Interlude ー異界ー
ライラが見たという闇の魔モノが顕れ、消えたという子供たちの遊び場となっている河原に来ていた。
河原の奥には苔むす森。
木々とその葉や蔦、根、苔に覆われてぽっかりと口を開け覗かせる洞穴が在り、祠はこの洞穴の中に在った。
「どうやら洞穴の中は異界へと繋がっていたようですね」
「死の気配が濃い。死の臭いで満ちているな」
前衛のサラとランが周囲を警戒しながら呟いた。
「アレか……」
「そうでしょうね」
首を巡らせて観察していた二人の視線が一つの場所で固定された。
私は―― 私だけではなくリザとライラが二人の視線を追うと、そこには図形が刻まれていた。
「精霊文字……。それも私たち精霊種族が使っている文字よりも古い。もしかすると源種……もしくは精霊そのものが使っていた文字ではないかしら……」
精霊種族は寿命がとにかく永い。サラ曰く人間の年齢で言えば十八、九歳だけど精霊種族――アールヴの年齢から見ればまだまだ生まれたばかりの赤子ということらしい。
そんなアールヴのサラが見たこともないならば彼女の言ったことも然もありなん。
――それにしても精霊文字かぁ……。
さて、これをどうとらえるべきなのかを考える。
一つ、この地にはもともと精霊―― もしくは精霊種族が住んでいた土地だった。
一つ、精霊を崇拝する人間たちの土地だった。
一つ、共存していた。
――……。
私がランをジッと見ている気配に気付いたのか彼女と目が合う。
「……この近くの山に我らの郷は在るが、我々の種族―― 一族の系譜ではないな」
ランが私の内心を察してそう断言した。
私が考えたのはランたちの御先祖―― または始祖の土地ではなかったのかということだ。
「そう……」
私たちは奥へと進む。
ローゼンクォーツの始まりは侵略から始まり、土地を拡大していき、そして〈七つの大罪〉の出現と災禍によって住む土地を失い、新たな土地を求めて争い、支配し、滅ぼしてきた歴史がある。
この地はブラッドストーン侯爵領の一部だ。それならばブラッドストーンの血を引く者がランたちの一族―― 郷を滅ぼした歴史があるのかも知れないと私は思ってしまった。
血に塗れた歴史を忌避している訳ではないけれど、私は安堵してしまった。
ブラッドストーン家の書庫の本―― 歴史にも記されていなかった。
「あまり気に病む必要はない」
「ランの言う通りです。我が妹よ。人に滅ぼされなくとも魔物に滅ぼされることもあるのですから」
「“アールヴ喰らい”」
「ええ。その通りです。私の一族も何度も襲われ、多くの同胞を失い、各地をさすらい、住みかを見つけては失い、流浪し、時には迫害によって全滅しかけ、彷徨し、漸く我らを受け入れてくれる地に落ち着けた」
だから私が気に病む必要はないとサラは言う。
「それより、見てみなさい」
私は息を飲み言葉を失った。それはサラやサラサ―― 言ってしまえば人ならば誰もが言葉を失うはずだ。
――この扉が祠……なの?
それはギリシャ神殿のような形だった。そして門の彫刻が施されたペデイメントには――
「さっすが!! 貴族の中の貴族と謂われるハーティリア家のご息女だね。貴女」
――私を転生させたゴシックパンク(ゴスロリとパンクファッション)の小悪魔がいた。




