チェックメイト
まず、 意味を良く知らない人の為に、 『チェック』と『チェックメイト』の違いを教えておこう。
『チェック』は、 王を討ち取る準備が整った事を意味する言葉であり、 『チェックメイト』は王を討ち取る準備を決行し、 それを成功させる前触れの事を意味するのだ。
つまり、 『チェック』は「討ち取るぞ?」という報告であり、 『チェックメイト』は「これでトドメだ」という勝利宣言に近い。
それを踏まえた上で。
そして俺は今一度言おう。
「ヘル、 俺達の準備は整った。 チェックメイトだ」
だがやはり、 勝利宣言された当の本人のヘルはというと……あっけらかんと言った顔で空を浮遊したままである。
「あっははっ! この状況下で言えるジョークじゃないでしょお? 」
確かに、 誰がどう見たってフリなのは俺達だろう。
最高の機動力をもったメンバーを退場させられ、 挙句の果てに射程距離は相手の方が広く、 逃げる暇はない。
しまいにゃ相手は二丁拳銃ときている。
恐らく射程距離が長い分、 弾速もあちらの方が速い。
どう考えてもこちらはフリ。
つまり相手……ヘルの方が有利。
「だから、 だよ」
そう言いながら、 牽制程度に一発放つが、 それは難なく避けられた。
有利な立場だということに気づいている人間は、 必ずと言っていい程までに油断する。
余裕を見せる事が命取りとなる。
「有利な立場を作った張本人程、 実際には弱ぇモンだぜ?」
くくく、 と俺は笑い、 引き金を引く。
------試合結果。
《《勝者、 ミミウ リョウ。》》
そして、 その日の夕方頃。
「そーいやぁ、 ニルヴと俺離れてたけどなんの支障も出てなかったぞ?」
ヘルにより、 最初に退場させられたニルヴは、 フィールドに干渉出来ない場所に隔離されていたらしいが……。
俺もニルヴも命に別状はない。
「それゎ、 特殊な秘術を編み込んで作った部屋だからぁ、 一切の魔力を切る事が出来るの! ……そんな事より…………」
ありがたくも説明してくれたヘルだが、 先程の試合以降からずっと頬を膨らましっぱなしだ。
まぁ、 無理もない。
「ちゃんと反撃の為にヘルだって撃ったのに! なんで! なんでなんで!!」
自分が負けた理由を未だに分からずにいたヘルが、 ぱたぱたと地団駄を踏む。
「しょうがない、 俺の作戦を教えてやろうじゃないか」
俺はドヤ顔で今回の作戦を教える----
「----その前に、 交渉だ。 ヘル、 このタウンに温泉はあるか?」
天空都市とまで言われているが、 何も建物だけが飛んでいる訳ではなく、 土台となっている部分はれっきとした土だ。
「あるのはあるけど……それが?」
「ふっ、 俺の背中を流せ」
キメ顔で言い放つ俺。
そして冷たい視線を送る少女。
ほら、 どうだい?
頭がヤバイ子の完成だよ。
「相当頭がキマってますね……」
ルルなんかドン引きだ。
当のヘルはと言うと……。
わなわなと手を震わせながら、 拳を握っていた。
「わ……わかったょ……」
蚊が飛びいるような音で放ったヘルは、 未だぷるぷると震えていた。
……え、 なに。 そんなにいや?
普通にショックなんだけど?
「主よ、 神にとっての裸の付き合いとは、 婚約の印を意味します」
「それを先に言えっ!! 危うく鬱病になって自殺仕掛けたわ!!」
そして俺は、 今回のゲームでの作戦をヘルに語る。
「あんたが作ったモンだから知ってたとは思うが……今回の作戦の肝、 それはルルの持っていた跳躍性をもつ銃、 それと、 情報だ」
「……確かに跳躍性のある銃はぁ、 一丁だけ作ってるけど……」
跳躍性のある銃に限らず、 配られた銃はその持ち主にしか引き金は引けない。
「知ってたか? 引き金は引けないが、 撃てはするんだぜ?」
そう。
引き金は引けないが……弾は使える。
「ルルが所有している銃から出る弾丸を、 俺の銃から放つと……さて、 どうなるでしょ~かっ!」
俺は、 ヘルの顔の前でピンと人差し指を立て、 質問する。
「そんなの……出来っこ……」
「なくはないんだなぁ、 これが。 どんなゲームにでも欠陥はある。 そして、 その欠陥をどう上手く利用するかは、 その人次第だ。 ゲームマスター程その欠陥には気付かないものだ。」
「じゃ、 じゃあ……どうやって弾を回収したのぉ?」
「回収なんてする必要はないさ。 なんてったってその弾は目の前にあるんだぜ? 」
そして俺は、 ヘルに再び質問する。
「このゲームは、 略プレイヤー同士でのバトルが勝敗の分かれ目となってるんだが……ヘル、 もし、 同じチームのやつを撃ったら一体どーなる?」
「……え」
これが欠陥だ。
設定ミス。
仲間を撃つ必要はないので、 知らない。
「そこが甘いな、 設定はしっかりと決めるべきだ。 だから今回俺達に負けたんだと言っても過言ではない」
そして結果から言うと、 同チームを撃った場合は、 その弾は本来の機能を無くして着弾寸前で落ちる仕組みになっていた。
「はい、 これで弾の回収は終了。 そしてその後はそれを自分の銃口に入れるだけ」
あとは引き金を引けば、 自分の弾と一緒に放たれるだけだ。
引いた引き金は一回だが、 放たれた弾は二弾。
「でもぉ、 自分が撃った弾がしっかりと跳躍する保証ゎなかったでしょ?」
チッチッチッと俺は指を振る。
「牽制の為に放った弾、 あれもルルのだ」
「じゃあ、 それで填めた弾ゎ無くなってない?」
考えは正しい。
しかしまだ甘い。
「何のために俺がすっげー怖い思いして飛び降りたんだと思う? ……言っとくが、 あれ、 超怖いからな!」
よしよしと頭を撫でてくるニルヴの手を叩き落とし、 三度質問する。
「仲間に……近づく為」
「イグザクトリィ、 正解だ」
ヘルと俺が会話をする事によって、 近くにいる存在、 ロキの存在を薄くしていたのだ。
「そういうのをミスディレクションっつーんだぜ?」
ミスディレクションにより、 存在が薄くなっている間に、 再び俺の銃口に弾を填める。
牽制弾のお陰で、 弾はしっかりと跳躍性をもつ事を知った上で放つ。
それが、 今回の作戦だ。
「……なるほどぉ、 完敗なのですね!」
「ふっ、 俺がどれだけすごい人間か分かっただろう……まぁ、 勝利方法はあと五つ程あったけどな」
いっちょここら辺で見栄を張って----
「な、 なんと……是非聞かせて欲しいのですよ! 」
----おっと?
「い、 いや、 まぁ今回はこの作戦が成功したと言うことで話は終わ…………お、 おいヘル! 人の腕を引っ張って何処に連れて行くと!?」
しかし、 ヘルは興奮しているのか話を全く聞いていない。
どうやらゲーマー魂に火がついたようだ。
結果、 この後終わった勝負の勝利方法を必死で考えるハメになった。




