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貴族と奴隷

「さてと……何するか」

オーディン不在時の為、 城に入ることが出来ずにいる俺達は、 行き場を失っていた。

「……てか、 オーディンがいつ帰ってくるのかって分かってる?」

『……』

「……」

ですよねーー。

すると、 突如ニルヴの腹部から『ぐぅ~』と、 可愛らしい音がなる。

『お腹すいたの』

「……そうだなぁ、 する事ないし飯食いに行くか?」

さて、そうと決まれば店探しだが……字が読めない俺にとってはどれがレストランなのかすら分かったもんじゃない。

「それならば、 僕にオススメのお店があります」

シュッと挙手するロキ。

そういえばロキは来たことあったんだっけ?

これは美味しい宿屋を紹介してくれる筈だ。

こうやって繁華街(?)を闊歩してみると、 そこそこに人は賑わっていた。 主には紳士服っぽいのを着ている貴族、 それと店主が基本だ。

……と。

「おいこら! お前、 今誰にぶつかったのかを理解しているのか!?」

「す、 すすすいません……っ!?」

男性の怒声と、 その声に怯える少女の声が辺りに響く。

しかし、 繁華街の人々はそれには目もくれずに作業を続けている。

まるで、 『いつもの事』の様に……。

「ロキ、 なんでみんな気にしてないんだ……?」

あるじのお察しの通りです……。 あれが、 いつもの事です」

その少女は、 一つにまとめてある髪を鷲掴みにされ、 頭部を振られている。

「……ああいった貴族には関わらない方が…………あれ、 あ、 主!?」

俺はロキの忠告を完全無視し、 でっぷりと太った貴族に近づく。

「おい、 豚ジジイ」

「ぶ、 豚ジジイだとっ!? き、貴様……だれに向かってそんな口の聞き方を……っ!?」

「テメェに決まってんだろ! 鏡見てみろ、 豚以外の何者でもねぇわ!」

俺は少女の髪を掴んでいる腕を蹴り上げ、 貴族の胸ぐらを掴みあげる。

「か弱い女の子に手ぇ上げてんじゃねぇよ」

「……き、貴族ァ……処刑だっ!!?」

デブ貴族の声を合図に、 辺りから次々とヴァルキリーが現れ出す。

「……っち、 ダリィなぁ」

「だから言ったでは無いですか!」

走ってロキとニルヴが近づいてくる。

『ふむ、 リョウらしいといえばリョウらしいの』

さてどうするか……。

恐らくこの世界に置いて、 ヴァルキリーは警察の様な立場に当たるだろう……。 そして、 それを動かす事の出来る貴族の権力。

厄介過ぎる。

ぶちのめす事も容易たやすいが……後が面倒だ。

『どうする、 リョウよ……ぶっ殺すか』

「物騒だなおい……」

「殺せ殺せ殺せ!!早うそのガキを殺せ!」

怒り狂った貴族は……、 言ってはならない事を口にした。

「おい、 デブ。 今、俺の事をなんつった……?」

「喧しいっ! 何をしておる! 早うそのガキを殺さんかっ!」

「ぶっ殺」

俺は久しぶりに足に『ブースト』魔法を掛け、 貴族との間合いを一瞬にして詰める。

「俺をガキ呼ばわりすんなっ!」

愛刀を抜刀し、 刃先を喉元に突きつける。

「……ふむ、 良くやる様だな、 少年」

しかし、 俺の一撃は見事遮られた……。

白服に身を包んだヴァルキリーによって、 俺の攻撃は無力と化した。

間合いを詰めた時には居なかった……つまり、 その後に行動し、 俺の攻撃を防いだ事となる。

「私の名は『レイゼール・イフ・シェアト』という。 ここの部隊の隊長を務めさせて頂いている」

防いだのは一本の槍。

しかしそれは、 他のヴァルキリーが用いているものとは程遠い程の神々しさを放っている。

「主、 離れてくださいっ!」

「……っ!?」

ロキの掛け声のお陰で正気を取り戻した俺は、 空かさず間合いを取った。

「あのヴァルキリーの服装、 あれば『白銀の翼』の証です」

「白銀の翼?」

『なんと、 まだおったのか……白銀の翼の人間が』

ロキによると、 いにしえに神々の護衛の為に作られた部隊らしく、 その一人一人には各々神器が与えられる。

「……つまり、 あの槍……グングニルか」

「はい……あのグングニルは『触れたモノの全てを犯す毒』の能力を持っています」

運良く俺の刀は風を纏っているので、 その効果は本体にまで反映されなかったようだが、 あれを刀身ででも受ければそれは腐り果てる……と。

「しかも使用する奴が隊長って……マジだりぃ」


こりゃ今まで通りには行かないだろうな……。

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