力の継承
とある天才が言った。
『天才とは、 99%の努力と、 1%の閃きだ』と。
しかしまた、 別の天才が言った。
「----真の天才は、 努力などしない。 99%の努力? それはもう努力家としか言えない。 1%の閃き? それはただの思いつき……マグレだと言ってもいいだろう……ここておじさんが説くのは、 『天才は100%の才能だ』と言う事さ」
そう、 真の天才を名乗る破壊神、 シヴァ。
今まで幾多の戦を行って来たものの、 敵から付けられた傷は一つもない。
そして驚くことに、 今まで1度も特訓すら行っていないそうだ。
「剣技なんか、 特訓しないと分からないだろ?」
純粋な疑問を俺は問いかける。
しかし、 そんの純粋な疑問すらも、 天才は哂う。
「剣技にも才能というものがあるだろ? どれだけ戦いたくても物事には向き不向きが存在するものさ……ただ、 戦いにおいておじさんに『向いている』だけなんだよ。 例えば……」
宿の一室をキョロキョロと見渡し、 恐らく上着を掛ける為のものと思われる棒の元へ歩み出す。
何をする気かと思いきや、 その棒から不規則に飛び出た突起物を手刀で全て切り落とし、 真ん中から一刀両断する。
おい、 これって器物損壊だろ。
そしてその一刀両断された片方を俺の方へ放り投げる。
「その棒でおじさんに一太刀入れてご覧。 勿論おじさんは動かないし、 目も瞑ろう」
そういって、 自分の頭上で横に持つ。
縦振りを受ける形になっているという訳だが……。
バカかこいつ。
俺は……『真剣』も持ってるんだぞ。
「あ、あるじッ----」
俺の行動を読んでのことか、 声を出そうとしたロキの口を封じ、 俺は腰から双剣の傍らを抜く。
『……ほぅ』
いつの間にか飯を喰い終わったニルヴは、 宙で黙って眺める。
「……じゃあ、 行くぞ!」
俺は一気に駆け出し、 一刀両断の気持ちで刃を振るう。
しかし、 その棒はしっかりと俺の一太刀を受けきった。
「嘘……だろ」
只の棒が刃を受けきれるものか。
「これが『恩恵』だよ」
スッと目を開けるシヴァ。
「あ」
ガッツリと真剣を手にした俺を見つめる。
「分かってたさ、 君が真剣を使うことすらね」
気持ちわりぃ、 ウインクすな。
「……言っとくが、 俺は戦闘に置いては『向いていない』としか言えねぇぞ?」
シヴァがあの戦闘を取り持った目的としては、 俺に何かを継承させたいらしいが……『恩恵』だろうか。
そもそも『恩恵』が継承出来るのかは定かではないのだが。
「ちなみにロキとニルヴは『恩恵』ってあるのか?」
ふと気になり、 俺は2人に疑問を投げかける。
「僕は2つの『恩恵』を授かってますよ……『即詠』と『魔導蓄積』という二種類です」
『即詠』というのは、 どうやら魔法を唱える際に必要とされる詠唱を、 無効する『恩恵』らしく、 『魔導蓄積』というのは、 魔力の蓄積量を大幅に向上させる『恩恵』らしい。
『うむ、 我は我がこの『力』こそ人間が言う『恩恵』だとおもうておる』
まぁ、 はね生えたりとかチートだろ。
「竜人種は例外です、 主。 彼女らは存在そのものすら『恩恵』に成りうる種です」
「……え、 じゃあニルヴって実は凄いやつ……?」
『実はとはなんじゃっ!!?』
「おじさんも初めてみたよ、 竜人種を従える人間は……はは、 そんな所も君の力という所だろう」
ずっとニルヴってただの変態幼女なんじゃないかと思ってた。
ごめん。
「……そろそろ本題に戻るけど、 恩恵の継承は何もそこまで難しいものじゃあないんだよ?」
こほん、 と一つ咳払いを入れ、 間を変える。
「因みに言っておくが、 おじさんは恩恵を複数持っている訳じゃないんだよ。 持っている恩恵は一つ『勝利』だよ」
なんじゃそのチート。
「……いらね」
「っなッ!? あ、主!?」
「バカか? 今から俺たちは裏切ったアイツをぶん殴りに行くんだぞ? それをチートでどうこうして気持ちよくなれる訳ねーだろ」
俺は裏切りやがったあのクソ猫耳をぶん殴りたいだけだ。
そんなチーターじゃあ、 俺の異世界ライフは楽しめねーだろーよ。




