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Ⅲ
「私はあなたを殴らない……ただ、優しく包むだけ」
お母さんの抱擁みたいに。やわからく、抱きしめる。動きを止めた化け物に、私は抱きしめてあげる。
……おかえり。私。
……ただいま。私。
そして。
透明か不透明かもわからない、灰色をしたやけに輪郭のはっきりとした化け物は、その輪郭をしだいにぼやけさせ、そして……消えた。
真っ暗な工事現場に、空の星を彩る、色とりどりの星が舞った。まるで紙吹雪のように。この世界を、祝福するように。
なるほど……化け物を本当に倒すと、こうなるんだ。こんなにも……綺麗だとは。すべてが、浄化されるような。そんなことをぼんやりと考えながら。
私は地べたに、力なく倒れこんだ。
手のひらから腕まで、えぐるように真っ赤な血が残った。
……痛みとともに。
でも、どうしてか……安らかな痛みでもあるように感じた。




