗の棒を本当に旗だったのかしらって」
「ありがとう。美玲。えっとターニア、あれ旗の棒しゃなくて、本当は聖なる矢らしいよ」
「えっ!? 本当に!! 凄い!!」
「流石、ソーナ様の娘ってところね」
「まぁ、ね」
わたしは二人に気付かれないように頬に触れた。
静かな微笑みを浮かべたお母様が流した涙が、わたしの頬を濡らしたのだ。
それが思い出したお母様との最期の記憶。
――そこに至るまで何があって起こったのか調べて確かめないと。そのためにこの地に来たんだ。




