ルルオーク
「少しばかり時間が掛かる故、 ゆっくり観光でもしておるがよい」
そうヘパイストスから言われ、 集中する為に半ば追い出された俺達は、 言葉通り神のお告げの如く観光巡りをすることになった。
「-----なぁ、 ここは何が有名なんだ?」
この世界、 もといこの街を全く知らない俺は、 有名所を問う。
「そうですねぇ、 やはり鍛冶屋が目立ってしまうので、 あまり他のと聞かれると……」
俺の隣で腕を組み、 一緒に考える。
と、 ルルが。
「温泉なんか有名ですよ? やっぱり鍛冶してると汚れちゃうのでそこら中から温泉掘り起こしたらしいです」
お前は今日からルルペディアだ。
「ん〜……でもなぁ、 温泉っつっても……俺あんまり大勢の人集りはちょっとな----」
「----因みにこの街には混浴のみなんです」
「よし行こう今から行こうすぐ行こう」
「決断はやっっ!!?」
ふっ、 男はそうと決まれば早いもんさ。
行き先が決まり、 さて参ろうかとした時だった。
「---ちょいとそこの旅のお方……」
商店街らしき所に居た俺等を呼び止めたのは、 ボロボロのローブを深めに被った、 声からして老人らしき人だった。
「なんだよ老人、 俺は今から桃源郷へ向かう途中なんだ……邪魔するなよ」
「邪魔だなんて滅相もない……ワシはただ、一つ話を聞いて行ってはくれぬかと思うただけなのじゃ」
ホントに申し訳無いように、 ペコペコと頭を下げながら乞う老人。
「…………主、 行きましょう」
テレパシーか何か、 同じような類いの魔法を使って話かけてきたロキは、 少し顔が強ばっていた。
……あれ? こう言う場合、 俺はどうやって返事すればいいんだ?
取り敢えず念じるか。
(…………どうした?)
「この老人から、 反逆者の魔力を感じます」
あらまぁ……。
もう潜んでんのか。
「……わりぃな爺さん、 俺達ゃ行くわ」
触らぬ神になんとやらだ。
俺は、 面倒事を避けるべくその場を逃げようと試みた。
が。
「----させぬわッ!」
「----危ないッ!」
風の如くスピードで、 ローブの中に隠していたらしいナイフを俺に向けて抜刀するも、 ロキが後方へ引っ張ってくれたお陰で空を斬った。
「みんな逃げろッ! 反逆者だ!」
周りに危険を知らせる為、 おればわざと大きな声で叫ぶ。
「ロキ、 警備隊にヘパイストスには伝えないように指示してくれ」
集中を削がぬよう、 こちらだけで処理する必要があった。
「御意に……」
「マスター、 私に刃を貸して下さい!」
「やだ」
「えぇぇえっ!!?」
だってお前、 戦闘狂だろ?
なんか俺達まで巻き込みそうだもん。
「お前はマスコットのままでいてくれ」
「それは褒めてるんですかっ!?」
「ごちゃごちゃうるせーぞテメーら……オレは魔王軍の一人、 ホブゴブリンのボブだ」
「五月蝿いのはお前だホブゴブボブ、 折角人が気持ち良く温泉入ろうとしてんのによォ……」
俺は懐の鞘から、 ミスリルソードを抜刀する。
「ブースト、 『脚』」
最近知ったが、 このブースト魔法は、 一部分のみに重点的にブーストをかければ、 その分ブースト値は上がることに気が付いた。
なので、 俺は脚のみにブーストさせる。
「テメェは一生モンの後悔をさせてやる」
言うが早いか、 俺は高速でホブゴブの背後に回る。
そして、 ここで『斬り込み』を発動させる。
狙い通り、 ホブゴブは急いで交わしにかかるが、 その行動を呼んで繰り出した『斬り込み』がホブゴブの背中に一太刀浴びせる。
「ぐひゃあッ!」
ローブは裂け、 そこから赤黒い鮮血が滴り落ちる。
おぉ……なんとグロテスクな。
「ち……畜生、 こうなったら----」
そう言うと、 ホブゴブは懐から巾着を取り出し、 何か玉のようなものを取り出した。
すると、 徐にソレを口に放りこんだ。
「……マズイですね」
「なんなんだあれ?」
緊迫した表情のロキに問うも、 返事をしたのはホブだった。
「ひぇっひぇっひぇ……これは『鬼神の薬』だ……」
すると、 徐々にホブの身体がモリモリと大きくなってゆく。
「鬼神の薬は、 一つ食べれば身体の筋肉を5倍に跳ね上げる薬です……筋肉が増えるのであのように巨大化していくのです」
巨大化……。
お約束のフラグですね。
「さて、 どうやってぶっ殺そうか」
「マスター……私に刃を……」
「やかまし」
べしりとデコピンすると、 「あぅ」と声を漏らすルル。
……本当にヤバくなったら渡そう。
死ぬのはやだからね。
「強化されたワシの力をとくと見よ!」
ホブは、 巨大化した己の拳を俺達がテレポートした山に向けて振るった。
数秒遅れて山が消滅した。
風圧で消し飛ばされたのだった。
「ルル! はいっ! 刀! 返す!」
危険信号ビンビンだわ。
なんだあれっ!? 死亡フラグじゃねーのかよっ!?
ルルの手を握り、 そこに刃の柄を置く。
それをルルが握った途端……、 今まで茶色だった瞳が、 髪と同じように深紅に染まる。
「……戻ったか、 私の身体よ」
おぉー!
性格変わる感じの奴?
「はて、 あれを刻めば良いのか……」
「やっちゃって下せぇ姉貴!」
やいやいと、 子分のように囃し立てる俺。
「少しばかり訛っているかも知れぬが……」
そして、 ルルの姿が消えた。
速すぎて眼では追えなかった。
……正に光の速さだった。
残っていたのはホブの残骸のみ。
ホブは、 速すぎた故に苦痛の叫びすら上げる間もなかった……。
ホントにこいつらだけで魔王討伐行ってくんねぇかなぁ……。
己の使命を挫折しかけた俺だった……。




