Interludeー『Blue Moment』ってもしかして……ー
「あ、待ちなさい。話の前に服を脱ぎなさい」
「え!?」
「ほら、さっさとしなさいな」
私は日向に近付く。
「いや、待って、あ、あの」
「一人で脱げないなら……ほら、大人しくジッとしていなさい。私が優しく脱がしてあげるから」
私は優しく甘く日向の耳許で囁く。脳を、思考を溶かすように。それと同時にブラウスのボタンを一つ外し――
「わわわわわわわかった! 脱ぐよ脱ぐ!! 一人で脱げるよ!!」
顔を真っ赤にして私から離れた。
「だって貴女、寒そうなのだもの。その服を脱いでベッドに上がってこれでも巻いて羽織ってなさいな」
私は硝子の柩ベッドからシーツを日向に渡す。シルクでは無いけれど何気に良い糸を使っている。恐らく糸を出す系の魔物だ。
「あ、ありがとう……ってソーナちゃん何をしてるの!?」
「何って何が?」
「い、いや、だって、それ、えっと卒塔婆のようなものだよね!?」
「でしょうね」
「でしょうねって駄目だよ。そんなことしたら」
そう、私は燃やせる物を集めている。
「暖をとるには必要ではないかしら?」
幸い鍾乳洞の中にありながら乾いている。たぶんあの森のどこかに在る魔力を帯びた木でも在るのだろう。
「だ、だからって……」
「何を呑気な。貴女が寒さで風邪をひく方が大変ではないかしら?」
「うう……でもぉ」
「よく考えなさいな。宝を探す者はこれくらいのことはやっているわよ?」
「でも……でも呪いとか罰があたるとか……」
日向が思い浮かべたのはきっとツタンカーメンの呪いとかではないだろうか。
「その根を断てば問題ないわよ」
そう、霊など呪いなど魂ごと消滅させれば良い。それが可能だからゴーストハンターが存在している。
「それって輪廻転生とか出来なくなるんじゃないの?」
「環に還る魂がないのだから当然よね」
「そっか……此方には此方の理があるんだもんね。助けられてる異邦人の私がとやかく言えない、か」
「それとは関係無いわよ」
「え?」
「そうしなければ冒険なんて出来ないじゃない? そんなことを気にしていたら探索も調査も発掘なんて出来ないじゃない。そんなことをいちいち気にしていたら冒険者なんてやっていられない。あっという間にスラム街の一つや二つ出来てしまうわよ。冒険者は一応資格はあるけれど、はっきり言って身元確認と少しの保証がされているだけよ?」
プロと言っても自称だ。国家資格ではない。ここでいうプロとはそれで身を立てられているかの一言に尽きる。
よく、虐めでふざけたり、格闘技ごっこで遊んでたって言い訳があり、それをテレビでやっているからという意見があった後、必ずプロの芸人だから、格闘家だから闘い方を知っていて、暴力とは違うとかツッコミで叩いたり、無茶振りしたり、イタズラドッキリしたりしても大丈夫的なことをいう人っていたけれど……。国家資格では無い。
スポーツ選手も声優もイラストレーターも漫画家もラノベ作家も職業と言える人は極僅か。
職業であって職業では無い。
――だって私がそうだったからね。
シングルでは難しいジャンプが飛べなくなった。ペア、アイスダンスで表彰台なんて絶望。夢や希望なんてない。勝たなければ意味がなかった。ただの趣味だ。そのうちバイトが主戦場になっていただろう。副業でフィギュアスケーター……。
閑話休題。
「だから、冒険者なら生き残るために利用できる物は何でも利用するわよ。まぁ、呪いや罰当たりなんて生き物殺して食べてるんだから、動物の祟りもありそうだけれどね。ああ、食中毒とかかしら?」
クスクスと笑う私に微妙な顔となる日向。
私は木を組んで火の屑魔石を火種にして火つけた。
†
†
「それじゃあ『Blue Moment』について聞かせてもらえないかしら?」
日向がこくりと頷く。
「『Blue Moment』っていうのは私の世界の乙女ゲームでね、ヒロインの主人公が攻略対象の男性と絆と愛を育むゲームなんだけれど、そのゲームのヒロインが貴女なの」
日向の説明によれば機種を変え幾つも同じストーリーのものを発売してきたが、面白みも新鮮味も無くなった『スターチスの指輪』だった。
だが、奏那が死んでからソーナ・ラピスラズリ・ハーティリアをヒロインにしたゲームの開発発表があり、最近発売になったという。
しかし、その内容はファンの予想をぶっちぎったアダルト方面へと突っ走っていたという。もちろん18禁指定のPCゲームだ。
攻略対象はガーディアンのラファーガとレイン、海王国の王太子サファリス、隣国の砂漠とオアシスの国の若き王アスラン。そして侍女のアリシア、アールヴのサラ、人狼のユナ、親友のミッチェル、エイミー、マイン、妹のレナスと百合展開もあり、という。
「……レナスもなのね」
少し遠い目になってしまう。
――それにしても何がどうしたら敵国の王に見初められる事態になるのよ?
「うん、お姉様大好きっ子だからね」
それでかたずけられるってどれだけコアなゲームなのよ……『Blue Moment』
「好きになった人がたまたま実の姉だっただけだよ。その人がその人だから好きになってしまったんだから仕方がないんだよ。うん」
実に良いストーリーだったと日向は感慨深げに呟く。
「主従関係のままいちゃラブ、逆転のいちゃラブ、互いに惚れたサファリスとソーナの溺愛いちゃラブ、政略だけどそれを利用して一目惚れのソーナを手に入れたアスラン、親友という枠を飛び越えた感情を抱いたり……」
日向が一旦言葉を止めて言った。
「バッドエンドはないんだけど、やっぱり18禁だけあって快楽堕ちエンドだったんだぁ。調教に監禁とかね。野外とかもあったりね」
あっけらかんと、その内容を言った。
――なにそれ、『スターチスの指輪』では、思いっきり残酷なバッドエンドを用意して殺しまくってくれたというのに。今度は快楽漬けかぁ……。生きてるし一応愛されエンドなのかしら? バブみの『スターチス』、ヤンデレの『ブルモメ』とか揶揄されそうな気がするのは私だけかしら? ん? でも……あれ、大抵誰かの為っていうのは自分の為だから……。メンヘラか!? どんなゲームよ!! 『Blue Moment』!! 溺愛に隠れた真実はヤンデレとメンヘラって!? ビックリよ!! 狂愛、共依存の色の強いゲーム……ちょっとプレイしてみたい。
これ以上考えると泥沼の底無し沼にはまりそうなので考えるのをやめた。
「え、えっと、それで貴女はどうしてこんなところで、その硝子の柩に寝かされていたの?」
何故か身震いをした日向が話題をふってくれたので乗ることにした。
――もともと説明する予定だったけれど助かった。
後ほど加筆と修正を致します。




