沸かない訳
目的地であるラライヴシティまで、 まだ距離はあり、 未だに周辺は木々で覆われている。
「なぁ〜……ルルぅ」
「な、 なんですか……」
「こんなに敵って沸かないモンなのか?」
「私に聞かないで下さいッ!」
じゃあなんで付いてきたんだよ……。
「あ、 そーいやまだルルのステータスカード見てねぇな」
ふとそんなことを口にすると、 ルルのケモ耳がビクリッと震える。
「…………どうした」
「い、いえ……な、なな何も」
こいつ……。
何か隠して嫌がるぞ。
当のルル本人はとてつもない勢いで目を泳がせている。
心做しか冷や汗を垂らしている……。
これはこいつのステータスカードが気になる……。
……ところではあるが、 ここは敢えて。
「そっか、 何もねぇんならいいや」
俺はわざと口笛を吹きつつ、 興味は一切ないフリをする。
「……あ、 あれ」
ボソボソと呟くルル。
ふっふっふ、 これは確実にイベントだったな。
そんなレールに引かれた人生なんぞまっぴらだよっ!
「……主、 魔物の気配です」
突如、 ロキが目を光らせながら、 何者かの気配を察したようだ。
今まで静かだと思っていたが……。
「……こ、これは……」
その気配の主の正体に気づいたのか、 その存在に驚愕の声を上げる。
すると、 突如目の前の空間が裂ける。
徐々に広がっていくその裂け目から、 今までに無い程の殺気が溢れ出していた。
「な、 なななな何ですかッ!?」
裂けた空間からは、 こちらを睨む紅き鋭い眼光。
大気をも震わす絶大な殺気。
「なぜこんな場所に……」
「そんなにやばい奴なのか? コイツ」
ロキの慌ただしい反応に、 若干の不安さえ覚える。
「奴の名は『ゼディウス』。 最高神の名を借りるに相応しい……強大な力を持った竜です…………」
……おいおい、 Lv24の若造が相手していい敵じゃないだろっ!?
とうとう裂け目は穴と化し、 ついにその姿を現した。
ゼディウスと言う名の竜は、 純白の躯体をし、 背中からは巨大な翼を携え、 空間に波紋をつくる。
眼光が紅く晶り、じっとこちらを見据えている。
『獣ノ娘ト神、 ソシテ貴様ハ何者ダ』
どうやら俺はこの世界では人としても認定されなかった。
そりゃそうか。
異世界人だし。
「俺は勇者になるべくして生まれた男の子だ」
一応建前を名乗る。
『我ノ前デ偽ルナ。 全テヲ見抜ク我ハ人ヲ嫌ウ……。 醜ク汚イアノ人間ハ……』
流石ゼディウス。
初めてだけど。
『次ハ毀ス』
おっと。
脅された。
「楽して楽しく暮らしたいけど勇者になれって言われた人間です」
「えぇぇえっ!!?」
何故お前が驚く、 ルル。
「……仕方ガナイ、 コノ場デ破壊シテヤロウ」
何故に人の話を聞かん。
「ロキ、 賞賛は?」
「皆無です」
即答あざす。
「……ですが、 生存確率ならば……」
「お?」
「……2%程」
「んじゃ、 そっちに掛けるか」
『……我ト対峙スルト言ウノカ』
「悪いね、 俺は賭け事には強い」




