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吉光里利の化け物殺し 第三話  作者: 由条仁史
第4章 里利以外の問題
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 化け物が現れたという情報が入ったので、たとえ喧嘩していても出動しなければならない。ギスギスしている車内。カノンちゃんは私にぴっとりとくっついていた。紗那はそんな光景にも何も言わなかった。いつもならうらやましいとか、私にもくっついておいでとか、言うのだけれど、さすがにこの状況じゃ無理だ。


 ジャックとルートさんは、互いに目も合わせず。顔もそっぽを向き、何も言わなかった。車内は凍り付いたような雰囲気。紗那とたまに目が合ったが、何を言うでもなく足元に視線を落とすだけだった。


 誰も、何も、言わない。


 場所は、少し離れた小学校の裏手にある、森の中。小学校のほうに向かうのを何とか阻止しているということらしい。車で、15分といったところ。結構遠い。まあ、私が来たんだから場所はこれから近くなっていくだけだと思うけれど。……って、そんな場合じゃない。移動している間にも、化け物は活動しているだろうから。……ルートさんの部下は、無事だろうか。


 そういえばさっき、ジャックが威張っているだけだと言っていたが、あれは何だったのだろうか……ルートさんにも、いろいろあるのだろうか? あまりそんな感じはしないが……印象は、いつものとおり恐ろしいヤクザの人だ。話せばわからない人ではないから最近はそこまで怖くも思っていなかったけれど。


 ……そう言われれば、そう思えてしまう。ヤクザって、自分の言うことを絶対だと思っていて、相手が何を言おうと自分を貫く人だろうから。

 その意味では、本来心配するべきなのはルートさんだったのかもしれない。ルートさんも、長い間化け物と関わってきたんだ。プライドがあるはずだ。私の横からポッと出てきたような説を、まともに取り合ってもらえるかどうか、考えるべきだった。


 ……取り合ってくれたみたいだけど。その意味では何か普通のヤクザとは違う気がする。でも、やっぱりルートさんも人間……自分を貫きたいと願っている。……ルートさんの見方が、この車内でかなり変わってしまった。

 そう思った。


「……私、どうすればいいのかなぁ」


 ぼそりと、言葉が口から出てしまった。慌てて口をふさぐが、もう遅い。


「……さとり?」


「ああ、いや……その……ごめん」


 声が少しずつ小さくなる。本当は自分がどう行動すればいいのかわからない旨を言おうとしたのだが、そんな言葉は出なかった。ジャックとルートさんのこのギスギスした関係の中、また話題を上げるなんてできなかった。火に油を注ぐことが好きな人なんか、いない。


 でも、本当にどうしよう。

 ……私個人としては、化け物を早く倒してしまいたい。そうして、日常を取り戻したい。でも……それでいいのだろうか。


 ジャックやルートさんだって、化け物に関わってきたのだ。私とは比べ物にならない期間。それを私個人の中で解決させて、本当に良いのだろうか。そりゃあ、化け物を本当に殺し切ることができたらとても嬉しいものだと思う。けれど、それじゃああまりにも……浮かばれない。

 これまでジャックやルートさんがやってきたことは何だったんだ。

 そう思ってしまう。


「…………」


 考えることが多すぎる。

 まさか私の過去との決別が、ジャックとルートさんの仲たがいを引き起こしてしまうとは。これでは、化け物を倒したとしても……意味はない。


 幸せになる人がいない。


 そう。化け物を倒して、幸せになる人なんていないんだ。皮肉な話ではあるけれど。もちろん、化け物が人間を襲うことは私としても嫌だ。けれど……私にとってそれは最低条件。化け物を回収すること。それは私が普通に戻るということなのだから。マイナスが、ゼロになるだけ。……決してプラスになるというわけではない。


 ……むしろ、増えた分、減るかもしれないという心配が付与される。そういう意味では――変わらない。プラスマイナス、ゼロ。紗那は私が戦う理由だと言っていた。それはつまり、私が幸せにならなければ幸せにならない。プラスマイナス、ゼロということ。


 ジャックとルートさんの場合はもっと致命的だ。ジャックはルートさんに衣食住の保証をもらっている。ルートさんに雇われているとも考えられる。その役目は、化け物退治……では、化け物がいなくなったらジャックはどうなる? ……考え込むことではない。解雇だ。ジャックはルートさんの庇護をうけることができなくなり、おそらく――路頭に迷う。どこかに就職するというのならともかく、ジャックは学校にも行かず、化け物のことばかり考えてきた人間だ……何ができるのか。探せばあるのかもしれないが、それはまた厳しい現実との戦いだ。ルートさんの傘の下にいるほうが楽なのだ。


 ……自由になるのが幸せなのかもしれないが、それだってどうするんだ。化け物を殺せたとして……そして、ジャックは何をする? 何を目的に生きていく? 私がジャックの何を知っているのかという話だが、ジャックは……これからどうするんだ?

 真の意味で、路頭に迷う。


 そして、ルートさん。ルートさんはジャックより背景が謎だから何とも言えないが……化け物を倒して、それでハッピーエンドで終わるようなことはないだろう。なんとなくそう思う。少なくとも、この状況では。ジャックと仲たがいをしたまま。プレイヤーズのみんなとギスギスした、何とも言えない状況を残したまま離れ離れになるのは……これはルートさんに限った話ではないが、誰も幸せにならない。

 心に何とも言えない気持ちを残したまま、それぞれの日常に帰っていく。


 ……じゃあ、どうする?


「…………」


 自分の手のひらを見つめる。

 この手で化け物を触れば、化け物は消滅するだろう。そうでなくても、私の中に戻ってくる……そう、思っている。触れるだけでいいのかと思ってしまうが、それ以外に方法が思い浮かばない。呪術的なことは分からない。化け物を生み出したときと逆のことをすればいいはずだ。逆のこと……それが、触れるということ。


 手放す。離れる。その逆ならば、近づく、つかみ取る。

 つまり触れるということ……なんて、本当はどうすればいいのかなんてわからない。でも、触れるのは第一条件だと思う。


 化け物に触れられれば、能力が芽生える。それは化け物の一部が入っているからではないか? だとすれば、その全部を手に入れることができればいいわけだ。


 ……でも、もとはと言えば、それを証明しようがないからこんな諍いが起こっているわけだ。私の言葉に、説得力がないからだ。ルートさんは納得しているのかもしれないけれど、ジャックは納得していない。化け物を倒すことにストイックなのはどちらも同じだ。だからおそらく……私のことを必要だと思っているか、否か。


 ルートさんにとって私は、ただの囮。化け物に殺されることを、少なくとも勘定に入れているのだろう。積極的にそうは思っていないだろうが……私に覚悟があるならば、それでも構わないのだろう。紗那に覚悟を示させたように、私も示せれば、何の問題もない。

 反して、ジャックは私のことをマスコットと表現した。付属物なのだろうが、大切に思っていることは確からしい。……展望台でああ言った手前、私を守らなければいけないと思ったのだろう。……それが、私の説に反対することでも。ルートさんと、衝突しても。もちろん、彼自身の哲学もあるのだろうが……。


 化け物に触れれば、おそらく化け物は倒せる。


 ……でも、それを、今やっても。

 誰も救われない。


 本当に倒せるか、保証もないのに。化け物が死ぬか、私が死ぬか。どちらにしても、誰も幸せにならない。


 化け物の倒し方は、分かった。けれど……倒せない。


 化け物を見つけても、私は遠くのほうから見ていることしかできなかった。

 化け物の色は、藍色。大して強くもなかった。

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