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討伐イベント6


『ヴルルルルルル……』

低く唸る対象のオオカミは、 お隣さんの首を喰い千切った際の鮮血と共に、 涎をダラダラと垂らしている。

未だお腹はいているらしい。

単純に木1本分程の大きさまでに巨大化したオオカミだが、 体勢を低くして次の攻撃に備えていた。

対して俺は、 この状況を脱する為の作戦を練っていた。

1度山を降り、 体制を整えたのち、 ヘパイストスとその近衛兵達と討伐に出る方法もある。

しかし、 この方法は最も危険な作戦となる。

素直にこの魔物が山で待ってくれる保証などない。 山から俺を追って、 街に降りてこられては元も子もない。 そしてロキとルルを放って置いても胃の中に消えてしまうだろう。

こうなれば、 一度ルルとロキを救出した後に、 3人で戦うのが最もな策だろう。

「……これしかねぇ、 か」

この作戦を行う際の、 気をつけなければいけない点。 それは、 救出しに向かう道中も、 魔物の標的は常に俺で無ければいけないことだ。

振り切ってはダメだ。

俺を追うことを諦められては、 街に降りられるかも知れない……。

「ハードな作戦だが、 自称勇者を名乗っちまってる訳だから……それくらいしねぇとな」

勇者名乗るのも苦労するものだな。

「しゃあ! やってやろーじゃんかよ!」

まず、 確実に魔物の標的を自分へと向けさせる為にも、 一太刀浴びせることが最優先事項。

ほふれ!」

俺は、 両刀を振り下ろし、 刃先から風の衝撃波を飛ばす。

攻撃に備えていたオオカミは、 瞬時に避ける。

そのスピードは、 巨体に見合わず素早いものだった。

かさず畳み掛ける。

ブーストされた脚力を使い、 オオカミとの間合いを一瞬で詰める。

右に持つ紅刃を振るい、 避けた後の体制を整えられる前に一閃。

『ヴォォォォアアアアァァアッッ!!』

奇声ににも似た咆哮を上げ、 反撃してくる。

人一人ひとひとり位なら余裕で覆う程の巨大な前足を横薙ぎに振るう。

しかし俺は、 風で創り出した翼を駆使し、 上空に逃げる。

「……よし、 確実に効いてるな……」

上空から確認するからに、 傷からは血が流れ出している。

これで少なからずダメージは与えられている筈だ。

傷口がブクブクと動いているのは、 恐らくこの魔物は自然治癒が出来るのだろうが、 風を纏った一撃のせいで、 傷口が粗くなり、 治癒が難しい状態なのだろう。

魔物はガウガウと吠え散らかし、 辺りの木々を薙ぎ倒している。

「自分が戦い易いようにフィールドを広げてるのか……?」

あの巨体ならば木々が邪魔で上手く行動は出来ないだろう。

しかし、 更にフィールドを我がものにされれば勝算が狂う。

「……急いでロキ達を助けに行くか…………」

そろそろ助けに向かおうと、 方向転換しようとした時だった。

俺の頬を黒い何かが擦った。

頬からは、 血の雫が垂れる。

「……っち、 だりぃ」

先程、 俺の頬を切ったモノの正体は、 『霧』だった。

正確に答えると、 オオカミの周りを覆っている黒霧を、 固形に変えたモノ。

所謂いわゆる氷柱のようなモノだった。

鋭く尖る黒い氷柱がオオカミの周りを浮遊している。

「空中戦対応かよ……」

万能なやつだ。

『グルルルルルルァァァァァァアアアア!!』

威嚇を上げると、 氷柱は俺を目掛け一斉に飛んでくる。

「ま、 まじか……」

先程は、 風を纏っていたから擦り傷で済んだが、 今ので風鎧は解けてしまった。

「護れ!!」

両刀をクロスし、 風を張る。

しかし、 幾つかは風を貫通し、 俺の身体に傷を作る。

「……い、いってぇ」

唯一の元の世界の持ち物である制服が破れ、 血で汚れる。

オオカミは、 再び全身から黒霧を発生させている。

また氷柱を作るつもりなのだろう。

「させるかっ! 貫け!」

刀身同士で擦り合わせ、 風を飛ばす。

細く鋭い風は、 対象の肩辺りを的確に貫いた。

『グゴォォォアアアア!』

突然の攻撃により、 発生させていた黒霧が散布する。

だが、 貫いた傷からは、 血は流れ出なかった。

黒くドロドロとした液体が流れ出し、 それは魔物の左手を覆い尽くした。

徐々に広がってゆき、 とうとう左半身を覆い尽くした時、 変化は起きた。

『……居たか』

それは、 俺の目の前に現れた裂け目から聞こえた声だった。

いつぞやに出会でくわしたゼディウスが現れた時と同じ様な裂け目。

そこから現れたのは------。


-------蒼い髪に金色の瞳をした少女だった。

ショートカットの髪を風で靡かせて登場した少女は、 これまた立派な尻尾が生えていた。

そして、 その尾には爬虫類独特の煌びやかな鱗が揃っていた。

額からは、 頭部まで伸びた鋭い角。

葵の華が施されたノースリーブ型の着物を着たロリが現れた。

『探したぞ……ん? お前は人間か?』

直ぐに俺の存在に気付き、 質問してくる。

「17年間そのつもりで生きてるぜ……で、 突然現れたあんたはどちらさま?」

『我は竜人種ファフニルのニルヴだ』

ニルヴと名乗った少女は、 視線を俺から下で未だ吠え散らかしているオオカミに移し、 目を瞑る。

そして、 細く白い右手に力を入れると、 その白い腕から肩辺りまで青い呪詛が広がる。

その腕を横薙ぎに振るう。

たったそれだけで、 先程まで激闘を繰り広げていたオオカミは、 塵と化した。

『……済まなかったな、 人間。 あれは我が逃がしてしまった魔物の生き残りの一匹だったのだ』

軽く会釈程度に頭を下げるロリ。

「いいのか? 俺が言うのもなんだか、人間に頭なんか下げて」

大体ドラゴンなんて頭が高い生き物だろ。

ゼディウスとかそうだったし。

『確かに我が種はちと気が高い個体が多いが、 我は違う。 あれ程マヌケな奴らとは一緒にされたくはない。 我は探求心が強くての……』

フリフリと尾を揺らすニルヴ。

え、 何この可愛い生き物。

『時に人間、 ぬしからはただならぬ魔力を感じるが……』

ただならぬとか言われちゃってるよ。

フラグじゃん。 絶対。

「そ、 そうか? 俺には一般人以下の力しかないぞ……? じゃ、 仲間が待ってるんで----」

『----待て』

そそくさと立ち去ろうとした俺の腕を、 器用にも自らの尾で絡め取る。

『…………興味がある』

ごくり、 と、 背後のロリの喉が鳴る。

え、 何この怖い生き物。


ぬし、 ちょっと失礼』

「のあっ!?」

尾を使い、 俺の身体を自らに近づかせると、 何を血迷ったか俺の頬を、 仄かに暖かく、 ぬるりとしたものが這う。

理解するまで約5秒。

傷口を舐められた。

「なにしとるんじゃ変態!!」

『失礼な! 傷を治してやったのに……っ!?』

唾液で濡れた頬には、 確かに傷は残っていなかった。

「す、 すまねぇ……ありが----」

『----ついでに血を舐めただけだ』

「変態だっ!! 何がついでだ! 絶対そっちが目的だろっ!!」

『何を言うか! 我らは嘘は付かんっ!』

ぷっくりと頬を膨らます変態ロリだが、 一見すれば怒っているようだが……。


尾はルンルンと揺れていた。




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