#3 野球部の事情③
「穂月の具合どうだった?」
「穂月ちゃん、兎大福食べてちょっとでも元気になった?」
大星が病院を出ると、外でウサギ姿でじゃれ合っていたくろことましろがそう声をかけてきた。その姿は穂月には見えてしまうが為、病室には顔を出さないようにしているのだ。
「ああ。なんつーか、ちょっと前向きさが出てきたように見えたな」
朝の空気は冷たく、大星はカイロ代わりに二匹を抱きつつそう話してやると、すぐに安堵の色が仄見えた。くろことましろも、自分と同じくらいに穂月のことを心配してくれているのだ、と伝わってくる。
「なぁ、くろしろ。オマエらなんでそんなに穂月のこと心配してくれんだ? いつまでも責任感じてんだったらもう気にすっことねぇんだぞ? こうして色々手伝ってくれてんだしよォ」
学校に足を向けながら、ふとそんなことが気になった。
元旦の事故の時、自分たちが穂月の倒れるきっかけになってしまった、そう責任を感じているにせよ、不幸の星である穂月への同情にせよ、くろことましろがいなければ大星一人ではどうすることもできない。
当然感謝しているし、だからこそ余計な重荷を背負う必要はないのだと教えてやりたかった。
「そりゃ責任を感じてないって言ったら嘘になるけどさ。それよりかは、お礼って感じかな」
「うん。助けてくれたお礼だよね」
二匹は腕の中で耳を動かしながらそう言った。
「いや、でもあん時さ、オマエらがもしトラックに轢かれたとして、どうにかなってたんか?」
二人は神使なのだ。
その姿が見える大星や穂月には今まさに腕の中にあるような温かみや感触を感じることもできるが、本来はそこにあるようでないような存在。たとえ戦車に轢かれたとしても何ともなさそうな気がしないでもない。
「あ~、うん。それはそうなんだけど……、そういうことじゃないでしょ?」
「穂月ちゃんはきっとしろたちが神使だって知っていても助けてくれたと思います。大星さんもそう思いませんか?」
「……まぁな」
仮に平気だとわかっていても、穂月なら戦車に轢かれそうなウサギを放っておいたりしないだろう。
「穂月のそういうところが気に入ったのよ」
「だから穂月ちゃんに元気になってほしいです」
二人は「ね~」と顔を見合している。
責任などではなく、好きな相手の為に何かをしたい。それが自分の妹に向けられた気持ちなのだから、大星としても嬉しくないわけがない。
「ああ、なんだ……、今晩にでも、オマエらさ、穂月のとこに連れてってやろか?」
大星が照れくさそうにそう告げると、二匹の耳がぴょこぴょこと忙しなく動いた。「急にどうしたの?」「ホントにいいの?」とでも言っているようだった。
事実を説明できない以上はバニーガール姿などもっての外だが、ウサギ姿ならば問題無いだろう。周りの目がある時間帯では傍から見られた時に不審に思われてしまう恐れがあるが、面会時間外にでも忍び込めば可能なはずだ。
せっかく穂月のことを好きになってくれたのだ。せめて顔くらい見せてやりたい。大星はガラにもなくそんなことを思ってしまった。
「言っとくけど穂月の前で喋んなよ? 普通、ウサギは喋んねぇんだからよ」
そう釘を刺すと、二人は元気よく「はーいっ」と返事をしてみせたのだった。