【トリックスター】ロキ
「ふわぁ〜……ねみぃ、 お、 このお茶うまい」
俺は、 ルルが淹れてくれた異世界のお茶を啜りながら、 ふぅ、 と一息付く。
「褒めてつかわす」
「あ、 ありがとうごさいます……」
いまいち褒め言葉としては嬉しくない言葉だな。 『褒めてつかわす』って。
俺達は、 無事に軍資金として1千万ベリル手に入れ、 今やプチセレブだ。
ヴァイスシティで1番高級な宿を借り、 一服 寛いでいた。
「……って違いますよっ!?」
「ん……? なんだなんだ? 何をそんなに……おいっ! わかったからティーカップを投げようとすんなっ!?」
息を荒げながら、 ティーカップを振り上げているルルは、 耳をピンと立てている。
獣種族は感情が昂ると毛並みが逆立つらしかった。
「どうしてそんなに平常でいられるんですか!? 勝負を申し込まれたのはあの魔王軍のロキなんですよ!?」
魔王軍。
どんだけ恐れられてんだよ。
「っつっても本職はカジノのオーナーだろ?」
「……え?」
なんだ? このケモ耳美少女は気づかなかったのか?
「魔王軍がこんな所で呑気に店開いてたら勇者にボコられんだろ? そもそも勝負っていってもボードゲームだろ?」
「そう! 1つ気になっていた事が……」
大体想像は付く。
「俺がなぜ勝ち続けられたのか……かな?」
「……は、 はい」
図星。
「簡単な話だ。 ……ココだよ」
俺は、 わざとらしく自らのこめかみを、 トントンと叩く。
「……ホクロですか?」
「知らんわ!? そもそも俺のこめかみにホクロがある事すら知らん! ……ちげぇよ、 頭だ」
「……?」
こいつ……。
1回川に流してみるか。
「何事も勝敗は情報量によって左右する。 例えばだ。 俺とルルがジャンケンするとしよう……、 ルルが勝つ確率は単純に1/3だな。 だが、 『俺の癖がグー』だと知っていたら……?」
「……100%」
「そう、 100%だ。 これは『俺の癖を知っていた』という情報を持っていたから勝てた。 ここまで言えばわかるか?」
しばらくルルは「う〜ん……」と唸ると、 ピコン! と耳を尖らせる。
何か閃いたのだろう。
「ディーラーの癖を知っていた!」
ずびし。
「……痛いっ! 何故真顔で水平チョップをっ!?」
涙目で頭をさすりながら問うてくるが、 それは置いといて……。
「アホか。 ディーラーとは初対面だ。 ましてやロキとは1戦もしてなかっただろ」
ルルの発言に対して指摘すると、 『あっ!』とあからさまに動揺した。
勝敗は情報量に比例する。
それが俺の考え方だ。
勿論勝敗には運もつきものだが、 何よりも必須なのは、 相手よりもどれだけ情報収集をしているか。
どれだけ正確な情報を持っているかだ。
「……俺の例えに依存し過ぎだ。 答えを言おう……。 勝負に使われていたのがトランプだったのがキモだ」
トランプ。
ボードゲームでは最早必須となるモノ。
「そして、 俺の知ってるトランプとほぼ一緒だったのも運だな」
数字は少し違うものの、 マーク何かもそのままだった。
「……そして何より、 イカサマ防止の為に『毎回新品のトランプを使用』っつールール、 これだな」
ロキが主催するあのカジノは、 イカサマ防止の為に、 使い回し禁止だった。 ワンゲーム終われば、 新しいカードを使う。
「……見てみろ」
俺がポーチから取り出したのは、 カジノで使われていたトランプと同じトランプの新品だ。
トランプを開封し、 取り出すと、 俺はルルに問題を出した。
「ルル、 一番上のカードを当ててみろ」
「……え、 え〜っと…………な、7?」
当てずっぽうで数字を口に出す。
「広告紙でしたー」
ピラリとめくると、 なんと書いてあるか読めないが、 おそらく遊び方説明だろうと思われる紙だった。
「ず、 ずるいですっ!」
これも、 毎回新品を使っていた時に1番上だけ最初に捨てていたのを確認していたからだ。
「冗談だ。はい、 次は?」
「8!」
「ハートのA」
再びめくったそのカードは、 確かにハートのAだった。
「な……なんでわかるんですかっ!?」
「だから言ったろ?情報だ」
俺は、 ルルにもわかるように簡単に説明した。
新品のトランプは、 大抵決まった並び方をしている。その上で、 ディーラーがシャッフルする際の癖、 やり方、 回数、 すべてを分析すれば、 自ずと1番上のカードが何かわかる。
これもすべて情報だ。
さらにロキは、 完璧なまでのパーフェクトシャッフルだった。
完璧過ぎて、 簡単だ。
パーフェクトシャッフルは交互にカードを挟んでいくシャッフルなので、 『カードを全て記憶している人間』にとっては、 イカサマもクソもない。
「シャッフルされたカードを……全て記憶しているのですか……っ?」
「記憶力模試全国1位をあまり舐めてもらっては困るっ!」
……おっと、 分からないか。
「よーするに、 天才って意味」
「……おぉっ!」
目をキラキラと輝かせながら、 俺を眺めているルルはほっといて、 寝よう。
「……あっ! 1つ言い忘れてましたけど……
もうこの世界には勇者は居ないです」
「……なんで?」
「皆魔王に殺されちゃったですね」
……俺、 魔王討伐とかやめようかな。