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エピローグ

「製菓専門学校? じぶんが? がっは~っ、似合わん! まったく似合わへん!」


「そこのアホ~、あんま大星はんのこと笑うとウチが許さへんよ?」 


 指を差して笑っている虎丸をこがねが諫めている。


「ったく、うっせぇなぁ」


 大星はボヤキながらも穂月に顔を向けた。


「つーわけでよ、オレは春からケーキ職人を目指して専門学校に行く。黙ってて悪かったな」


「言うのが恥ずかしかったんだってさ」


 奈智が横やりを入れてくる。


「なんでー? 恥ずかしがることなんてないよ、お兄ちゃん。うちはケーキ屋さんなんだよ?」


 両親揃ってケーキ職人だった。今は父が無くなり、母が一人で店を切り盛りしている。


「んなこと言ったってあのバカの反応見りゃわかんだろ?」


 大星は笑い転げている虎丸に目をやる。


「あ~でも、わたしも知ってたけどね。お兄ちゃんがケーキ屋さんになりたいって思ってるの」


 穂月がそう言うと、奈智が「やっぱり~!」と 声を上げ、


『バレバレだったよね~』


 と、笑い合った。


「ねぇねぇ、大星お兄ちゃんはなんでケーキ屋さんになりたいって思ったのー?」


 祐佳が袖を引っ張って訊いてきた。


「あぁん? んなことどうでもいいだろ。祐佳オメェ、ケーキ食ったんだったらもう寝ろ。ガキが起きてる時間じゃねぇぞ」


「ええ~、それじゃあ、なんでか教えてくれたら寝る~」

「ケッ、イヤだね」


 ダダをこねる祐佳は大星の態度に頬を膨らませ、穂月に抱きついた。


「ねぇ~、穂月お姉ちゃんは知ってる?」


 大星はギクリとした。


「うん。多分、お兄ちゃんはね、自分でケーキが食べたいんだよ。うちはケーキ屋さんだけど、おやつにケーキが出たこと一回もないの。全部売れちゃうから。お兄ちゃん、いっつもお母さんにケーキ食わせろケーキ食わせろって文句言ってたもん」


「それにね、私のお父さん、昔からよく矢場くんとこでケーキ買ってくるんだけど、その次の日になると矢場くんてば『昨日ケーキ食ったろ?』『どうだった、美味かったか?』とか訊いてきてたし」


 穂月と奈智はニヤニヤしながら祐佳に説明した。


「ほぇ~、でも大星お兄ちゃんの作ったケーキ美味しかった!」

「うん、ビックリするくらい美味しかったし、嬉しかったよ、お兄ちゃん」


「お、そうか?」


 祐佳と穂月に褒められて、まんざらでもない大星。


「喜んでくれて良かったね」


 奈智がそっと耳元で囁いてくる。

 実はこのケーキを作るに当たっての発端は奈智の一言によるものだった。色々と手伝ってくれた奈智に礼がしたいと大星が申し出たとき、


 ――じゃあ、矢場くんのケーキが食べたいな。穂月ちゃんと一緒に。

 奈智はそう言った。


 それが無ければ、今のこの場はなかったかもしれない。


「ありがとな」


 大星が囁き返すと、奈智はニコッと笑顔を見せて、


「さ、祐佳ちゃん。ホントにもう寝ないと。私が一緒についていってあげるから」


 と、祐佳と手を繋ぐ。


「うん、わかった。おやすみなさーい」

「おやすみ、また明日ね」

「歯、磨けよ」


 祐佳は奈智に連れられて処置室から出て行った。


「それと――」


 穂月は二人を見送ってから付け加えた。


「お母さんを気遣って、お父さんに憧れて、わたしにケーキを食べさせたくて、だよね?」


 奈智がそこまで気付いていたかどうかは定かではないが、さすがは妹だということだろう。完全に見透かされていたようだった。

 大星はバツが悪く、頷きもしなかった。


「あの二人にはこの子たちのこと見えてないんだよね?」


 すると穂月が、ウサギ姿に戻って膝の上で大人しくしていたくろことましろを撫でながらにそう言った。


「ああ、コイツらは卯上神社の神使なんだってよ、な、サト姉?」


 大星は先程からずっと黙りこくっていた祈里に話を振る。


「……え、あ、うん。そうだよ」

「どうしたんだよ、さっきからボーっとして」


 心ここに非ずといった祈里は、大星にそう肩を掴まれると急に涙を流し始めた。


「お、おいおい」

「祈里さん?」


 大星と穂月は突然のことに焦った。すると、


「ウルァ! じぶん、なに祈里はんのこと泣かせとんやぁ!」


 と、虎丸が突っかかってくる。


「違う、違う……、あ~、ワタシも年かな~。涙腺が緩くなっちゃって」


 祈里は大急ぎで涙を拭い、


「大星、アンタはホントよくやったよ~」


 と、大星に抱きついた。それを見た虎丸とこがねがワナワナとしている。


「穂月ちゃんに一人じゃないって伝えられたのも、自分は幸せだって気付かせてあげられたのも、きっとアンタ以外じゃできなかった。ずっと穂月ちゃんを守ってきた大星の言葉だから届いたんだよ。ね、穂月ちゃん?」


 穂月はコクリと頷いた。


「ハァ~、兄妹っていいねっ。ワタシゃもうお酒飲みたいっ。アンタら兄妹を肴にしてお酒が飲みたいよっ。オイッ虎丸、こがね、一緒に神社でいっぱいやろやろっ。付き合いなさいっ」


 祈里は飲んでもいないのにすでに酔っ払ったような顔をしていた。


「え、祈里はん、ワイも行っていいんでっか?」

「いい! 今日だけ無礼講にしてあげる。こがねもイケる口でしょ?」

「ウチ、お酒には目が無いんですぅ。ご一緒させて頂きますわぁ」


 三人はそう言いながら部屋の出口へと足を向ける。すると祈里だけが戻ってきて大星に耳打ちした。


「大星、穂月ちゃんの無事は取り敢えずだかんね。いつかまたこうなる可能性がなくなったわけじゃないよ?」


「……ああ」


「それに穂月ちゃんに代わって、今はアンタが不幸の星なんだ。それもわかってるね?」


「ああ、でもオレは五年連続の大凶男だ。端っから不幸なんつうもんは屁みてぇなもんよ」


 大星は鼻で笑って余裕を見せた。もちろん虚勢などではなく本心だ。

 なにせ大星は今この時も、心に溢れんばかりの幸せを感じている。


「そう。でも困ったときはいつでも言いな。アンタも一人じゃないんだかんね!」


 祈里はそう言うと「そんじゃね~」っと陽気な足取りで帰っていった。


「祈里さんにも、みんなにも心配かけちゃってたんだね、わたし」


 穂月は祈里の背中を見送った後にそう呟いた。


「まぁな。でもこれからはもっと堂々と心配かけろ。言葉にしてくれりゃ話は早ぇんだ。オレにも、コイツらにも、な」


 大星はくろことましろに目をやりながらそう返す。


「……うん。そうする」


 穂月も二匹に視線を落とすと、


「あ、寝ちゃってる」


 くろしろは静かな寝息を立てていた。


「何も喋んねぇと思ったら……。やっぱコイツらもまだガキなんだな」


 大星は改めて丸椅子へと腰を落ち着けると、二匹の寝顔を眺めた。安心しきった、そんな寝顔だった。


「ねぇお兄ちゃん」

「ん?」


「今年のおみくじの『叶えよ』ってあったやつ、叶えられた?」


 大星の願望。穂月の健康と受験。


「とりあえず半分だけな。オメェはどうだ? 叶ったんか?」

「えーっと、うん。じゃあ、わたしも半分だけ」

「じゃあ、ってなんだよ? オメェなにお願いしたんだ?」


 穂月の願った二つのこと。一つは大星も耳にしていた。


 ――お兄ちゃんに友達ができますように。


 きっとこれが叶った方の半分だ。

 奈智、祈里、祐佳、くろこ、ましろ。それに笹原や野球部の後輩たち、虎丸やこがねだってそうかもしれない。

 ではもう一つ、残った半分はなにか。

 それは大星の残り半分の願いと同時に叶うものだった。


(お兄ちゃんの願いが叶いますように……)


 穂月はもう一度、その場で願いつつ、


「内緒だよ~」


 と、笑顔を見せたのだった。


 おしまい

これにて『アンラッキースター ウィズ バニーガール』は完結です。

ここまでお付き合い頂きまして、心から感謝を申し上げます。

ありがとうございました!

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