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ロードバイク

僕は細い物体にまたがり、猛スピードで下り坂やアピンカーブを華麗な体重移動で次々と走り抜け後、延々と続く直線に目線を向けた瞬間何か異物に衝突し体が吹っ飛んだ。

一体あれからどうなったんだと目を開けたとき、そこは寝起きしている何の変哲もない僕の部屋であった。

つまり、夢であったのだ。

夢の中まで侵食してくるロードバイクという存在を少し可笑しく、

一つのことで頭がいっぱいになる自分は成長せず相変わらずだなと思いながら

目を覚ますために洗面台に向かった。

朝食をそこそこにとってから

高校生活最後の登校日、卒業式に出るため

明日からはもう身につけることがない高校の制服に袖を通した。

天気は僕たち卒業生を気持ち良く送り出すために用意されたのではないかという程の快晴であった。

いつもの自転車ではなく徒歩で学校に向かい、

もうこの道を歩くことはないのかと少し大げさなことを考えた。

校門前に着くと一つ下の生徒会の生徒が卒業生の胸に花をつける作業をしていた。

例に従い僕も花をつけてもらい、教室に向かうと友人との高校生活最後の時間を惜しむや

受験の結果についての話で盛り上がるクラスメートがいた。

それらを横目に見ながら自分の席に座ると

2年間同じクラスであった北条明が話しかけてきた。

「受験どうやった?今日で高校生終わりやけど進路きまったか?やっぱりニートか…」

3ヶ月ぶりの会話がいきなりこれだ。

どうも3ヶ月では人は成長できないらしい。

「普通に上宮学院大学に合格したわ」と答えた。

「まさかお前が第一希望校に合格するとは…変な腐れ縁やけど大学からもよろしくな」

と明はそう言いながら、担任が教室に入ってくるのを確認すると自分の席に戻っていった。

春彦も明も一緒の大学に通うとなると心強くもあるが代わり映えしない生活になるかもしれないと4月からの大学生活の期待が少し小さくなった。

北条明は高校3年の夏まで陸上部に所属していた。

なぜ親しくなったかというと体育の時間の体力測定で陸上部の明よりも野球部の僕の方が50m走のタイムが速く、その結果明が僕に噛み付いてきたという謎の経緯がある。

その後、明は負けず嫌いで50m走以外の競技も対抗心を燃やしてきたが反復横とび以外僕の全勝で終わり、スポーツドリンクを奢ってもらったことは今思えばいい思い出である。

担任の誘導で体育館に移動し、卒業生が全員着席すると卒業式が始まった。

校長の長い話も今日で聞き収めになるのかと考え耳を傾けるも単調に発せられる言葉に眠気を感じ、気づいた時には式が終わり退場する時間になっていた。

教室に戻り、担任が一人一人の名前を呼び卒業証書を手渡し、恒例の最後の挨拶で号泣しているのを眺めているとついに高校生活が終わってしまうことを今更ながらに実感し切ない気持ちを覚えた。

担任の挨拶が終わり、解散の旨を聞くとクラスメイトたちはそれぞれの友達との別れを惜しみながらもばらばらと教室から出て行き、校門前の中庭で写真撮影や部活動でお世話になった先生に挨拶まわりをしている姿をみることができた。

僕も荷物を持ち明と教室を出て中庭へ向かった。

中庭に着くと明は陸上部のチームメイトの元へ、僕は野球部のチームメイトの元へと歩き出した。

昨日の春彦の話によると高校最後の写真撮影をグランドで行うらしい。

グランドに向かうと2年半同じチームで汗水を流した同期たちと数名の後輩がいた。

30分くらい高校野球の思い出話やバカなことを言い合ってる間に全員が揃い写真撮影を行った。

撮影が終わった後、春彦に昼飯を誘われ学食で昼食を済ませ、僕は春彦と校門で別れた。

春彦は午後からクラスの卒業打ち上げに参加するらしい。

僕のクラスでは今週の週末に打ち上げが行われるため午後からは暇になる。

ただ卒業式後のことは昨日から決めていて僕は足を商店街の方向に向けた。

商店街の中心から少し東にスポーツ自転車のショップがあることは中学生の頃から知っていた。

当時はショップの前にいるピチピチの服をきたおじさん達を色眼鏡で見ていて関わってはいけない人たちと考えていたにも関わらず、まさか自分の意思で来るようになるとは中学生の頃の僕が見たら頭がおかしくなったと考える違いない。

自動ドアをくぐるとそこには見慣れない昨日見た僕が知っている自転車とは違った形をした自転車が所狭しと置いてあった。

僕はその独特の美しさに魅了された。

店内を物色していると店員に声をかけられた。

「その制服は高校生?ロードバイクに興味あるの?」

声のする方へ顔を向けるとそこには自分よりも身長の低く小柄な女性が立っていた。

顔立ちは整っていて年齢は僕と変わらないように見えたが大人っぽく見え、一般的に綺麗な人の部類に入ると思い、少しどぎまぎした。

「高校生といえばまだ高校生ですが今日卒業してきました、4月から大学で自転車競技を始めようかなと…」

そう答えると、女性店員は目を輝かせながら

「自転車競技!ロード?トラック?自転車はいいよ!大学から初めても全然高校からやってる人たちに追いつけるし努力次第で上位に食い込むことだって可能だからね!自転車競技ほど努力が実力に変わるスポーツないよ!どう?始める?始める気になった?」

とマシンガンのような口調で畳み掛けてきた。

このままだと勢いのまま押されてしまいかねないので昨日あったできごととロードバイクについて調べたことを彼女に伝えた。

「なるほど、友人とママチャリで走ってる時にロードバイクに抜かされてプライドが傷つけられたわけだね!それで自分もロードバイクを買って見返してやろうと…いいね!少年!」

仮にも客に少年扱いはどうなのかと感じたが彼女の発言も的を外しているわけではないのでスルーし、相槌を打った。

すると彼女は何かを思い出したように僕の手を急に掴み店の奥の方へと進んでいった。

「エントリーグレードで大学の中で上を目指すならこの完成車がいいかな」

そう言いながら彼女は棚の上に飾られている青と黒色のロードバイクを指差した。

「このモデルなら変速系はシマノの105がついてくるし、重さは素材がアルミだから少し重い部類に入るけどホイールを途中で変えてやれば7kg台も夢じゃない…もし落車したとしてもアルミで頑丈だから走れると思うしどう?」

急にどうと言われてもという感じであったが見た目は自分好みのものであった。

性能的にも彼女がいうことを信じるとするなら十分であると言える。

シマノ105というのは何の数字かわからないが…

頭の中で考えがぐるぐる巡っていると彼女が棚の上にあるそのロードバイクを下ろして僕の前に差し出した。

それを手に取ってみると自転車と思えないくらい軽い、しかし彼女はこれでも重い部類と言っていたような気がする…

「この軽さでも重い部類に入るんですか?」

と彼女に疑問を投げかけた。

「ふむふむ♩いい質問だね少年!一般的な自転車の重さは15kg〜30kgの間で推移するかな?でもロードバイクのようなスポーツ用の自転車は現代の技術革新もあって最高4kg台のものがあるよ!ただプロのレースでも6.8kgまでが減らしてもいい車体重量って決められてるけどね〜ちなみにこのバイクは8.5kgだよ!」と彼女は待ってましたかの勢いで答えてくれた。

それを聞いた僕は今、手の中にあるロードバイクと呼ばれるものは走るため、人間の持っている力を最大限に速さへ変換するように生み出されてきたことを実感し、早く手に入れてまたがりたい衝動に襲われた。

「色々説明ありがとうございました。ではこのバイクを購入したいと思うので手続きお願いしてもいいですか?」

そう答えながら僕は財布を取り出し、5枚の諭吉を見て確かめた。

約1年分の小遣いのあまりと年間行事で親族からもらえるお金を貯めた合計の5人の諭吉で

あり、ママチャリは安くて1万円程度で買えるのでロードバイクも高くて5万弱で買えるであろうと僕は高をくくっていた。

「やった〜♩お買い上げありがとうございま〜す!このバイクでいっぱい練習して早くなってね♩この完成車の会計が12万5000円になります!」

自転車に12万5000円?1万2500円の間違いかな?

と彼女の言葉を考えて少しフリーズし周りを見渡すと値札が…

数字の数を数えてると明らかに6個の数字が並んでいる。

これが現実か…と一人憂いている中

ショップ店員の女性は嬉々として手続きに必要な書類を集めているのか動き回ってる。

目の前の嬉々として動き回っている客観的に美人な彼女にお金が足りないことを伝えた後の反応が非常に怖いが仕方ない。

恐る恐る彼女に手持ちが足りないことを伝えた。

すると彼女は

「あ〜それじゃ仕方ないな…最初の来店で即決ってのも急すぎるよね。もし君が春休み中に買いに来るならこのバイクは取り置きしておくけど?」

と以外にも温厚な態度で接してくれた。

資金調達の算段を頭の中で立て、春休み中にバイクの購入を決意

その旨を彼女に伝えると

「了解しました♩では店長に伝えておくからもし次に買いに来た時に私がいなかったら店長に木下愛由美に対応してもらったって伝えてね!ちなみに上宮学院大学の自転車競技部のマネージャーもしてるからわからない事があったらまた聞きおいで」

とリズミカルな感じで答えてくれた。

僕は相槌を打ってショップを後にした。

今日の収穫はロードバイクの知識と価格の高額さ…

後はショップの店員が小柄美人でもしかすると4月からの大学生活で関わりあう存在になるかもしれにないということである。

あのバイクを買うために僕の春休みは短期のバイトに捧げるしかないのかと意気消沈させながら家までの長い道のりを徒歩で帰った。
























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