討伐イベント5
「……さて、 どうしたもんか」
俺は迷っていた。
別にこのまま深部へと向かってもいいのだが、 水源の位置に辿り着く事は出来るのか……。
と。
『ウォォォォン!!』
深部から響くオオカミを想像させる遠吠え。 そう、 ココは森だ。 下手に闊歩すると、 魔物に遭遇し、 やられてしまいかねない。
そんな事になっては本末転倒だ。
「……ま、 考えたって何も変わんねぇか」
ダラダラと過ごす為にも、 あいつらは必要不可欠となるだろう。
うん。
その為なら、 少し位の苦労はするべきだ。
そんなふうに己に言い聞かせていると、 どこからともなく語りかけられる。
『無事か、お主』
「ん、 この声はヘパイストスか」
どうやらテレパシーで俺の脳内に語りかけて来たらしい。
『どうも森の動物が騒がしかったものでな、 こちらから見させてもらったが、 中々厄介な魔物が住み着いたみたいじゃの』
神はなんでもお見通しらしい。
「千里眼って、 俺でも覚えれたりすんの?」
千里眼スキルは、 確実に覚えていて損するスキルではない筈だ。
現に今必要としている。
『別に必要な条件はないんじゃが……ちと厄介での。 千里眼スキルは覚えるものではなく引き継ぐものなのじゃ』
千里眼は伝承系統スキルだったのか……。
引き継ぐって……目ん玉 抉り抜くとかじゃないよな……。
『今回は儂等の不手際でもある。 儂が直々にお主に引き継いでやろう』
なんと、 上から目線か下からか良くわからんの。
「で、 俺は何すりゃ良いんだ?」
抉り抜くのだけは勘弁。
俺っちビビリだから。
『お主は目を瞑っておれば良い』
「お、 おう」
言われた通り、 俺は静かに目を瞑る。
……。
…………。
………………。
「ま……まだか?」
『終わっとるぞぃ』
「なんか言えやっ!!?」
呪文的なやつもなく、 ただただ待っていただけだし……。
「ほんとに今のでいいのか? 俺は別に何も変わった気はしねぇぞ?」
別に良く見えるようになった訳でもなく。
なんもかわらん。
『左目を閉じて、 右目で奥を見ようと試みてみぃ』
ほう、 左目を閉じて……右目で奥を見ようとする……。
言われた通りに行動してみる。
すると、 見慣れない光景が広がる。
見慣れないといっても、 決して砂漠が見えるなんかじゃなく、 目の前にある木々が少し違う程度だ。
「ヘパイストス、 特にかわらん」
『安心せい、 しっかりと引き継がれとるわい。 その証拠に今見とるのは、 3つ先の街の山じゃ』
「遠すぎだアホ!」
どこまで遠くのもの見せてんだよ!!
遠すぎてあんまし意味ねぇよ!
『そりゃあ神の目を引き継いだのじゃぞ?』
神ぱないな!!
『落ち着け、 集中して見てみろ』
言われるがまま、 もう少し先を見るイメージを沸かす。
「……お、 沼が見えるぞ?」
『沼……そこが元々水源の場所じゃな』
「え、 あれが水源……? めっちゃ汚ねぇぞ」
『それ程までに彼奴が邪悪な魔物じゃと言う事じゃ』
視界に広かった沼は、 とても水とは言えない程に汚れていた。
更にしっかり見てみると、 沼に何か二本刺さっている。
「……あ、 ルルとロキだ」
迷子のお2人は沼に衣類ごと浸かっていた。
『そこに二つ首の黒い毛並をしたオオカミが居らぬか? 』
んー……。
居ないなぁ……。
「うわ! いきなり視界が真っ暗になった!」
先程まで見えていた光景が一瞬にして黒一色に切り替わった。
『早う逃げぃ! 今見ておるのこそ、 やつじゃ!!』
急いで千里眼を解除し、 身構える。
獣が発す独特な息遣いが聞こえる。
木々を掻き分ける足音が近づいてきている。
「……来た」
野生の魔物が飛び出して来た。
『ヴルルルルルル……』
完全に戦闘態勢に入っている。
愛刀ジェミニを握る手が震える。
「……こりゃ失禁モンだな」
すると、 左側の首のオオカミの口から、 黒霧が漏れ出す。
それは先程の黒霧と同じものだった。
「同じ手は2度と食うかよ!」
俺は柄を握る手に一層力を入れ、 振るう。
一迅の風を発生させ、 辺りの黒霧を消滅させる。
「纏え! 」
紅刀を魔物に構え、 蒼刀で刀身を擦る。
すると、 俺の身体の周りに風が発生する。
これで、 いくら黒霧を発生させようが俺には届かない。
「削れ!」
次は逆に蒼刀を魔物に向け、 紅刀で擦る。
途端、 刀身から発生した風は、 蛇を思わせる形に変形し、 魔物を襲う。
魔物は瞬時に後方へ飛び退き、 低く唸る。
「……行けるかッ!?」
魔物は体勢を反撃に移す。
右首の瞳が黄金色に光輝く。
と。
左首を黒霧が覆ってゆく。
その光景は、 実に禍禍しく、 更に黒く染まる。
あれはどうも、 先に片方の首を落とすべきなのかも知れない。
「ブースト……、 舞え!」
脚にのみブーストを掛け、 脚力を向上させた後、 両刀身を振るうと、 俺の背に風で出来た翼の様なものが完成させる。
「……さっきからなんだか、 今までこの武器を使っていたかの様に使い方が頭に入り込んでくる……」
今日で初めて使用する愛刀の使い方は、 ロキからも、 これを創り出してくれたヘパイストスからも何も教わってない。
だが。
分かる。
翼を使い、 空中を浮遊する。
獣相手に陸上戦は避けるべきと考えたからだ。
「やっと異世界らしくなって来たじゃねぇかよ!!」
俺は、 反撃体勢となった魔物をしっかりを見据え、 敵の行動を観察する。
だんだんと黒霧を覆う範囲が広くなってゆく。
「……マズイな、 先に落とすべきなのは右首の方か……っ!?」
黄金色に光輝く目は、 徐々に光を失ってきている。
「先手必勝!!」
後方にある木を、 ブーストにより強化した脚力で蹴り、 風で巻き起こしている翼を有効に活用し、 猛スピードで接近する。
が。
それは直ぐに静止させられた。
いや、 詳しくは、 静止したのは紛れもなく自分の意思だ。
静止せざるを得なかった。
左首のオオカミが、 右首のオオカミを捕食し始めたからだ。
光を放つ瞳は直ぐに黒く染まり、 噛み付かれている首元からは鮮血が溢れ出ている。
「……えぐいな」
ぐちゃぐちゃと右首を噛み砕き、 肉片を飛び散らす。
そして、 全てを喰い尽くした後、 俺は後悔する事になった。
ブクブクとその肉体が膨らみ始める。
顔は醜く歪み、 身体の膨らみは止まることを知らないのか、 より一層大きくなっていく。
「……巨大化死亡フラグはこの世界には通用しないかもしんねぇな……」
勝てる気がしない。
恐怖している。
その巨体が動きを止めた頃には、 十倍以上の大きさになっていた。
『ヴォォォォアアアアッ!!!』
「……こりゃ先にロキ達を助けに行く方が先決かもな」




