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魔王


ある意味……ヘルと一夜を過ごした訳だが。

「……あの野郎、 まさか一睡もさせずに喋らせるとは……」

結局、 ヘルのせいで俺は一睡も出来ずに目の下に隈を作っている。

前回のゲームで勝利した俺達には、 手を貸してくれるという条件付きで一晩付き合ったのだが、 どうも対価とは言い難い。

魔王討伐計画をヘルに話した時には、 馬鹿げてると言われたが、 俺の口振りと態度からやっとの思いで条件を飲み込んでもらえた。

「おはようございます、 あるじ

ヘルの家(見た目は最早もはや城)の門をでた直ぐには、 ロキが迎えに来てくれていた。

「おう、 サンキュー」

既に手配していたのであろう移動手段は、 馬の代わりに竜が引いてくれている車だ。

故に竜車りゅうしゃとだけ言っておこうか……。

しかし、 一つ気になる点があった。

「行きは飛んで来たけど……帰りは竜車で帰れるのか?」

「僕がこの竜達に飛翔魔法を掛けますので、 ご安心ください……。 行掛けにはパスポートのようなものが必要なので、 このような行動は出来なかったのです」

この世界でも他国へ行くには、 許可書が必要らしく、 その許可書なしに侵入し、 見つかってしまえば処刑らしい。

「……あれ、 じゃあ俺って結構危ないやつ?」

ヴァイスシティもラライヴシティも、 どちらとも許可書ナシに入った訳だが……。

「危うく殺されるトコだったんじゃん……」

魔王討伐どころではない話だ。

……そんな矢先。

ヘルクラウドの端の方から破壊音が鳴り響いた。

「な、 なんだ!?」

「い、 今の音はぁ?」

ぱたぱたと紫色の可愛らしいモコモコした寝巻きに包まれたヘルが、 慌てて城内から出てくる。

おいこら、 何寝ようとしてんだ。

破壊音と共に振動がここまで響いて来ている。

しかし、 それから続いての破壊音はなく、 不幸中の幸いにも落下はしていない。

「……下から、 攻撃された」

……下? 下からの攻撃だと、 相当な距離がある。

一体誰が。

「行けるか、 ロキ?」

「いつでも」

俺は、 ロキの合図と共に腰にある二対の刃を抜刀して、 一周振るう。

「舞え」

その一言で、 俺の背中には風により発生した翼が現れる。

ロキを一瞥いちべつすると、 既に飛翔魔法を掛け終えたらしく、 ふよふよと宙に浮いていた。

「ルルはどうしましょう」

今更気付いたが、 朝からルルの姿が見当たらない。

「ニルヴ?」

『どうしたのだ?』

俺の呼び掛けに反応し、 俺の影から姿を現すニルヴ。

どうも、 これも竜人種ファフニルの固有スキルらしく契約を交わした相手の影に潜むことが出来るらしい。

「ルルが何処にいるか分かるか?」

するとニルヴは、 自らのこめかみに指を差し、 くるくると小さく円を描きはじめる。

『むむむむぅ……呼吸、 心拍、 血圧からするに……』

「するに……?」


『寝ておる』


「よし、 みんな行くぞ!」

アホ一名を放っておき、 俺達はヘルクラウドから降下してゆく。

降下してすぐ、 一つ気づく。

ヘルクラウドは、 ゆっくりと移動しているので下の街は既にラライヴシティではない。

そして、 今すぐ真下に位置する街は……。

ほぼ壊滅状態だった。

トラック一台分程の大きさの魔物が闊歩うろうろし、 街を破壊していっている。

「なんだ……これ……?」

『酷い有様だな』

「まさかあの魔物は……」

ロキは、 一体の魔物に見覚えがあるのか、 そいつにゆっくりと近づいてゆく。

そして背後50m程まで近づき、 何かに確信したようだった。

「これは……魔王の仕業です」

まじか。

めちゃくちゃ魔王らしいことしてんじゃん。

俺は勇者らしいことしてないのに。

『危ないッ!』

突如、 ニルヴから背中を尾で押される。

そして、 俺の身体がさっきまであった場所を、 魔法が通過していった。

「……最悪ですね」

その攻撃を行った張本人は、 すぐ近くの場所にいた。

黒いフードローブを来ている3人組の女性だった。

一人は目を布で覆っており、 一人はマスクをつけていたり。 そして、 もう一人は両腕を縛られていたり……。

「狂戦士一族の長、 サザン一族の末裔です」

3人共髪は金色なので、 姉妹であろうことに想定はできる。

「ミサル、 キカサル、 イワサル」

ご丁寧に3人とも名乗ってくれた。



「この3人……陸上最強とまで言われています」

なんじゃそら。

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