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青き薔薇の公爵令嬢  作者: 暁 白花
Beginning
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壁立千仞に臨む2

「は、はい……貧民街の者達を雇い、本格的にお米を作りたく思っております」


「農夫ではいかんのか?」


「はい。人材の発掘と招聘、この場合は発掘が必要であり、急務かと私は存じます」


「して、そのこころは?」


「はい。『人は城、人は石垣、人は掘り、情けは見方、仇は敵なり』とも申します。国―― ハーティリア公爵領の事ですが、それはこの邸でも領外壁でも掘りでは無く、人の力です」


 『四つ割菱』『武田菱』や『風林火山』の旗でも有名な武田信玄の言葉なのよね。


「働き手を無駄にしているか……。ソーナ、お前が言っている事は、代々の当主が疎かにしていた、と言っている様な者だという事は理解しているのか?」


 私に向けてくるお父様の眼光が鋭くなっていく。


「はい」


「「「…………」」」


「お、お姉様、さすがにそれは……」


 控えている執事や侍従達の敵意も伝わってくる。


 流石にシアンも片眉をピクリと上げて「駄目でございます。減点です」と渋い表情を見せる。


「強力な魔力と魔法で解決。その為に人材が育っていない。では、魔法士の恩恵を受けられない村はどうなるのかしら? 彼等に待ち受けるのは、いつ訪れるかも分からない魔法士を待ち続けて、飢える道しか無いのよ? それなのに徴税は行われる。そうすれば彼等はますます飢えていく。まさに飼い主が世話をしないと生きていけない。それが怠慢だと言わずに何と言うのでしょうか」


「…………」


 レナスが自身の掌を見詰める。

 淡い輝きが揺らいでいる。魔力だ。


「魔法士が土地の生命力を無理矢理に引き出す所為で、その土地の生命が枯れていくのよ。そうなったらただの人間は飢えて死ぬわ。では土地の生命力の回復方法は? それこそ魔法士・魔導士が生み出した歪みなのよ」


「私達に流れる魔力……で形にしているのではないのですか?」


「井戸から汲み上げる水、その水源が枯れてしまえば水が出なくなるのは当然でしょう?」


 そうは、言ったものの魔法に頼らざるを得なかった背景も理由も解らなくもないのだけれど……。


「だけど、魔法士・魔導士だけの所為だけではなく、魔力を持たない者が研究をして技術に至る術を見付ける事もせず、魔法士・魔導士に頼り過ぎた所為でもあるのだけれど、ね。これもれっきとした真実。魔法は便利だもの」


 魔法詠唱→大地に触れる→作物が一瞬で育つ。そこには畑の土作りや、その為の準備を整えるという工程が無い。


「インペルーニア侯爵領は小麦の種を、ハーティリア公爵領は稲種を……。麦ならば技術はあったのだがな……」


 当時の政策として、皇帝がそう判断を下したという歴史的背景がある。農作が駄目でもハーティリアには海があるだろう? という事だ。

 ハーティリアにも麦はある。パンも作られている。だが、インペルーニアのパンよりつまらない(・・・・・)


「ソーナ、米の収穫はいまいちだ。貧民街の者を雇う、しかし収支が――いや、むしろ此方の利益がなければならんのだ。それは理解しておろうな」


「勿論です。お父様」


 ハーティリアにはご飯に合う海の幸も山の幸もある。それを最大限活かせば、貧民街の者を雇っても元はとれる。


「ソーナが様々な本を読んでいるのは知っていたけれど、貴女には考えがあるのね?」


「はい。お母様」


「言ってみなさい」


 私は力強く頷く。


「一度、お祖父様に米作りの視察に連れて行っていただいた時に思ったのです。何故種籾を適当に撒くのか、と」


「それが普通では無いのですか? お姉様」


「ねえ、レナス。この邸の庭園の薔薇や木々、花々は陽当たりや風通し、環境を考えられて庭師の方が剪定しているわよね。だから薔薇の庭園は美しいのよ。お米も種籾の時点で環境を整えれば良くなるのではと、考えました」


 お祖父様、お父様、お母様は私の考えをどう扱うか、どう農民に説明するか話し合っている。

 今の私にはお祖父様とお父様の支援が必要不可欠。お母様が話し合いに加わっているのは、魔法が使えない私が見出だした道を後押しする為。


 米作りには幾つかの工程がある。

 しかし――


(――次に説明するのは『ホトケノザ』。……どうしようかしらね。やはり”聖人”で例えるべきかしら……)


 米作りを始めるのなら、早い方が良い。しかし――


(――しかし、六歳の私が――だけではなく、自ら先頭に立って新しい制度を導入する事程、実行するのは難しい。その上、成功するかどうかも判断がつかない。実施したとして、今よりお米が収穫出来なくて、食料不足に陥る危険性を伴うのも明らか……)


 失敗すれば―― いや提案した瞬間に旧制度の利益を享受していた人々が敵になる……。しかし、新制度の受益者と成る人々は味方として頼むに足らない……。


(しかも手を出すのは生活、活動の源である農業。稲作だけではなく、他も改善したい……。したいけれど……欲は駄目ね)

 

「農業生産力こそが国力なのに……」


 軍や騎士もギリギリだ。それでは力も出ずに力負けしてしまう。健康な身体としっかりとした身体作りがあってこその『富国強兵』を実現出来る。


 本当に二月の下旬までに育苗の必要性を理解させて、苗代の準備に取り掛からなければならない。

 もし、この国が魔法文明では無く、機械文明ならば『育稲箱』で育てるのだけど。


(まずは『やって見せて、言って聞かせて、させてみせて、褒めてやらねば人は動かず』よね」


 今までの伝統を壊すのだから、話し合いは大切。相手にも思うところもある。それに耳を傾けて、守り伝えられた事、伝えて来た人達を認めた上で、私の考えと、今までの方法を行い、やらせて、任せて、結果を見せなければ人は育たない。


 そしてそれをちゃんと見て、感謝し見守り、出来ると信頼しなければ人は実らないわ。


「まあ! ソーナ。そこまでちゃんと考えていたのね! 素晴らしいわ! 新しい事も、技術も大切よ。だけど今までやって来た事も捨てられないのも人の心情よ。お義父様、アナタ、ここまで考えられている娘の将来の為、機を与えてくださりませんか」


「やらせてみるのも一興か……。セージ」


「……同い歳の娘が欲しがる様なドレスなどより、本を強請る変わった娘だと思っていたが……、立派に己の知識としているのだな……」


「え? あの……」


 考えていた事を口に出していた様で、三人の意見が私のお米革命に積極的に協力して下さる事に決まった。


 だけどお父様……何も泣かなくとも……。


「お姉様……素敵です……」


「フフ、ありがとうレナス」


 でも、その尊敬でキラキラと輝く瞳が心が痛い。

 元々、教育論としては有名な言葉だけれど、元は『して見せて、言って聞かせて、させてみる』から影響を受けている、とされている。


 私が先に述べた事を残した元帥海軍大将は賛否両論がある。

 統率力は申し分無く立派だが、戦術・作戦は落第……等と評されている。

 司令長官や大将と言った資質よりも、軍政家向きだと言われている。


 多くは語るまい。


 ――閑話休題。


「お米の価値が低い内に、この『七草粥』で栄養を着けさせて雇うのね?」


「はい。まずは清潔さが必要です。彼等の清潔さ、貧民街を含めた街の清潔さが大切です。清掃、美化の意識を高めましょう。働いた者には先ず食です。給金はその後です」


「ふむ、今でも綺麗だと思うが」


「足りません! 隅々まで綺麗にしてこそ、ハーティリア領を訪れる者に気持ち良く、快適に過ごして貰う事が出来るのです。美しい街なのですから、更に美しくなれば他領地と比較する者も出てくる筈です。それは領の信用にも成る筈です」


 前世でも海外旅行の時は切実な問題だった。落書きにゴミ、トイレ……。トイレマップなんてのもあったくらいだ。


「申し訳御座いません……」


「謝ることではあるまい。他は何がある?」


「はい、伝染病の拡散を阻止出来るかもしれません」


 お父様達は、そちらの対策も立てねば、と重々しく頷いた。



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