Interludeーぐだぐた討伐作戦とバブみとスタイルー
「あ、あの……ソージュお嬢様」
「なぁに?」
「ほ、本当にあのような方法でシコルノスキーと群れは現れるのでしょうか?」
私、信じられません!! と羞恥心で顔を朱に染めたリザが自らと同じ隊の女性陣やライラの気持ちを一つに纏めて疑問をぶつけてきた。
「ええ、必ず奴らなら食い付くわ。シコルノスキーが群れを率いて姿を現さず、潜んでいるのは待っていたからよ」
「待っていた、とは何をでしょうか」
「貴女たちを」
私はリザを脱がせた後、ライラの服を借りて二人に今回の作戦を伝えると、リザに部隊の女性にも協力を頼むように命じた。
リザがなんとか女性陣を説得して現在にいたる。
「私……たちを、ですか?」
「そう。だけど宮廷魔法士でも騎士団の部隊でも女性が派遣されればそれでよかったのよ。彼らにしてみれば、ね」
そう、都から派遣される丈夫で美しい強い魔力を持つ女性なら何だって良かったのだ。
「少なくとも男騎士、魔法士だけが派遣されるということはないわ」
助けてやるから一夜の相手をしろ、自分は栄えある騎士だ、とか宮廷魔法士、魔法貴族だと権力で相手の弱味につけこんで、女子供を犯す者がいるのだ。シコルノスキーはそれを知っている。
自身の種族の性状を利用し、村人の対応も念頭に入れて、都からの派遣を大人しく招き入れたのだから相当に知恵が回る。
「……なるほど……。お嬢様のような幼女にも騎士団や宮廷魔法士はその様に認識されてしまっているのですね。情けない。……それに一度派遣されたなら、対応しない限り帰還は許されず、散発的に姿を曝し、下っ端を狩らせてやればこの村に釘付けに出来る、と」
「そのとおりよ。魔力を持つ者の姿は完全な左右対象なのよ」
魔力を有する者は総じて容姿が整っている。
「左右対称は当たり前ではないのですか?」
「いいえ、違うわ。僅かなから左右非対称なのよ。魔法士はシンメトリーで美の黄金率を有しているのよ」
「よく、分かりませんが……」
「まあ、簡単に言えば強い魔力を持つ者は、割りと丈夫で美しい容姿を持ち、強い繁殖力を持つ魔モノの子を孕ませるには丁度良い母体となるということよ」
左右対称、黄金率は自然界の理。世界の理。魔法士とは小さな世界をその身体で顕しているのだ。
「容姿の好みはそれぞれだけれど、魔法士は取り敢えず美しい、ということを理解していればいいわ」
「……取り敢えず……ですか……何やら引っ掛かる言い方です」
「ええ。どんな綺麗な川も穢れれば澱む。醜くなる。悪臭を放つものよ」
私が言いたいことが理解出来たのかリザたちは押し黙る。
「しかし、お嬢様、理解出来たからと言って納得出来ないのですが!!」
それはそうよね。
「……着古したものなのでしょう? それにちゃんと新しい物を配布したじゃない?」
「た、確かに頂きましたとも。ですがそれが大問題なのですよ!!」
「何が問題なのかしら?」
「酷く心許ないんですよコレ!! あと、あまりにもひどい残念な作戦すぎませんか!?」
「大丈夫よ。クワガタを捕まえるには、好む匂いと蜜、餌を与えれば集まって来るのもの」
某アイドルの番組でやっていたもの。間違いないわ。
「おおおおお嬢様!? クワガタといえば炎を纏いアンフェールの底から顕れるという魔虫のことですか!!」
「そ、ソージュ様、どの様に捕まえるのですかっ!! 討伐がやり易くなります!! 是非とも御教授していただきたいのですが!!」
「ふぇっ!? あ、アンフェールから顕れるって? た、確かに土の中から出てくるけれど、そ、そんな大袈裟な虫ではないはずよ。せいぜいこのくらいが最大だったはずよ?」
リザたちの食い付きに私が驚かされた。
「お、お嬢様……あの……失礼ですが……それは、あの、カサカサ動く虫では?」
「え?」
「え?」
たぶんリザが言ったのはアイツだ。しかし、私とリザたちのクワガタに対する認識が違うみたいだ。
「あの、お嬢様……大変言いにくいのですが、クワガタは子供の背丈ほどの魔モノ―― アンフェールの使者なのです……」
リザのいうアンフェールとは地獄とか練獄とかだ。
虫全般が駄目な私には厳しい世界だ。一瞬気が遠くなった。
「だ、大丈夫。私にまかせなさい!!」
全然大丈夫じゃない。エンカウントしませんように!!
「お嬢様はとても聡明ではありますね。(その聡明さがときたま残念な方向に暴走しますが)」
「あら? 誉めてくれるのかしら? 嬉しいわ。ただ、聞こえない様に言ったことは水に流してあげるわ。ただし、二度目は防波堤も決壊するかも知れないから気を付けなさいな」
しまった、というリザの顔。私が読唇術が出来ることを思い出したようだ。
「のちほど謝罪と如何様な罰をも……。それより、お嬢様の軍服もエサにする必要があったのですか?」
「当然じゃないかしら? シコルノスキーやエロジカ種の中には私のような幼女の物を好むモノが存在するかも知れないもの。必ず飛び付くわ」
「はぁ……」
気の抜けた返事が返ってきた。
私が考えた作戦とはリザたち美少女、美女の匂いでシコルノスキーとその群れを誘い出すという策だ。
彼女たち自身を生け贄にさせたくはないから、彼女たちの匂いが染みこんだインナーに軍服を人形に着せて吊るしている。今は頭に見立てる為の饅頭作りの真っ最中。
饅頭とは生け贄に捧げられる人の―頭の代わりに、小麦を練って皮を作り、羊、牛の肉餡をくるんだ物を人の代わりに捧げたのが起源だとか。諸葛孔明の策を採用。
あとは桃の蜜漬け。
桃は古代祭祀で捧げられた供物。魔を祓う。桃源郷、“永遠”の果実。
知恵の果実みたいなものかしらね。
手を動かしながらも雑談に興じる。ただ私は饅頭ではなく餃子を作っている。食べたかったのだから許して欲しい。
日向にはお嬢様っぽくない、と言われる。洋食のイメージがあるのかも知れない。けど私は洋食のレストランとかカフェとかより、焼き肉やラーメン店、牛丼屋が良い。
こんなので良くジャンプを跳ぶ体型を維持出来るね、と羨ましがられたのも懐かしい思いでだ。
「考えても見なさい。この村に女子供がいないわけではないわ。ギルドにも女性職員はいるし、冒険者もいるのに襲って来ないのは何故かしら?」
「……」
「ただ単に飽きたからではないかしら?」
「……田舎娘の味に……ですか?」
「ええ。わざわざ都から呼び寄せる理由はそれしか考えられないじゃない」
「……ですが恥ずかしいのは消せません」
「安心なさいな。ここには貴女たちしかいないわ。あっちは陽動でしょうし、男性は雑魚に掛かりきりになるはず。此方が本命よ。あとは現れたシコルノスキーと側近の頭を射ち抜くだけの簡単な仕事よ」
「確実に仕留めますし、一撃必殺、その為に訓練してきましたから」
「では、何がなんでも不満なのかしら?」
さっきから何なのかしらね。せっかくみんなお揃いの軍服にしたというのに。
「もう一度言います!! 非常に心許ないんですよ、お嬢様が針子に作らせた下着とアンダーウェアとよばる衣装が!! 軍服のズボンもこのように脚の線がまるわかりではないですか!!」
この世界にストレッチパンツやアンダーウェアなんて製法も技術も無いけれど、魔モノの素材という都合の良いものがあるのよ。絹糸はハーティリアで蚕を養殖して作っている。
だったら身体を動かすことがお仕事の軍家のブラッドストーンでストレッチインナーやパンツを作っても良いだろうと思ったわけだ。
ハーティリアはファッションブランド、ブラッドストーンはスポーツブランドや仕事着専門のブランドと言ったところだ。
私が軍服の参考にしたのはゲームやアニメにもなった作品だ。
この世界の軍服は制服以外の活動服は動きやすいようにダボッとしている。
クラシカルなスポーツウェア―― ズボンなんかがそうだし、トビ職の方たちもそうだ。身体の可動域を拡げるためのユニフォームだった。
ストレッチ素材が出て、スポーツでは見なくなった。
「騎士団が何故、憧れられるのか、それは騎士団の鎧や剣が強そうだから男子は憧れ、女子は強くて頼りになり、制服になればきらびやかで格好良いから憧れてしまうの。その逆に軍部が野蛮だとか言われている理由はその逆だから」
格好良い鎧はない、軍のサーベルは無骨。陸軍は黒と深緑と階級に別れた制服、モスグリーンの戦闘服。海軍は白と紺と階級に別れている。戦闘服はオーシャンブルーとシンプルでダボッとしている。
「質実剛健といえば聞こえは良いけれど、その言葉に逃げてはいないかしら? 軍部の実力は確かよ。だけどそれは騎士団に対する一人一人の劣等感の表れよね? 質実剛健はそれを隠す言葉よね」
特に特戦遊撃隊は種族、貴族階級に拘らない、偏見がない者たちの集まりだ。それは現在の貴族のルールに馴染めない、疑問を持つ貴族である証だ。
それに彼女たちは背も高いし、骨格も確りとしている。弱竹のようでも嫋やかでもない。
生命力、活気に満ち溢れている。男に媚びない。
「針子も技術を研鑽して、独自性を生み出せれば、もっと可愛く、美しい衣装を作れるようになるわ。そうなればドレスだって今の流行りに縛られず模倣することなく自分に合ったドレスを仕立て、着られるようになるわ。
これも私が変えたいものの一つよ。貴女たちは見たかしら? 日輪国の使節団を歓待するための宴でのお母様のドレスとサクヤ妃のドレスを。あのドレスは他の者には似合わない、二人に合わせた一点もの」
「お母様は可愛いとは言われないわ。美しく華やかだと言われる。それは貴女たちも同じ、貴女たちは美しく、格好良い女性なのよ」
「無骨や骨太とかデカ女では無く……ですか?」
「格好良いは男性に使う言葉ではないのですか?」
「それはおかしな話ね。男性でも世の中には軟弱な殿方はいるわ。そんな殿方に魅力など感じますか?」
それが良いという女性もいるだろう。
――……ん? 待って。ヒロインに癒された『スターチスの指輪』の攻略キャラはみんな『バブみを感じてオギャりたい』人種だったのかしら?
やたら、癒された、とか、甘えることが出来た、とか、本当の自分に戻れた気がした、とか、抱き締めると心が安らぐんだ、ああ、俺(僕)は此処に帰るために生きてきたんだ……、とか言っていた訳だ。
――スチルでフォーリアに膝枕されている安らぎのシーンだったけれど……、此処ってもしかして子宮のことだったんじゃないかしら?
そうだ。構図は違ってもフォーリアのお腹に顔を擦り寄せているかのように描かれていた。
――あー……それは私でも駄目だなぁ……。そりゃあ悪役令嬢ソーナはヒロインに完敗するはずだ……。何をしてもバッドエンドルートしかないじゃない……。バブみ男子にどうしろっていうのよ。
敗因が判明して、何があってもバッドエンドしかないことに、心の中で両手と膝をついてガックリとなる。
いくらショタコンと判明した私でもバブみ男子は違う。心のショタは違う。それじゃない!!
――「母になってくれるかも知れない女性」だとか思っているってこと!? 聖女だからか!! なるほど聖女は何れ聖母になるからってこと!? ドン引きね!!
良くないけど、あとで考えよう。
「しかし、その軍服と貴女たちに合ったドレスを纏えば、女性から格好良いと憧れの対象になります。男装の麗人、御姉様と憧れる者たちがあらわれます」
「わ、私たちのような可愛いから……外れた女に……ですか?」
「ですが、それでは女だてらに、と言われませんか?」
「現れるわね。ですが、それは嫉妬です。負け惜しみです。家の言いなりとなり、子を産み家を守るのが女の努めという、外で活躍する女性への嫌味」
夫を支える、と決めたのなら良いけれど彼女たちは違うのよね。
「貴女たちに憧れる者が現れたなら、胸を張りなさい。何も負い目に感じるものなどない、引け目に感じることはない、と」
「いままで、似合わないドレスを当世の流行だからと言って無理矢理着させられて、パーティーやお茶会に招待されてはひそひそ話をされて嗤われて……親にも恥をかいたと言われて……」
辛かった、と哀しかったと涙する。
「それならそう言った者たちを見返しましょう。そうして美しくなった貴女たちに男は言い寄ってくるわ。そして思い知らせてやれば良いのよ。貴方たちが選ぶのではなく、此方に男を選ぶ権利があるのだと!! この私に貴方のような人間は相応しくない、と切り捨てることが出来るのだと!! 貴女たちを嗤った者たち全てに見せ付けたくは無いかしら?」
私の力説に、自分にそんな魅力がでるのか、あるのか、出来るのかとざわつく。みんな悔しい思いをしたり、させられてきたのだ。
彼女たちは女性として自信を失ってしまっていた。




